21話★ルルーと手紙の行方
ドアを開ける。静寂。
ぶつかるのは真面目な空気。
その空気にすら圧倒されそうになりながらも、レベッカは「失礼します」と挨拶をしてから、部屋へと足を踏み入れた。
後ろから、ジェニー、アンディ様、そしてリリも挨拶をしながら部屋へと入るのが見えた。
部屋の中央、座席に座るのは、いつもの朗らかな顔ではなく、仕事の顔をした、マーク公爵その人。すっとこちらを見据えている。
だが、レベッカと目が合うと、少し優しく笑ってくれた。そんなマーク公爵に緊張しながらも、挨拶をする。
「ご機嫌よろしゅう、マーク公爵」
「やあ、レベッカさん、そして、君がジェニファーさんかな?」
レベッカを見た後、私の右側にいたジェニーに声をかけた。ジェニーは、
「……っ!…はいっ!お、お初におめにかかりますっ!わ、私は……!ジェ、ジェニファー・オルティスと申します」
「初めまして。私が、アンドリュー・マークだよ。よろしくね」
「……は、はい!」
そう挨拶をした後、マーク公爵は私たちの方へとやって来て、ソファに座るように私たち3人に勧めてから、向かい側に自分の腰を下ろした。
リリはそっと私の後ろについてくれた。少し安心する。
「ありがとうございます」
そう言って座ったソファは柔らかくて上質なものだった。でも、なんか、身体全部を預けることは出来なくていつもよりさらに姿勢よく座る。
隣を見るとジェニーも同じようにカチッと音が出そうなほどの座り方だ。
アンディ様はいつもと変わらない感じだ。まあ、相手はお父様だしね。息子だからって甘やかすわけじゃなさそうだけれど。
緊張したような面持ちの私たちに、マーク公爵は、公爵としての仮面を外したように柔らかい表情で苦笑する。
「レベッカさんもジェニファーさんもそんな怯えた顔をしないで?私は鬼じゃないよー?」
どうやら緊張していたのがバレていたらしい。
その言葉に、私達は肩をすくめる。
「失礼いたしました……」
「す、すみません……」
謝る私たちに、
「私、そんなにかたいかなぁ……!アンディ!?」
と息子に言う姿には、公爵としての面影は全くと言っていいほどない。
「お父様、としては柔らかいですが、公爵、としてはかたい印象かと思いますね」
「そっかぁー…残念……」
しくしくと泣き真似をする公爵に、ジェニーと顔を見合わせて思わず吹き出してしまった。だが、それにより、少し緊張がほぐれる。
「……と、そんな茶番はおいておいて、はじめましょうか」
時を見計らったようにアンディ様が言う。それに、ジェニーと私が頷き、__マーク公爵は「ちゃ、茶番!?」と少し拗ねていたが__そして、話を始めようとした。
その時。
今度はバサバサと少々騒がしい、音が聞こえてくる。
「……え?」
その音がした方、正確に言うと、書斎の窓側を向くと、入ってくる白いもの。
そして、響く、特徴のあるカタコトの言葉。
「レベッカ!レベッカ!レベッカ ガ キテル!」
ルルーだ。
ルルーは、窓から入ってくると、そのままこちら側に飛んでくる。
そして、彼は、私達が座っているソファの真ん中にある四角いローテーブルにちょんっと止まる。
ルルーは、私の目の前に来て、クルクルと鳴いた。そんなルルーを見て、はっ!と思い出す。
そうだ、そうなのだ!私は、マーク公爵に謝らなければならないのだ。
「マーク公爵!その節は、ご迷惑をおかけして……」
そう言うと、マーク公爵は、すっとぼけたような表情を作った。
「……はて?私はなにか迷惑をかけられたかな?」
「ルルーに私用の手紙を渡してしまって……」
「はて?そんなこと、あったかな?」
再度、マーク公爵は、すっとぼけたような表情のまま、言った。そんなマーク公爵に優しさを感じる。
だって、本来、国外追放された身である私が、祖国の両親とおおっぴらに連絡を取るなんて、あってはいけないことで。
仮にあったとしても、知っていたら、マーク公爵は、本来、咎める立場で。
ルルーはマーク公爵の伝書鳩なのだから、マーク公爵が知らないわけなくて。
それを、わかっていて………知っていて、見逃す、と言っているのだ、彼は。
「……お優しいんですね、マーク公爵……」
思わず目頭が熱くなった。私が思わずそう言うと、マーク公爵は、茶目っ気たっぷりに微笑んだ。
「私?私は優しくないよ?だって、公爵としてはかたいらしいから。それに、これは、ルルーがしたことだからねぇ。伝書鳩のことだもの、誰も咎められないよ?そうだろ?」
優しい言葉。
温かい言葉。
だって、伝書鳩が勝手にやったことだから、でまかり通るような案件じゃないもの。所有するものや人、そして動物の責任は全部所有者が持つもの、なのだから。
温かい言葉に、胸が温かくなり、
「……そうですね……」
それしか言えなかった。
「だから、これからも手紙を届けるなら、ルルーに渡しなさい。私は、何も見ていないよ?」
そこで、マーク公爵は1つ、パチリとウィンクを飛ばしてみせる。
あなたは、どこまで優しいのか。
あなたは、どこまで温かいのか。
思わず俯いてしまうと、パサりとまた羽の音がして、つぶらな瞳がこちらを覗き込んできた。思わず少し顔をあげると、不安そうな瞳と対峙する。
「ルルー テガミ トドケタ。 メイワク?」
その言葉に、思わずぎゅっとルルーを抱きしめた。
「……いいえ!いいえ!!迷惑じゃないわ!本当は、すっごく嬉しかったの!!!」
「ホント? コレカラモ レベッカ テガミ ルルー トドケル イイ?」
「こちらがお願いしなければならない立場よ……ルルー、ありがとう、よろしくね」
「マカセテ ルルー テガミ ハコブ シゴト! ドコニデモ トドケテアゲル!」
そう言うルルーを見た公爵は、はははっと声を上げて笑う。それから、
「ルルーは、レベッカさん、君に預けることにしよう」
と言った。
「……え?」
「レベッカさんのことをいたく気に入っているようだからね、ルルーは 。この前の君のお父さんへの手紙の件の時も、帰ってきて早々に「レベッカ テガミトドケル!」とだけ言って出ていってしまったからね」
そんなことが……と思いながら、抱きしめていたルルーを見やると、ルルーは、
「ルルー レベッカ スキ。ヒトメミタトキ ワカッタ レベッカ イイヒト」
と言ってくれた。
「ありがとう、ルルー」
うん、この世界に、ジェニーに引き続き、新たな天使が誕生したようだ。
そう思い、隣に座っている天使第一号を見ると、真剣な顔をしたまま、何か考えていた。
「…鳥さんの方が先に告白してしまいました……」
ブツブツとなにか呟いているジェニーに、声をかける。
「ジェニー?」
「あ、レベッカ様!なんでも無いです!」
ジェニーは、そう、慌てたように言ってから、小さな声で、
「アンディ様、ファイトです!私は、アンディ様とレベッカ様、応援し隊の隊長ですから…」
と言っていた。
アンディ様は何を頑張るの?そう思いつつ、アンディ様の方を見ると、私の左隣、つまり、ジェニーから見れば私を挟んで隣、にいるアンディ様にはジェニーの声は届いてなかったようで、アンディ様は、私と目が合うと、不思議そうな顔をした。
そのため、私が視線をジェニーに戻すが、ジェニーは何を言うわけでもなく、こちらにニコッと微笑みかけるだけだった。
次に口を開いたのは、前の席に座る、マーク公爵だった。
「レベッカさんは、好きな時に手紙を書くといいよ」
マーク公爵が言うと、ルルーは、あっ!と小さく声をあげたあと、
「レベッカ コレ オトウサン テガミ」
と言いながら、くちばしで足元を指す。そこには、この前と同様、銀色の筒が足についていた。レベッカは、その筒をルルーの足から外す。
「ありがとう」
「チャント トドケタ ルルー エライ」
お礼をいうと、そう、胸を張ってルルーがそう言った。
ルルーから受け取った手紙は後で読むことにし、私は、それをリリに預けた。すると、頃合いを見計らっていたであろうマーク公爵は、
「さて、本題にはいろうか。アンディ、そこにある書類を取ってくれるかい?」
拙い文章ですが、読んでくれてありがとうございます!
どうぞ、これからも、学校づくりの行方と、恋愛の行方を見守ってやってください…!
……上手く恋愛フラグ、立てられてるかしら……今後、いや、まだ先ですけど……ライバルも……いや、秘密です!言いません!!
これからも、どうぞ、よろしくお願いします!
✤次回予告的な何か✤
マーク公爵家にやってきた、レベッカ。ルルーの話も終え、ついに学校づくりの話し合いが始まる!!!
さて、学校づくりは上手くいくのか!?
【次回の更新は、3月18日予定!】




