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133話★建国神話劇と宴

愛の化身は言った。ただ一言、「成れ」と──


舞台は厳かな雰囲気で始まった。


時間を考えた成果もあってか、舞台を見に来てくれる人も多い。保護者の方もいるし、そうではない地域の方もいる。その全員が温かい目で舞台を見つめている。


予定では、本祭の午後が1番集客されると見込まれる。


もちろん、私やほかの先生、そしてフラーウム嬢も見に来ている。


愛の化身のふたりが音もなく舞台の中央に現れる。顔がベールに包まれており、姿ははっきりと見えず、どこか幻想的である。


「成れ」


ふたりはそう低い声で言い、静かに手をあげると、同時に下ろす。すると、ふたりが眩しいほどの光に包まれた。ディランが照明を動かしたのである。


愛の化身のふたりは消えるように舞台袖にはける。光の中から今度は4人の影が現れる。神々である。モザイクアートで表現したそのままの姿。


神々の誕生。


ジェニーの衣装も、神々たちの演技もいい感じ!


そこから、ふわりと優しい照明になり、神々が浮かび上がる。神々の衣装が風で揺れている。舞台に出ない子達が小さな木の板で風を送ってくれているのだ。


「我々の愛おしい子達よ。愛の力は偉大なり。想像し、創造せよ」


愛の化身の声のみが聞こえた。これはリルの声だ。すると、やがて風はやみ、少しの静寂が訪れる。


パッと一瞬光が消え、それからパッとまたつく。


「ここが下の世界なのか」


太陽の神が辺りを見回し、それから重々しく言う。


「この世界はほんに、なにもないのう」


海の女神が気だるげに身体を動かしつつ、ため息をついた。


「……私達で作りましょう。それが私たちの創造主が与え給うた試練でございましょう。私はこの世界をおおう水色のベールを作りましょう」


空の女神が優しい声で言う。


「うむ……では、我は、茶色のベールで覆い、そこに緑を育てよう」


植物の神が鷹揚に頷く。アドニス様!いい感じです!!


「では、わらわは茶色のベールが覆えぬ場所に青色のベールを置こう」


「わしは水色のベールの端に赤いベールを置こう」


続いて海の神、太陽の神が言う。


そうやって、空、地、海、太陽ができたのだった。


うちの学校の子達によって紡がれる建国神話はとても良かった。これはお世辞でも贔屓目でもない。とても良かったと思う。


本人が心配していたアドニス様の植物の神役だが、そんな心配なんか嘘みたいにしっかりやり遂げていた。


フラーウム嬢も口角が上がりっぱなしである。


あ、今からアドニス様の見せ場だ!


劇は進み、植物の神が地面を生み出すシーンだ。ここは舞のようなことをする。舞なんて見たこともしたこともないから想像の域でしかないが、衣装のベールを揺らし、ステップを踏むのだ。


アドニス様は刺繍の腕からもわかるようにとても器用な質である。だが、剣術など動くことは苦手なので練習では足のステップに苦労していた。


ユキと一緒に頑張っていたが、上手くいくだろうか……?実は、練習では結局一度も成功しなかったのだ。


隣にいるアンディ様とドキドキしながらアドニス様を見る。


アドニス様がスっと右足を前に出す。アドニス様自身も少し緊張しているように見えた。それから、くるりと回ってみせる。その際、植物の強さを表す様にひらりひらりとベールが力強く揺れ動く。風に舞い上がる。


美しい踊りだった。


「せ、成功した!!」


思わず私は小さく声を上げてしまった。舞台中央で踊るアドニス様の隣に座っていたユキも頬を緩ませている。


それから、ユキが立ち上がり、次はユキと2人で舞う。これまた練習を頑張った植物の神と空の神のパートである。この練習もだいぶ苦労したのだ。


それでも、ユキもアドニス様も最後まで諦めなかった。


少し安心したのもつかの間。


「……っ……」


アドニス様が思わず顔を顰めた。ステップ間違えたのである。本来なら植物の神が左側、空の神が右側で舞うはずだった。だが、アドニス様が反対側に動いてしまったため、このままだとユキとぶつかってしまう。


ハラハラする。大丈夫だろうか。


と思わず手に汗を握ったが、ユキはそんなアドニス様をちらりと見たあと、ふわりと浮かび上がるように飛び上がって、本来アドニス様が着地するはずだった側へと着地した。とても綺麗に、間違ったとは思われないような堂々とした動きだ。


ユキがフォローをしている!


「大丈夫。堂々として」


アドニス様の耳元に近づいた時、ユキが何事かをこっそりと耳打ちしたような気がしたが、こちらには無論聞こえない。


だが、アドニス様には聞こえていたようで、笑って頷いている。


2人で練習した成果か、息はピッタリ。それより何より2人とも楽しそうだ。


そうして、劇はハプニングはあったものの、大成功に終わったと思う。特に2公演目はみんな、慣れたのか落ち着いてできて、アドニス様も失敗しなかった。



劇が終わって、展示もそろそろ終了にしようと校舎に戻ってきた。建国祭はまだ続くが劇はもうクランクアップである。展示はもう数日展示しようかなと思っている。


その分学校も開校できないが、建国祭くらいはみんな休みたいだろうし、いいだろう。


学校に帰ったが、せっかく劇も成功したし、ということでもう少しだけ学校に残り、小さなパーティを催すことにした。所謂打ち上げである。


勿論無理強いはしない。残れる子だけで。


まだ夕方だからもう少しだけいても大丈夫だろう。暗くなる前には帰そうと思う。危ないし。


校舎の机をくっつけて大きなひとつの机のようにする。それから、建国祭の出店で売っていたお菓子やら料理を買ってきて、机の上で広げる。


アドニス様の隣にはちゃっかりフラーウム嬢も座っていた。反対側の隣はユキである。


「みんなそうだけど、アドニス様も頑張ってましたね」


私がそう言うと、隣のフラーウム嬢がこくこくと頷いている。だが、ハッと気がついたように動きを止めた。おそらく私の言葉に賛成するのが嫌だったのだろう。


「頑張っていた」


ユキがうんうんと頷きながらそう言う。


「僕が……その……頑張れたのは、ユキが一緒に練習……してくれたからで……。本番も助けて貰って……。ユキ、ありがとう……」


「……!ううん、こちらこそ」


2人もすっかり仲直りして良かった。


その後も文化祭の話でそれぞれ盛り上がり、どこが良かった、あれは素敵だったと話をした。


そして、そろそろ解散しようとした時、


「アドニス様がいないわ!」


エミリーの言葉に場が騒然となる。


「え!?」


え、さっきまでここで一緒にお菓子を食べていたのに!

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