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13話★運命の日

山の端に黄金の光を放ちながら太陽が沈む。辺り一面濃いオレンジ色に輝いてとても幻想的に見える。


そんな夕暮れの中、私、レベッカは、マーク公爵家へと馬車で向かっていた。というのもマーク公爵家で夕食を共にする約束をしたからである。


そう、本日はあの、第一関門を突破するための運命の日である。


馬車に揺られながら、刻一刻と近づいてくるお屋敷、そして運命の時間にレベッカは、はああとため息をついた。


その姿は、全くもって令嬢らしくないが、仕方ないだろう、夢への扉が開くか今日決まるというのだから!!と自分で言い訳する。


アンディ様が、私から話がある、とマーク公爵に先に言ってくれていることだけがせめてもの救いだ。切り出し方とか分からないし。


そういう訳で、夕食後、少し時間を取っていただけることになっている。でも、今思った、絶対夕食の味が分からない自信しかない。


また、はああと大きなため息が出る。何度目かな、ため息つくの……。


「お嬢様、きっと大丈夫ですわ。公爵とて鬼ではありません。ちゃんと話せば聴いてくださいますよ」


ドキドキしている私の横でリリが励ましてくれる。


「ありがとう、リリ……」


「お嬢様は、お嬢様らしく真剣に精一杯向き合えばいいのです」


力強いリリの言葉に励まされるが、心臓がこれ以上ないくらいドキドキとうるさい。今でこれなら、公爵との話し合いの時なんか、


「そうね……でも、口から心臓が飛び出そうだわ」


私がそう言うと、リリは真剣な顔でドンっと胸を叩いた。


「お任せ下さいませ、お嬢様!」


「え?」


「飛び出しましたら、このリリが誠心誠意拾わせて頂きます!」


あまりにも自信満々に言うから吹き出してしまう。心臓を拾うってなによ……!一気に心配も不安も吹っ飛んだわ!


「ふふふっ!それなら、安心ね、ありがとう」


私が笑い出すと、リリは真剣な顔を崩し、茶目っ気たっぷりに微笑んでみせた。


それから少しして、マーク公爵家に着くと、マーク家の執事であろう男の人が門の前に立っていた。所々白髪で初老の感じのいい人だ。


その人は、私リリと共に馬車から降りると、それはそれは綺麗な洗練された形で一礼した。


「お待ちしておりました、アッカリー様」


「お出迎えありがとうございます」


そう言うと、執事は少しシワの刻まれた優しげな目を細めて、優しく柔らかにニコリと微笑んでくれる。


「旦那様の元へご案内しますね」


「ありがとうございます」


執事さんの後ろに付いて、屋敷へと入っていく。


執事さんは、歩きながら、「旦那様や奥様、アンドレア様とアンディ様も、食事の部屋にいらっしゃっていますので、そちらへご案内させていただくことになります」と説明してくれた。


直接食事の部屋へいくらしい。


この執事さん__名前をレイというらしい、「わたくしめのことはレイ、とお呼びくださいませ」と言ってくれたのだ__は、優しく穏やかな方のようでこの屋敷のことなど質問する私に丁寧に答えてくれた。


そして、レイに続いて歩いていくと、目の前に大きな扉が現れる。レイはコンコンと扉をノックし、


「アッカリー様をお連れしました」


と中へと声をかける。すると、少しして中から、合図があり、扉が開けられる。


中には優しげに微笑むアンドリュー・マーク公爵と、無表情の公爵夫人、優しく手を振ってくれるアンディ様、そして、無表情のアンディ様の兄のアンドレア様がいた。


公爵夫人とアンドレア様はあまり表情が顔に出ないので、少し怖い。


でも、アンディ様から、2人は無表情がデフォルトなだけで、怒ったり不機嫌だったりする訳じゃないから大丈夫って聞いているから、大丈夫。


それから、公爵夫人には、今日こそ部屋の家具のお礼を言わねばならないね!


そんなことを思いつつ、スっとスカートを持ち上げて、カーテンシーをする。


「お招きいただきありがとうございます」


「よく来てくれたね、さあ、夕食を楽しもう」


公爵がニコリと笑ってそう返してくれる。私はもう一度軽く礼をしてから、案内された席、アンディ様の隣へと腰掛けた。


そこから夕食が始まったのだが……


はっきり言おう!正直に言おう!


……夕食の味、まっっったく分からなかった!!


その後の行事が不安すぎて!!!


でも、公爵夫人へのお礼はちゃんと言えた!!!


頑張ったな、私!!!今日の使命1つ完遂だよ!!!!


そのお礼の後、公爵夫人から、無表情で、「使いやすさはどうですか?不便はありませんか?」と質問攻めにされたから、なんか怒られる!?って焦ったけれど、


横からアンディ様が、「分かりにくいかもだけど、母上、今、とても上機嫌だよ。レベッカに家具を気に入ってもらえて良かったって顔してる」と耳打ちしてくれた。


いや、分かりにくっ!

どのラインが上機嫌なのだろう……?


公爵夫人は、本当に顔に出づらいらしい。でも、ずっと生まれてきた時から、一緒に過ごしてきているアンディ様が言ってるんだから、間違いないのだろう。


怒られてなくて良かった。


★★


食事の後。私は、アンディ様と共にマーク公爵の元へと向かった。書斎にいるので準備が終わり次第来て欲しいと言われたためである。


リリは書斎の扉の前までは来てくれたが、部屋の外で待ってるらしい。


きっちりと清書した資料を手に、緊張で震える手に力を込めて、書斎の扉をノックする。


「どうぞ」


短い返事が聞こえ、アンディ様と共に書斎へと入ると、部屋の中は屋敷の内装同様美しく品のいい感じであった。


書斎、というだけあって部屋の中には大きな本棚が壁に沿う形で部屋の周りを囲むように、つまりはコの字型に並んでおり、その中には所狭しと本が入れられている。


扉からそのまま真っ直ぐ向かい側、部屋の真ん中辺りにはソファがおいてある。柔らかくて上質そうなソファだ。


そして、それより少し後ろに執務机のような机があり、そこに公爵は座っていた。その執務机には、たくさんの書類が積んであり、公爵の仕事の多さが伺える。


私達のやろうとしていることって、公爵の仕事をさらに増やすことよね?

……これ以上公爵の仕事を増やして大丈夫かな。


……ここまで来たら覚悟を決めるわ!うじうじしたって何も始まらない!当たって砕けろよ!!先行見切り発車は私の専売特許よ、しかも前世からのお墨付き!!


私達が部屋に入ると、公爵は見ていた書類から顔を上げて、


「話とはなんだね?」


優しい笑顔とともに問いかけてくれた。


「マーク公爵、実は見ていただきたいものがございます」


私が言うと、公爵は、きょとんとした顔をして、


「見て欲しいもの?」


と私の言葉を繰り返した。


「はい、これなのですが……」


そう言い、私は公爵に用意してきた書類を渡す。すると、公爵は、書類に目を落とし、


「……これは……」


と言いながら先程の笑顔から仕事の顔になった。真剣に書類を見始める。


「実は……この領地に、誰でも分け隔てなく通える学校を作らせていただきたいのです」


そう私が言うと、マーク公爵は真剣な、こちらを射抜くような視線をこちらに向けた。父親や私の面倒をみてくれる父の友人としての顔ではなく、ケーラー王国の公爵としての顔がそこにあった。


「なるほど……どうしてか聞かせて欲しい」


射抜くような視線は怖い。でも、ここで負けてられない。こちらも真剣なのだ。


私は、ふうっと1つ深呼吸をしてから、


「最初のきっかけは、アンディ様が「したいことはある?」と聞いてくださった所からはじまりました」


経緯を説明し始める。


前世のことは勿論言えないので、王妃教育を受けるうちに__ということにして__教育に興味が湧いてきたこと、


教育は、誰にでも平等に受けられるようにするべきだと思っていることとその理由、


教育を受けるようになればどんないいことがあるか、


国民のことをしっかり考えるなら作るべきだということ、


そして、何より、私がしたいという情熱。


それらを出来うる限りの、精一杯の力を乗せて言い切る。


その間、公爵は難しい顔をして聞いていたが、私の話が終わると、ふふっと思わず耐えかねたように笑い声を漏らした。


「君はやっぱり、アッカリー家の、エドワード・アッカリーの娘なんだね」


エドワード・アッカリーとは、私の父親、つまりアッカリー公爵の事だ。だが、いきなりのことで言葉の要領が掴めない。


「え?」


「『領地に住む領民のために出来ることは全部したい、彼らは私の家族みたいなものだから』、それが君のお父さん、エドワードの口癖だ」


「お父様の……」


「ああ。考え方もだけれど、君が夢のことを話す姿、そして、その目が君のお父さんにそっくりだね。……君の気持ちはわかった。でも、そう簡単に判断は出来ない」


「はい」


そりゃそうだ。いきなり、「はい、わかりました」と簡単に決められるような問題じゃないことは重々承知だ。


「だから、少し時間が欲しい。この資料をしっかり読んでみるよ」


「ありがとうございます。お願いします」


公爵に挨拶と、お願いをした後、部屋を出る。その途端に、力が抜けた。張り詰めていた糸がふと切れたように、顔が緩む。


勿論淑女として、取り乱したり倒れ込んだりはしていないわよ、ええ。

これ以上、"淑女のイメージ"壊せないもん!


「お疲れ様、レベッカ。僕、本当に何も言わなくて良かったの?」


隣に立つアンディ様が私の顔をのぞき込む。あ、イケメンや、眼福……ってちゃうねん!……謎に突然の関西弁。


「大丈夫です。私が言ったことですから」


そう、私が言ったのだ。私が話すから、アンディ様は隣に立っていてくれるだけでいいと。


最初、アンディ様は「僕も説得に協力するよ!」と言ってくださったのだけれど、


私は、自分の夢は自分で話せなきゃならない、話せないくらいの情熱ならしない方がマシ、そう思うから……。


でも、一人で行くのは怖いから……隣に立っていてくださいとお願いしたのだ。


「レベッカは、語れる夢が、そして情熱があって素敵だね」


アンディ様はニコリと笑いながらそう言ったあと、ボソリと小さく何か___…………羨ましいよ__言ったのだが、よく聞こえなかった。


「アンディ様……?」


「なんでもないよ。ほら、リリさんが心配そうな顔をして立ってるよ」


その言葉にアンディ様の視線を辿ると、リリが眉を下げ、心配そうにこちらを見ていた。


「リリ!心配かけたわね!」


「お嬢様…大丈夫でしたか?」


「ええ、大丈夫よ。とりあえず、今日の使命は完遂よ。あとは……公爵の回答を待つだけ……」


「人事を尽くして天命を待つ……ってやつだね」


「はい…」


やるだけやったから、きっと大丈夫。


うん、大丈夫……なはず!

お読みいただき、ありがとうございます!ブックマークありがとうございます!


今後ともよろしくお願いします!


青い鳥さん始めました→@YunaHanakawa09

宜しければお友達になってくださいませ。



♛新しい?登場人物♛

✤エドワード・アッカリー

レベッカのお父さん。

名前がつきました!!!


登場人物で久しぶりな人がいるので、「いや、誰やねん?!」ってなった方へ…

↓↓↓

♛人物等紹介♛

✤マーク公爵家→アンディ様の家

✤アンドリュー・マーク

マーク公爵家当主。アンディ様のお父さん。

✤アンドレア・マーク

アンディ様の兄。次期マーク公爵。

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