26話★公爵の書斎にて
マーク公爵に勧められて、先程と同じようにソファにつく。私とアンディ様、ジェニーが並んでソファに座り、その向かいにマーク公爵とウィル先生が座る。
「それで、話なのだがね……本棚をどれくらい設置する予定かを知りたかったんだ。たくさんの本を置くならそれなりのスペースが必要だろうと思ってね」
そうマーク公爵が言うと、私は先程の庭での話し合いで出た、アンディ様の話を思い出し、アンディ様に目配せをすると、アンディ様は少し驚いたような顔をしてから、ふいっと視線をそらされた。少し朱がアンディ様のほおにさす。
そんなアンディ様の様子を少し不思議に思ったが、どうやらアンディ様には私の意図がちゃんと伝わったらしく、
「それなのですが、先程、1ヶ月に一度など定期的に置く本を交換すればいいのでは、と思います」
と言った。
「なるほど……確かにそれなら色々な本をスペースを気にせず並べられるね。でも、それなら、読んでいる途中にその本が引き上げられてしまってはいけないから、気をつけなければならないねぇ」
「あ!それなのですが、ジェニーが図書館制度を取り入れればいいのでは、と意見を出してくれました」
そう私が言うと、ジェニーは少し緊張した面持ちのまま、こくんと頷く。
「なるほど……それなら、家に帰ってからでも読めるか……」
マーク公爵はふむふむと頷いて見せた。それから続けて、
「では、そちらの制度もしっかりとしたものをつくっておかなければならないね。誰の元にどの本が行っているのか分かるようにしないとね」
と、顎に手を当て考えるようにして言った。すると、ジェニーが今度は遠慮がちに手を挙げて、
「貸出期間などもあった方がいいかもしれません。一人の人が本を独り占めするってことがない方がいいと思うのです」
と意見を述べた。
「うちの省庁の管轄である、王立図書館では司書がいて、図書館内の全ての著書を管理しているんだけれど、確か、その仕事の中に、貸し出しなどの記録があったはずだ。魔法研究所が作った魔法具を利用して記録しているんだと思う」
ウィル先生がそう言う。
おお、ファンタジック!機械がない代わりに魔法具を使うんだ…!ちょっと興味ある。でも、小さな学校に魔法具なんて貸したり売ったりしてくれるのだろうか……?
その問いに答えてくれたのは私の向かいに座るマーク公爵だった。
「可能性はなくはないが、多分無理だろうねえ。魔法省は魔法の技術が漏れるのを嫌うからね。特定のところとしか取り引きをしないさ」
なるほど、技術の漏洩とかあるのね……。と言っても魔法が使えなければ技術を知っていても魔法具を作れないような気がしないでもないが。
機械は却下かぁ。
「では、やはり手書きで対応するしかないのでしょうか?」
そう私が問いかけると、マーク公爵は頷く。
「多分そうなると思う」
「でも、誰が記録をするの?先生?」
そう、ウィル先生が問いかける。そうよねぇ。記録係がいる。教師が休み時間に受付をする、という流れは確かに一番良い方法かもしれないが、そうすると教師は一日中その本棚の周りにいなくちゃいけなくなる。それはそれで大変だと思う。きっと、他にもすることがたくさんあるだろうから身動きが取れないと困る場面も出てきそうだもの。
そうやって悩んでいると、アンディ様が今度は声をあげた。
「生徒自身がすればいいのではないですか?机かなにかに表のようなものを置いておいて、かりる人が自分でその表に名前を記す、というものです」
「なるほど……でも、それなら自己申告制になってしまうから、表の書き忘れなどが出るかもしれない……。あ、こういうのはどうだい?生徒が交代で係をするっていうのは。アンディが言うみたいに表を机に置いて、その席に図書係に座ってもらうんだ」
マーク公爵がそう意見を出す。
なるほど、係か!前世でもあったわね。
確かに交代制なら一人に片寄ったりしない分、誰かがずっとしなきゃいけないっていうこともない。
それに、係活動は、責任感や自己肯定感、自己有用感などを育てるのにいい。役割を全うすることで、やらなきゃいけない!っていう使命感を感じることができるし、自分はちゃんとできる!と感じることができる。
そういう訳で、学級文庫の貸出制度は図書係をつくって仕事を任せる、に決まった。
それから、「本棚は教室の壁に三つくらい付けたらいいかな?」とマーク公爵が尋ねる。
「そうですね、それくらいがいいかと思います」
「細かい配置は実際に配置する時に考えるとしようか。これから椅子や机、そして黒板を発注することは決まったけれど、他に必要なものはあるかい?」
と尋ねられるが、特に思い浮かばない。ジェニーやアンディ様、ウィル先生も特に無さそうだ。
「では、ひとまずはこれで行こうか。新しい事業だから国王陛下には報告しておかなければならない。報告が終わり次第、発注をしようか」
そうか、国王陛下にも承認してもらわなければならないのか……。まだ、道のりは長いねぇ……。
あ!それから、前々から思っていたこともマーク公爵に伝えておかなければならないわ。
「はい!それから、実際の教育現場を見てみたいのです。なので、教会の勉強会などを見学したいのですが……」
「それなら、教会が孤児たちに少し勉強を教えているところがあるからそこに行けるようにしておこう」
マーク公爵がそう言ってくれた。
「それから……よろしければ、王立サンフラワー学園の方も……」
と言うと、マーク公爵は、真隣にいたウィル先生の方向を向く。それに習うように、私、アンディ様、ジェニーとその視線を追う。その視線を浴びたウィル先生はたじろぐ。
「え、あ、僕……!?……えっと、僕的には見学は構わないと思うけれど、父上に聞かなきゃ正式には無理かなー。それに、父上は結構頭が固い人だから、陛下に承認を貰ってからの方がいいかもしれない」
四人の視線を受け、たじろいでいたウィル先生だったが、建て直し、そう説明してくれた。なるほど、ルキア公爵に聞かなきゃならないのかー。それから、何事も国王陛下の承認があって初めて成り立つんだな、と改めて思う。王政だからねぇ。
「ウィル先生、ありがとうございます!」
私がお礼を言うと、ううんと首を振るウィル先生。そして、その後を引き継ぐように、今度はマーク公爵が口を開く。
「では、今後の流れとしては、もう少し計画として詰められるところは詰めることと、教会で見学をすること、それから、国王陛下に報告する、と言ったところかな。教会へは私が連絡を入れるから、返事が返ってきたら、レベッカさん、ジェニファーさんにも知らせるよ」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
わあ、見学、楽しみだなー。
それから、今日はここまでにしようと言う話になり、お開きになった。私はジェニーとともに、マーク公爵たちにお礼を言ってから、来た時同様、馬車でジェニーと共に帰る。
馬車の停められているところに着くと、いつの間にやら現れたリリがスっと馬車のドアを開けてくれる。私に預けられることになったルルーもリリの肩にとまっている。
「ありがとう、リリ」
「あ、ありがとうございます、リリさん……」
来た時同様、ジェニーは怖々といった様子で馬車へと乗り込む。
「私までこうやって乗せてもらって、本当に恐れ多いです……」
ジェニーはそう、少し申し訳なさそうに言う。そんな謙虚なジェニーに、私は首を横に振ると、
「私が無理を言って来てもらったんだもの、送るのは当たり前だわ!ね?」
と言う。私の計画のために来てもらっているのだもの。行き帰りくらい遅らせて欲しい。ってか、当たり前のことだと思うよ、うん。
そういったことを力説すると、ジェニーは、少し顔を緩ませて
「ありがとうございます……」
とお礼を言ったのだった。
「大丈夫、これからも打ち合わせの時は絶対迎えに行くからね!」
これから慣れるよ!!
✤次回予告的な✤
次回は、あの人の独白(?)いってみよーのこーなーです。
少し時間を巻き戻して、アンドレア様とレベッカが話している時の、ある人サイドのお話です。裏で何が起きていたか、みたいな感じです。
よろしくお願いします!
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【次回の更新は3月23日予定!】




