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28話★お父様からの手紙と新たな決意

ジェニーを家に送り届け、リリとルルーとともに家へと帰る。帰る頃にはもう随分と太陽も傾いて、山の端へと顔をかくしていて、帰ったら夜ご飯だろうという時間帯だ。


馬車が家の前へと止まると、リリが馬車の扉を開けてくれる。それにお礼を言ってから馬車を降りる。馬車から降り、歩き出すと、ルルーが馬車の中からパタパタとその羽を動かして飛び、私の肩の辺りに来てから、声を発した。


「レベッカ ルルー カタ シツレイスルネ」


ルルーの言葉に私は頷く。ちゃんと断って、私が頷いてから乗ってくれるところ、ルルーは紳士だと思う。


リリと共に家へと入ると、廊下をパタパタと走る音が聞こえ、アンナが駆けつけてくる。アンナはニコッと笑って、頭を下げる。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


「アンナ、ただいま!」


「ご夕食が出来ていますし、お風呂も沸いております。如何なさいますか?」


「では、先に夕食を食べてもいいかしら?それから、なのだけれど、鳩も食べられるものはあるかしら?」


私が肩に止まるルルーを見てそう言うと、アンナは少し驚いたような顔をして、それから、ほわっと顔をほころばせた。アンナは、確か、先日のクッキーの包み紙や厨房に花を飾ったりすることからわかるように、可愛いものが好きだったから、動物も好きなのだと思う。アンナのルルーを見る目がキラキラしているもの。


「そちらの方は?」


「あ!アンナは初対面だったわね!こちら、伝書鳩のルルーよ。マーク公爵から預かったの」


そうだわ、私がルルーから手紙を貰った時、アンナはいなかったわね。


私が紹介すると、肩にとまっているルルーもその羽を腕のように器用に曲げて礼をしてみせる。そしてカタコトではあるが丁寧に挨拶をしてみせた。


「ワガナ ハ ルルー ヨロシク 」


その様子を見てアンナは顔をさらにほころばせた。というより、もうアンナはルルーにデレデレだ、と言った方がこの状況を如実に表しているだろう。


「ルルーさんとおっしゃるのですね!可愛い……!」


「……ルルー カワイクナイ カッコイイ」


キラキラとした瞳のアンナとは対照的にルルーは少し不服そうであったが。


その後、鳩が食べられるもの、ということで、穀物や豆類をあげることになった。


アンナは夕食を盛り付けたりなど準備をする為に食堂へ戻り、私は部屋着に着替えるために一度リリとともに部屋へ戻ってから、着替え、その後、食堂へと向かった。


アンナの作る夕食はやはりとても美味しくて、笑顔いっぱいになった。ルルーも夕ご飯に満足したようで嬉しそうな顔をしていた。


それから、ゆっくりとお風呂で温まり、そしてリリに髪をとかしてもらう。もうこれは毎日の日課のように行われる恒例行事である。リリには本当に感謝しかない。


そして、今日からは私の部屋にもう一人住人が増えた。ルルーである。家に何故かあった鳥かごを見せるとルルーは大層気に入ったので一応そこがルルーの定位置となる予定だ。


全体的に深い青色に塗装されたそれは、さながら物語の一ページに出てきそうなかごで、この部屋との相性も良い。なので、私はその鳥かごを窓際に吊るして使うことにした。しかし、その鳥かごは定位置とはなるが、扉は開けたままにする。扉を閉めていたら閉じ込められている感がしてルルーも嫌だろうと思ったからだ。


「あ、お父様からお手紙を受け取ったのだったわね」


リリに髪をとかしてもらいながらルルーを見て思い出す。今日の昼間にルルーから預かったのだ。


「そうでございましたね!私がお預かりしていましたね。御髪を整え終わりましたら取ってまいりますね」


「ありがとう、リリ」


それにしても、お父様からの手紙か……。


当たり前のことだが、お父様とは、国外追放されてから1度も会っていない。最後に見たのは、苦しそうでそれでも笑って見送ってくれたお父様とお母様の姿。


お元気かしら……。



★★

リリは私の髪をとかし終えると、「少々お待ちください」とことわってから手紙を取りに行ってくれた。


そして、その手紙が今、私の手にある。


緊張、するわね……。

手紙を見ると、心臓がどきりと音を立てる。


手紙には宛先や差出人の名前はない。でも、手紙を裏返すと、封筒を封じているのは、間違いなく我が家の家紋がかたどられた赤色の蝋。いわゆるシーリングスタンプだ。


その蝋は少し形が悪くなっていた。


筒に入れるために折り込んで小さくしたからか、と思ったが、蝋を乾かしてから入れただろうから違う、と思い直す。そして、気づく。ああ、これは、封蝋をしたお父様の手が………震えていたからだ、と。


お父様はきっと…………。


「………お父様……」


それを見ていると、こちらの目頭も熱くなってきて、視界が少しぼやける。手紙もカタカタカタカタと震えている。


違う、手紙が震えているんじゃないわ。

私の手が震えているのよ……。


……かなり遠方からのもらい泣きね……なんて。

……泣き方も一緒ね……なんて。


ふふ、いくら離れていても親子は親子ね。


そうやって少し違うことを考えてみる。だって、そうしないと多分、私の目から洪水が漏れ出すもの。


まだ、手紙、開いてもないのに!!

そう、まだ、手紙、開いていないのよ!!


それに、ここで泣いたら私、今日、何回泣いているのよ。ほんと、涙脆くて困っちゃう。16歳ってこんなに涙脆かったっけ??


あ、私は前世があるから、生きているのは37年だけど……。


というか、まだ、泣いていないわよ!!まだ、目が潤んでいるだけだもの!!


誰が聞いているわけでもないのに、そう自分で自分に言い訳してから、そっと手紙の封を開けた。


手紙を開けると、そこには、懐かしい文字。お父様は決して達筆ではない。どちらかと言えば文字は下手な方だ。


でも、温かみがあって、どこか安心するような文字を書く。表面上は怖い公爵と言われているけれど、内面は柔らかく、温かい。それを表したような文字だ。


それを噛み締めながら、そっと手紙をなぞる。ゆっくりと読み進める。手紙を見た時点で涙腺が緩みに緩んでいたが、内容を読み出してからはもうダメだった。


私を心配する言葉。

私を励ます言葉。


温かい言葉に、つーっと頬の輪郭にそって伝うのは温かいもの。ポロポロととめどなく溢れるそれは手元の手紙の文字を滲ませる。


そんな私にリリは何も言わず、そっとハンカチを差し出した。


「ありがとう、リリ……」


そして、手紙はお父様たちや国の近況報告へと移る。そこには、思わず涙も吹き飛ぶ事が書かれていた。


先程までのしんみりムードから一転だ。


涙を流すのも忘れて、その文字を何度もたどる。


そこに、書かれていたのは、


国王が崩御されたこと、だ。


「……え?!」


病気で伏せっているとは聞いていたが、国王陛下がこんなにも早く……。


そして、次の文を読むと、その後のことが書かれていた。今は国民全員が喪に服していること、どこの国にも通達されたこと、次の王に、私の元婚約者フラン・スミス殿下がなったこと、王妃にはクレア・フローレンス嬢がなった事が書かれていた。


そうか……まあ、順当に行けばそうよね。ここに来て、本来なら私が王妃だったのに、とかそう言う未練はない。だが、あの人が国王で大丈夫かしら、とは思うが。


だって、お父様、言っていたもの。周りの貴族がフラン殿下……いや、もうフラン陛下か……を操っている……あー、言い方、悪かったわね……えっとー……陛下にたくさん助言している?って聞いているから……。


それに、クレア嬢……こちらも、クレア妃か……も正しいことをできる人だけれど、気が弱そうだから……。


少し頭が痛くなった……が、どうすることも出来ないので、その辺はお父様に任せよう。まあ、私が王妃になっていたとしてもちゃんと務まっていたかはわからないけれども。


ともかく、私も国外追放された身ではあるけれど、前国王にはお世話になったから、祈りだけでも捧げさせて頂くことにする。


それから、手紙は私が出ていったあとのことが書かれていた。


お父様への罰則ということで、領地が減らされそうになった事。


領民が、次の領主を聞くや否や嫌すぎて、領主が変わる前に、お父様の残りの領地へみんなまとめて引越しをしようとしたこと。領民同士も仲がいいから、引っ越した領民を、残りの領地の領民が受け入れる、みたいな現象が起こったらしい。


そんなこと、ありえんの!?と驚いたのは私だけか?!無謀すぎやしないか!?うちの領民、そんなに行動力あったっけ!?ってか、そんなことしたら、領民も罰せられるよ!?


と思ったが、なんとか領主であるお父様が取り持って……何故、罰則される者が罰則する側と自分の領民の間を取り持っているのよ……なんとかそれをおさめたらしい。


そして、お父様の領地は、お父様の味方の貴族の取りまとめによって減らされずに済み、領地も領民もそのままだそうだ。誰一人犠牲者も出なかったらしい。


その文をみて、ほっと安堵の息をはく。


そして、手紙の最後は、私のこれからの元気を願う言葉と、愛する娘と言う言葉で締めくくられていた。


読み終わる頃には涙も吹っ飛んでいた。

内容が衝撃的過ぎて。


「……お嬢様……?」


私が、手紙を折り、手紙を置くと、リリが遠慮がちに声をかけた。きっと、泣いたと思ったらいきなり驚き、そして、落ち着いたと思ったらまた驚いたのだからリリも驚いたのだろう。


「大丈夫よ、リリ。リリにも伝えておかなければならないわね。国王が崩御されて、フラン殿下が次の国王になったそうよ」


「そうなんですね」


あら、反応薄い……。私が不思議そうな顔をしていると、


「お嬢様、わたくしはお嬢様が大切なのであって、お嬢様を追いやった国などどうでもいいのでございます」


あっけらかんと言い放つリリ。


「リリ、それ不敬よ!?」


私が慌てて言うが、リリは、


「ここにスミス王国の者はいませんから、聞かれてなきゃ問題ありません」


そーゆー問題か!?


「そういう問題です」


あら、声に出てた!?


「出てはいませんが、分かります」


心読むのやめて下さい……。


そんな波瀾万丈な感じで……言うほどじゃないかもしれないけれど……手紙開示は終了した。


ちなみに、アンナにも伝えたが似たような反応だったことを追記する。


それから、アンナとリリにも、家族に手紙出す?と聞いたが、「大丈夫ですよ、国を出た時から私はお嬢様について行くときめておりますから」と異口同音で、断られた。


それを聞いて、アンナとリリの覚悟を知った……。


「私も甘えていたらダメね」


せっかくルルーを預かったけれど、お父様への手紙はあれっきりにするわ。たしかにお父様の言葉は温かいし、このまま続けたい。


でも、いつまでも温もりに縋っていたら、前に進めないもの。

ありがとうございました!

今後ともよろしくお願いします!


本日はレベッカの本当の意味での覚悟の日でございました……。


ルルーはどうなるかって……ちゃんと大丈夫ですよ!


【次回の更新は、3月25日予定!】

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