132話★最終準備
「せんせー、これはどうやって置くの?」
文化祭が明日に迫る中、私達は最終準備に入っていた。まず午前中は展示をする、そして午後からは劇のリハーサルがある。
レーベの言葉にううんと頭を悩ませる。レーベがいう『これ』とはみんなで作った建国の神のモザイクアートのことである。
展示する所は真ん中のみんなが普段授業を受けているところだ。教室の机を全部横にはけて広いスペースを作っている。
どうやって飾るべきか……。紙に布を敷き詰めるように貼っているし、刺繍もしているので結構重量がある。どうするべきか。
「板か何かに貼り付けるか?」
ルカさんがそう言う。なるほど、それもありかも?
「板に貼り付けたとして、どうやってたてる?そのままじゃきっと立たないよ」
アンディ様がそう言う。たしかに。
前世では板に絵と言えば屏風が思い浮かぶ。ジグザグにすることによって直立していた。でもそれだと、貼る時に絵を切らなければいけないのではないだろうか。ちょっと絵を切るのは抵抗がある。
それに紙をどうやって板に貼るかも難しい問題だ。紙に布を貼るものよりももう少し強力な糊がなければ、きっと剥がれてしまうだろう。
それなら、
「紐を通して梁に吊るのはどうかしら……」
私がそう言うと、アンディ様は紐を持ってきてくれた。しっかりした布の紐である。これならきっと吊れるだろう。
「これ、使えるかな?」
「使えます!作品の見えない所に小さな穴をあけて、そこに紐を通してみてはどうでしょうか」
「それなら、これであけるか?」
私が言うと、今度はルカさんが穴を開けるようのノミのような道具を持ってきてくれる。流石にこの世界に穴あけパンチみたいな便利な物はないか……。乙女ゲームだけど、あるものとないものが結構不規則でわかりづらい。どこまでが時代に沿っているのか……。
ルカさんは道具片手に出来上がった作品の方へといくと、もう片方の手で端の方を手で持つ。穴をあけてくれようとしているのだろう。
「穴はどれくらいあけるんだ?」
「そうね……少なすぎたら落ちてきそうよね。でも、多すぎたらかっこ悪いかも……」
いい塩梅にしないと、きっと一点に力が集中して紙がビリッと破れてしまうだろう。でも、穴がいっぱいだとボコボコに見えてカッコ悪そうだ。
「んじゃ、こんなもんか?」
私の無茶ぶりなオーダーに、ルカさんはスっスっと穴をあけていく。目立たないくらい端の位置に開けてくれている。
「ありがとう!」
「おー。よし、お前ら、紐を1本ずつ取って通していけ」
ルカさんは私にニカッと笑って返事をした後、子どもたちに声をかける。子どもたちはそれに「はーい」と返事をしてアンディ様から布の紐を受け取り、一斉に作品の元へ向かった。人数が多いため、直ぐにみんな通し終わる。
「持ち上げるのは僕がするね?」
アンディ様がそう言うと、いつかのカーテンの時と同じ要領でスイっと指を動かすと、ぱあっと光が現れ、絵がひとりでに動きはじめる。アンディ様の魔法である。ものを動かすのは風魔法だったと思う。
紙がスイスイと動き、紐が勝手にクルクルと梁に巻かれる。そして、絵はあっという間に吊り下げられた。
「これ、破れて落ちてきそうで怖いわね」
エミリーが少し心配そうに絵を見つめていた。やはり重量がそこそこあるので、ずっと吊っているとそのうち破れてきそうである。
「……あの……ごめんなさい……」
アドニス様がすっと手を挙げた。
「どうしたんですか?」
私が聞くと、アドニス様は落ち着きなさげにキョロキョロと目を動かしたあと、小さな声で言う。
「……落ちてきそうなら、床に置くのはどうですか?それを少し遠い位置から見るんです」
なるほど……吊り下げるんじゃなくて私達が動くのか。その発想はなかった……。
「それなら机を置いて、その上に乗せれば、周りからも見れるようになるんじゃないかな?教室の1番端に置いて、遠くからみたら全体像がわかるし、近くから見れば細かいところがわかるようにすればいいと思う」
アンディ様が言う。なるほど、と納得していると今まで黙っていたフラーウム嬢が声を上げた。
「少し傾斜をつけてもよろしいんじゃありませんこと?」
傾斜か!たしかに少し斜めに展示すれば見やすいかも。
「あー、それは俺の母上が作ったヘンテコな板の台
みたいなやつがあるから、それを是非使ってくれ」
ということで、机を班を作る要領でくっつけ、その上にルカさんのお母様が作った台をおく。そして、アンディ様が魔法で先程とは逆再生で梁から絵をはずし、机の上に置いた。
斜めにするから滑っていかないように、先程取り付けた紐に小さな石を取り付けた。石くらいならきっと破れたりしないだろうし、破れても酷いことにはならないだろう。
そんな訳で展示が完成したのだった。
★
午後からは劇の子たちのリハーサルである。オープンスクールで借りた舞台と同じところを借りた。その広場では元々、様々な催しが行われるらしく、エミリー達の劇もそのひとつの演目として入れて貰えたのである。
実際の舞台で練習できるのは今日が最初で最後。しっかり感覚を掴まねばならない。
「では1度通してみましょう」
「はーい!」
そして配役以外のことだが、衣装はジェニーが高速で縫ってくれた。私も手伝おうとしたが、邪魔ですと言われた。開始早々に戦力外通告を受けてしまった、情けない。
ライトはディランが引き受けてくれた。普段はイタズラ三昧だが、こういう時は頼りになる。そんなに凝った演出はできないが、見やすく光らせてくれる。
演出は脚本を手がけたレイラが担当している。演技指導にもとても熱が入っていた。
いい文化祭になりそうだ。