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1話★目覚め

スッと意識が浮上するのを感じた。

それに従い、ゆっくりと目を開ける。


すると同時に視界に現れるのは、薄い桃色の天蓋。背中に触れているのは、ふわふわとした柔らかな感触。ここは、自分の部屋だ、と理解する。


あれ、私、どうして自分の部屋に……。


そう考えていると、


「お、お、お嬢様!!お目覚めになられたのですね!!」


と少々けたたましい、いやだいぶ騒がしい声が響いた。そちらに目を向けると、目に涙を沢山ためた自分のメイド、リリの姿が。


リリのこんな姿、初めて見たわ。


彼女は、本名をリリア・レイシーという。私が小さい頃にこの屋敷にやってきて、私の世話をしてくれている。


私より少し年上のリリはいつもは、重要なのでもう一度言う、いつもはしっかり者で、私はお姉さんのように思っている。


今の姿を見たら説得力なんて無いかもしれないけれど。


「身体はいかがですか?痛いところ等ございませんか?目眩や頭痛等は大丈夫ですか?」


矢継ぎ早に質問するリリ。

こんなに慌てたリリは本当に初めてだ。


「リリ。私は、大丈夫よ。ありがとう」


私が起き上がろうとすると、リリはそっと手を貸してくれる。

私は、大丈夫なんだけどな。


私の答えに眉を下げるリリ。


「本当に大丈夫なのですか?」


「ええ、大丈夫よ。ねぇ、リリ。私はどうしてここに?」


私が尋ねると、リリは、少し考え、


「パーティで倒れられたのでございます……」


と少し言いにくそうに答えた。


パーティで、私は自分の前世を思い出していた。それから、頭が割れるように痛くなって……。そうか、あの後私は倒れたのか。


「そして、わたくしと従者がお嬢様をお屋敷へお連れしました」


「そうだったの。ありがとう」


私が言うと、リリは首を横に振る。

それから、リリは俯いて口ごもるように言葉を発する。


「感謝されるようなことはありません。あの、お嬢様……」


「何かしら?」


私が答えるとリリは顔を上げた。その顔にみるみるうちに怒りが現れる。今日は感情の変化が忙しいな、リリは。


「わたくし、聞いてしまいました。お嬢様と王太子殿下のこと……!」


そうだった、私、婚約破棄をされたのだったわ。前世の記憶を思い出したことが強烈すぎて忘れていたわ。


こんなことを言っては不敬にあたるかもしれないが、現実の王太子殿下が、ゲームの中とあまりにも違いすぎて幻滅したからもう未練はない。


王太子殿下は、もう少し分別のある方だと思っていたのだけれど。


そんな私をよそにリリはさらに続ける。


「お嬢様!わたくしは王太子殿下が信じられません。なんですか、あの態度は!ただでさえお嬢様という婚約者がいながら、あのような娘にフラフラと!!」


リリは両手をギュッと握り、そう言った。


「リリ、不敬になるわよ」


「お嬢様はよろしいのですか!!」


「よくは、ないけれど……」


よくは、ない。

公爵令嬢としての面目は丸潰れだ。

それに、王家としても有力な協力者であり後ろ盾でもある公爵家の面目を潰した。でも、それだけだ。


「クレア嬢もクレア嬢ですわ!王太子殿下の婚約者はお嬢様ですのに、ヘラヘラと!!」


私自身の心が傷ついたわけではないので大丈夫だ。元から恋心はないし。

私の代わりに怒ってくれているリリの手をそっととる。


「私は大丈夫よ」


私がリリを安心させようと微笑むと、リリはブンブンと大きく首を横に振った。


「お嬢様……!お嬢様はお優しすぎるのですわ!」


声を大きくしてそう言うリリ。


「そんなことないわ」


ええ、態度に出していませんが、最初に婚約破棄を言い渡された時は怒鳴りそうでしたもの。


まあ、どうしようもない、とすぐ諦めましたが。そして、その直後に前世を思い出し、それどころじゃなくなったし。


それに、私の物言いがキツめなのは性格の問題だし。今は転生前の性格に引きずられているようですが……。


「私は知っています!お嬢様が誰よりも勉強をし、王妃になる為に頑張っていらっしゃったこと。そして、クレア嬢に対しても決して傷つけるようなことなどなさっていないこと……」


だが、リリは私の手をぎゅっとさらに握り、そう言う。


ほんと優しいなぁ、リリは。


「ありがとう。心強いわ。わかってくれる人が1人でもいれば、私は嬉しい」


その言葉に、リリはさらにぎゅっと手を握る。ちょ、ちょっと痛いかなぁ……。


「覚えておいて下さいませ。わたくしは、何があってもどんなことがあっても、ずっとお嬢様の味方です」


「ありがとう」


私がそう言うと、やっと手を離してくれる。心配してくれるのも味方でいてくれるのもだいぶ、とっても本当に嬉しいけれども、少し力加減をして頂きたかった。


心の中で、盛大に掴まれた手をさする。もちろん心の中で。それ、効果あるの?って言われるかもしれない、実際、効果は、うん、ない。気休めだ、気休め。


「それに、旦那様だって、分かっておられます」


とリリが言う。そう言えば……


「そうだわ、お父様は?」


私が尋ねると、リリはハッとしてから、顔色をサッと青く染めた。


「あ!お嬢様が起きられたら知らせて欲しいと申しつかっていたのでした!忘れてました!!」


忘れられる公爵って一体……。


「い、今すぐ呼んできますわ!」


「いいえ、私が行くわ。そうすれば、多少行動が遅くても私が準備に手間取ったからという理由を使えるわ」


何しろ、病み上がりですし、多少手間取っても大丈夫だろう。それに、動けるなら自分からお父様に会いに行きたいし。


「わ、わかりました!では、1度お着替えになりますか?」


リリは少し慌てつつもそう尋ねる。

今私が着ているのは、ネグリジェ。

つまり、パジャマだ。


「ええ」


そう言うと、リリは頷いてからパンパンと手を叩いた。すると、ドアを開けてやってくるもう1人のメイド。彼女も私付きのメイドである。


名前をアンナ・カーリーという。おっちょこちょいでドジだが、素直で優しい子。


周りの人は「しっかりしなさい!」って怒るけれど、私は彼女の結構このドジなところも好きだ。まあ、1人前になってほしいって気持ちは私にもあるが。


アンナは、その大きな瞳にうるうると涙を溜めている。


「お、お、お、お嬢様ー!大丈夫でございますか!!」


なんかデジャブ。さっきもこういうこと、なかった??と思いつつリリの方を見ると、目をサッと逸らされた。

あ、自覚はあったのね。


「アンナ、私は大丈夫よ?」


「でも、お嬢様ぁぁ!!」


わんわん泣くアンナに、どうしようか困っていると、リリが、


「アンナ、お嬢様のお着替えをご用意して」


と言ってくれた。

なんかやっと普段通りのリリって感じがする。いつもしっかり者のリリがあんなふうになったのは。それだけ、心配かけていたってことね……。


アンナはリリの声に、ハッと我に返り涙を拭うと、


「は、はい!ただ今!」


と返事をした。それから、パタパタとこの部屋にある、私のクローゼット……と言っても、小さな部屋みたいになっていて所謂ウォークインクローゼットなのだけれど、に向かおうとする。


「アンナ」


「はい」


私の声に振り向くアンナ。


「ありがとう」


「はい……!」


それから、アンナの持ってきてくれた服に着替えて、1つ深呼吸をする。


これからお父様の部屋へと向かうのだ。私は何も悪いことはしていない、そうと分かっていても怖いものは怖い。自分はどうなってしまうのか。


でも、隣国で平民として暮らすのもそれはそれで楽しいかもしれない。なんてったって、私の前世は日本の普通の大学生だもの。


くよくよ悩んでも仕方ないわね。とりあえず、この廊下を歩く間、思い出した前世やゲームの内容を改めて整理してみようかしら。


そう思いながら、廊下へと踏み出した

読んでくださって、ありがとうございます!また、来週の土曜日に更新致します。


よろしくお願いします( *¯ ꒳¯*)

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