16話★報告会
外に出るとふんわりと暖かい太陽の光がより顕著に感じられる。季節もいいから、花も辺りいっぱいに咲いていて、どことなく甘いような匂いが感じられる。
前世で言うところの春のような季節柄だろうか。まあ、ゲームの世界だからか、あまり季節の変化は感じられないけれど。
そんな暖かい陽だまりの中、私とアンディ様はいそいそと馬車に乗り込み、レベッカの住む家から少し行ったところにあるジェニーの家へと向かったのだった。
ジェニーの家は赤い屋根が目印の可愛い家だ。何度かお邪魔したことがあったから、すぐに分かる。家の前に降り立ち、オルティス家の玄関の扉を数回ノックしてみた。
連絡なしで来てしまったけれど、ジェニー、いるかなぁ。
ノックしてすぐ、「はーい」と声が聞こえ、ガチャりと音を立てて前の扉が開く。扉の隙間から顔を出したのは、たずね人本人、ジェニーであった。
ジェニーは、アンディ様、リリ、そして私の顔をみて、少し驚いたような顔をして、
「アンディ様にレベッカ様、リリさん!?」
「いきなり来てごめんね…」
アンディ様が言う。
「いえ!大丈夫です!!ようこそおいでくださいました!」
ジェニーは首を横に振ると、ニコッと花のような笑顔を浮かべてそう言った。その動作によって、ジェニーの軽く三つ編みにされているダークグレーの髪がふわりと揺れる。
ジェニーと一通りの挨拶を済ませた後、いつも定位置になっている、すぐ近くにあるベンチへと移動する。初めてジェニーと会話した、そして、カイトくんに怒鳴られた思い出のあるベンチだ。
ベンチにジェニー私、アンディ様の順で座ってすぐ、開口一番に、
「今日は、ジェニーにどうしてもお知らせしたいことがあって来たの」
私がそう言うと、ジェニーはパチパチと目を瞬かせたあと、
「私に、ですか?……もしかしてっ…
!」
何かを思いついたように、ぱぁーと顔色を明るくした。多分ジェニーの想像していることと、私の言わんとしていることは同じだろう。
「学校の企画、進めていこうってことになったの!」
私が言うと、ジェニーはさらに驚いた声を上げた。それはもう、エメラルドの瞳を落とさんばかりに見開いている。
「えっ!?そうなんですか!!」
え、あなた、想像ついてたんじゃなかったの?
「……私はてっきり……」
「……てっきり……?」
聞き返すが、ジェニーはぶんぶんと大きく首を横に振り、「なんでもないです……!」と言ったあと、小さな声で何か
__アンディ様がレベッカ様への好意を自覚して、レベッカ様に伝えたかなと思った……__
言っていたがあいにく私には聞こえなかった。アンディ様も隣でクエスチョンマークを沢山浮かべていたから聞こえなかったのだと思う。
「学校の計画、そんなに早く通ったんですか?」
ジェニーが驚いたままの顔でそう言う。そんなに見開いていたら、目が落ちるよ……!ただでさえ、大きくてまあるい瞳がさらにまあるくなっているんだもん。
「そう、昨日申し上げたのに今日にはお返事返ってきたの……」
ほんと、恐るべしアンディパパ……いや、マーク公爵。
「よかったですね!!夢に1歩近づきましたね!」
ふわりと本当に、私でもときめくくらいの笑顔を浮かべるジェニー。エメラルドの瞳が優しく細められ、白い頬も心做しか紅潮しているように見える。花のような笑顔とはこの事だと思う。
「ええ!これからが頑張り時よ!」
つられるように私も微笑む。
「そうですね!力を合わせて頑張りましょう!」
そう言ってくれるジェニーと隣で優しく微笑んでくれているアンディ様の手をきゅっと握り、私は大きく頷いたのだった。
アンディ様があたふたしていたように映ったのはどうしてかな……?
それから、ふと思い出す。
「そうだわ!私、今朝、アンナと一緒にクッキーを焼きましたの。実は、皆さんで一緒に食べられれば、と思って持ってきたんです。一緒にいかがですか?」
私はおずおずとクッキーと包みを取り出す。もちろん食べてもらうつもりで持ってきたのだけれど、いざ渡すとなると何故か緊張する……。
クッキーの包みを取り出すと、ジェニーの目がキラキラと輝いた。アンディ様もどことなく嬉しそうである。
私はそんな2人に包みをひとつずつ渡す。アンナと一緒にせっせと飴玉のように両端を結んだ包みである。
「ありがとうございます!」
「ありがとう!」
二人とも喜んで受け取ってくれた。
「頂いてもいいの?」
アンディ様がそう問う。その姿がどこか小動物っぽくて、うん、可愛い。アンディ様の問いに二つ返事で頷く。
「ええ、どうぞどうぞ!ジェニーも頂いて?」
私の返事にアンディ様はそっと包装のリボンを解く。ジェニーも嬉しそうに笑って頷き、同様にリボンをシュルっと解いた。
「では、いただきます」
ジェニーがそう言うと、はむっとクッキーにそのままかじりつくようにして口に入れ、むぐむぐと口を動かす。アンディ様も続くように口に入れた。もぐもぐと口を動かすアンディ様。
私は、そんなジェニーとアンディ様の姿を見逃さないように見つめる。それはもう、食い入るように。
心情を一言で的確に表すのならば、緊張、が妥当だろう。心臓はドキドキと大きく鼓動を打っている。
そんな私の心情とは裏腹に、ジェニーとアンディ様はキラキラと瞳を輝かせた。
「美味しいです!」
「ほんと!?」
「うん、とっても美味しいよ」
アンディ様もそう笑顔で言ってくれた。いつも優しい大人っぽい笑顔を浮かべているアンディ様だけれど、今は明るい子どものような笑顔。
美味しいようで、良かったぁ!
私も頂くことにしよう、そう思い、自らの包みを開け、1枚口に入れる。
あ、ほんとだ、美味しい。自分の手で焼いたからかな?なんて思いながらクッキーを堪能する。
両隣には大切な友達。
美味しいクッキー。
傍には信頼出来るメイド。
うん、充実しているねぇ。もっと言うなれば、国外追放してからの方が、する前より充実している気がする。
「ほんと、これならいくらでも食べられそうです!」
もぐもぐするジェニーがとても可愛くて、思わず、
「ジェニー!あーん!」
自分の包みからクッキーを1枚取ってジェニーの口元へと持っていく。すると、少し驚いた顔をしたジェニーだったが、直ぐに顔をほころばせた。
「いいんですか…?じゃあ、失礼して……!」
そして、そのままパクッと私の手からクッキーを食べる。
「ありがとうございます、レベッカ様
!………あっ!」
ジェニーは、お礼を言ったあと、何かを思いついたような声を上げ、それから、秘密の話をするように私の耳元に口を近づけると、そっと呟くように、
「アンディ様にもして差し上げてください!きっと、とってもとっても喜ばれますよ!」
それから、ジェニーはニコッと笑った。
「そう?……では、アンディ様!あーん、です!」
私はあまり深く考えずに、ジェニーに唆されるがまま、自分の包みからクッキーを1枚取って、アンディ様の口元へと持っていく。
すると、アンディ様は顔を真っ赤にして固まっていた。
「え、あ、れ、レベッカ!?」
それを見て、同性の友達にするならまだしも、異性の友達にするのは、少々はしたなかったかもしれない……。
なんて行動してしまってから、口元に持って行ってから少し思い、でも、ここで引くのはどうなのかと悩んで、結果、その状態のまま固まる。
身体中の血液が顔に集まっている気がするから、きっと今の私は、アンディ様に負けず劣らず真っ赤な顔をしているだろう。
かくして、お互い無言のまま、片方は直立、片方はクッキーを持ち上げたまま固まる、顔が真っ赤なおまけ付き、という不思議な図ができ上がる。
「………」
「………」
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【次の更新は!3月7日予定!】
もう3月ですか!!!早いですね!!!
また、更新祭りしたいなぁ……
これからもどうぞよろしくお願いします!




