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25話★ウィル先生の想いは

その視線の先には、私の隣に立つ人物が写っていた。


その、切なげな視線は、それから、本当に一瞬だけ、苦しいような表情になった。嘘かなと思うくらいの一瞬、でも、確かに見た、どこか傷ついたような表情。


ウィル先生は、それから目を伏せる。顔に落ちるのは、悲しげなそれでいて諦めたような黒い影。風に合わせて花びらが舞い、ふわりとウィル先生にかかり、どこか幻想的な雰囲気さえ感じる。


そんなウィル先生の方を見ていると、その視線に気がついたのか、ウィル先生もこちらを向き、パチリとあった視線。すると、ウィル先生の切なげな視線は一瞬で人懐っこそうな笑顔に変わった。


彼は、先程の話し合いの時のように顔をほころばせて、こちらにやって来る。


「レベッカ嬢はさっきぶりー!レアちゃんはいつぶりだろー?」


先程の表情なんて微塵も感じさせず、明るいトーンで挨拶をするウィル先生。レアちゃんは、アンドレア様のことかな。


アンディ様はディちゃん。

アンドレア様はレアちゃん。

どうやら後ろの二文字を取っているらしい。


「……さっき昼食の時会っただろ、そして、その愛称はやめろ……」


そんな調子のウィル先生に、アンドレア様は眉を顰めてそう言う。


「えー、いいじゃん、いいじゃん!みんなして僕のつけた愛称、嫌がるんだからー、酷いよー」


「……酷くないだろ……」


「だって、必死に考えたんだもん」


「……必死に考えた割には……クオリティ低くないか?」


アンドレア様は、ウィル先生と一緒だと、表情が豊かだ。主に、眉を顰めていたり呆れたような表情も多いが、心から嫌がっているようには見えず、仕方ないなぁ、というような感じである。この二人、タイプは違うけれど、仲がいいんだ、と伝わってくる。


というか、ウィル先生の方が、年上だよね?なんか、アンドレア様の方が年上に見えるんだけれど。


なんて考えていると、


「ねぇ、レベッカ嬢はどう思うー?素敵な愛称だよね?」


いきなり振られる私。


「……え……えっと……」


「ほら、レベッカ嬢が困ってるだろ……」


とアンドレア様が言うと、その時、タイミングよく、アンディ様の声が聞こえた。


「レベッカ!兄上!ウィル先生!」


声の方を見ると、アンディ様とジェニーがやって来ていた。少し早足でやってくる二人。


「あ!アンディ様!それに、ジェニー!!」


「ハンカチ、ありましたか?」


やって来たジェニーがそう尋ねる。アンディ様も、どこか浮かない顔をしている。


そうだわ!私、ハンカチが飛ばされたからここへ来たんだった!!アンディ様とジェニーに心配をかけてしまったわ!!


「ええ、大丈夫よ!遅くなってごめんなさい!」


私はハンカチを見せながらそう言うと、ジェニーは、「良かったです」と笑ってくれた。でも、アンディ様はその後も思案顔である。


「……アンディ様?」


「……え、あ、ごめんね!大丈夫」


アンディ様の方へ近づき、顔を覗き込んで声をかけると、彼はハッと我に返って、スッとレベッカから目をそらすと、そう返事をした。アンディ様の頬がポッと赤くなっている。


「……?」


いつもと様子が違うアンディ様に少し不思議に思っていたが、


「それで、ウィル先生はどうしてここに?」


とアンディ様自身が話を変えてしまったので聞けなかった。


そう言えばそうだ、ウィル先生は教材作りをしに行っていたはずだ。アンディ様の言葉に、ウィル先生は、思い出したように声を上げた。


「あ、それだ!!忘れてた!マーク公爵が伝え忘れたことがあるから、ディちゃんと、レベッカ嬢、ジェニファーさん、そして僕に、時間ができたら来てくれないかって伝言」


「それ、大事な要件なのではなくて……?」


私がそう言うと、ウィル先生は、テヘッと言う言葉がピッタリな顔をして謝る。


「ごめん、ごめん……!早速行こうかー!レアちゃん、またねー!」


ウィル先生がそう言うと、アンドレア様は無表情のまま、こくんと頷くと、また、花に向かって世話を始めた。


ウィル先生は、そんなアンドレア様にぶんぶんと手を振ってから__アンドレア様は後ろを向いてしまったため見えていないがウィル先生は気にした様子はない__、私たちの方へ向き直ると、「さあ、行こう!」と笑った。




★★


「ウィル先生はアンドレア様と仲良いのですね」


歩き出してから、私が口を開く。アンドレア様の様子からウィル先生には心を許しているように見えた。


すると、ウィル先生は、


「僕の家とレアちゃん、ディちゃんの家は昔からの知り合いだからねー。特に、僕は教育省大臣の家系で、貴族の学園の教師をしていたこともあったから。そこで、レアちゃんの担任だったんだよん」


と言った。


教育省の話が出てきたので、ここで少し、この国の制度について説明しておこうと思う。


まずこの国は、王が支配する王政の国だけれど、その下には、宰相や側近、近衛兵などがいる。それから、それぞれ役割を与えられた各省庁がある。日本で言うところの文部科学省や財務省、総務省等などのようなものだ。


先程でてきた、教育省もケイラー王国の省庁の一つだ。ここは、名前の通り、主に教育関係の仕事をしている。少し前に出てきた、貴族の通う学校である王立サンフラワー学園や、王立図書館はここの管轄だ。ケイラー王国では、ウィル先生の実家、ルキア公爵家が代々大臣、つまりこの教育省のトップを担っている。今の大臣は、ウィル先生のお父様がしているらしい。


それから、マーク公爵家は、何回か出てきているが、外交、つまり外国との関係や国家間同士の対話の調整などを担当している。この省庁は、外交省と呼ばれる省庁である。つまりアンディ様やアンドレア様のお父様、マーク公爵は外交担当の大臣というわけだ。そして、この大臣もマーク公爵家が代々受け継いでいる。


その他には、


財政省。ここは、その名の通り、財政を扱う。納税や予算などお金を扱う仕事は大体ここが担っており、銀行と王を結ぶのもここの仕事だ。


軍事省。ここは、主に国の兵力を扱っている。王を直接護る近衛兵以外の騎士団などはここに所属している。また、警察もここの所属だ。


そして、魔法省。これは、この国ならではの省庁だ。ここは、主に魔法全般を担っている。宮廷魔術師など宮殿で働く魔法関係者や、魔法を使えるもの、つまり国王の親戚筋などが多くここに所属している。魔法の一切合切を取り仕切る省庁というわけだ。そして、ここの管轄施設に、王立魔法研究所というものがある。この施設では、その名の通り、魔法の研究が行われている。なお、この研究者には、魔法を使えない者もいて、魔法に興味があって、研究したいという意思があり、国王に認めてもらえればここに所属できる。


それから、聖務省(せいむしょう)ここは、宗教関係のあらゆることを取りまとめている。聖職者が多く所属している省庁だ。ケイラー王国は、自然の神様を崇拝する国であり、神様関係は大抵のことをここが担っている。神殿の管理や、地方にある教会との架け橋としての役割をしているのだ。


そして、これらの各省庁の取りまとめ役として、議長というのがいる。この仕事は、年に何回かある省庁会議の議長を務める。各省庁の意見を聞き、それをまとめ、宰相や側近、国王に伝える、というものだ。


先程出てきていた、教会だが、ここは、国や国王とは一定の距離を保つ、また違った権力をもつものだ。地方に必ず一ヶ所はあり、領民に教えを説く。また、孤児を預かったり、彼らに勉強を教えたりすることもある。


国王、宰相、側近、そして各省庁があることで、政治は成り立っているのだ。


「では、ウィル先生はいずれは教育大臣に?」


私が聞くと、ウィル先生は頷く。


「そうだねー、いずれは……。王立サンフラワー学園で教師をやって、それから、父の仕事を手伝って、認めて貰えたら、だけどねん。今は父の仕事を手伝っている最中なんだー」


それを聞いて、レベッカは、サッと青ざめる。だって、それって、今は仕事を覚えている最中で、とてもとても忙しいってことじゃないか!


「大丈夫だったんですか!?そんな忙しい時期に私たちの計画に付き合わせてしまって……」


「ぜーんぜーん!学校作り、興味あるしー。それに、君たちの作る学校は直轄的には僕らの管轄じゃないけれど、教育って言う面では関わりがあるしねー」


ウィル先生は、首を横に振り、笑顔でそうこたえる。ウィル先生って優しい方なんだなぁ。


「ありがとうございます!」


「いえいえー」


私がお礼を言うと、ウィル先生は、パチンとウインクをしてそう返してくれた。


そうこうしている間に、家の前へと着いていた。マーク公爵家の庭は本当に広く美しかった。


庭から帰ってきた面々、つまり、アンディ様、ウィル先生、ジェニー、私の四人は、家の中へと入り、マーク公爵の部屋を尋ねる。


ウィル先生がコンコンとノックをすると、中から「どうぞ」と声が聞こえた。私たち四人は部屋の中へと入る。すると、中ではマーク公爵が笑顔で待っていてくれた。


「よく来てくれたね。呼び出してすまない。それで、話、なのだが……」

本日もありがとうございました!


✤設定紹介のこーなー✤

本編中で出てきたこの国のシステムを分かりやすくまとめたいと思います!覚えてなくても今後の物語に支障はないと思いますが、一応……。(あくまでこの世界のシステムですので、現実とか歴史とかとは違うところもあります)


✾国王

国の頂点。絶対的権力を持つ。全ての決定権を持っている。

✾宰相

国王の政治の補佐をする。国のNo.2。国王の弟など国王に近い血筋の者がなる事が多い。

✾議長

年に何回かある会議での議長。後に示す、各省庁の意見をまとめ、国王や宰相に意見を伝える。国王からの命令を伝えるのも仕事。上からも下からも言われて一番しんどい役どころ。

✾近衛兵

国王直轄の兵であり、国王の身辺警護にあたる。


[省庁]

✾外交省

外国との関係を取り持ったり、交渉をしたりと外交を担う。マーク公爵家が大臣を代々引き継ぐ。

✾教育省

教育関係全般を担っている。ルキア公爵家が大臣を代々引き継ぐ。王立サンフラワー学園、王立図書館はここの管轄。

✾財政省

予算や納税などお金の業務を担う。銀行の元締めもここ。

✾軍事省

国の兵力を扱う。騎士団などがここに所属。警察も。

✾魔法省

魔法関係全般の仕事を担っている。宮廷魔術師や、魔法関係者が多く所属。王立魔法研究所はここの管轄。

✾聖務省

宗教関係の仕事をしている。教会との架け橋はここが担っている。神殿の管理とかもしている。聖職者が多く所属。


✾商業組合…本編では出てきていませんが、商人が所属する。商人の労働組合的な。


✾教会

自然を祀る。国王とかとは少し離れている。一定の権力あり。今は国王と仲が良い。(いい関係を保っている)


という感じです!

長いのに読んでくださってありがとうございます!


【次回の更新は3月22日予定!】

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