129話★不穏な空気
すみません、劇の練習過程を割り込みます。
この後、何話か増えます。
ややこしいことをしてしまい、すみません。
劇の練習が始まってから数日。
私は少しアドニス様を心配していた。というのも、暗い顔をしている事が増えたのだ。
アドニス様を観察してみると、きっと、神々の見せ場である舞で悩んでいるのではないかと思う。
神々がこの世界の土地や太陽などを作った時、舞を舞ったと伝承が伝わっている。なので、劇でも舞を舞うことになったのだ。
1人ずつの舞をし、最後はみんなで舞う。みんなで舞う際、太陽の神と海の神、植物の神と空の神がペアでまう所もある。
先生は私とアンディ様、そしてウィル先生だ。私たちは貴族として最低限の舞は学んでいたから。私の場合、社交ダンス以外に踊れるものはこれしかないが。この国にも私の母国にも神々に奉納する舞というのがあり、基礎はどの貴族子女も学ぶことになっているのだ。
世界は元々ひとつだったので、神話に少し違いがあれども神々の名前や舞など共通しているところもある。
舞の練習はあまり時間のない中行われているため、結構ハードなのだ。
私とアンディ様で植物の神と空の神のパートを舞って見せる。2人の息が揃わないと綺麗に見えないので、お互いの動きをよく見なければならない。
「1、2、3」
アンディ様のカウントに合わせて舞ってみる。普段の社交ダンスも息を合わせることが大切だが、舞とはまた別のベクトルの集中力を使う。
後ろからアンディ様の声が聞こえて少し緊張する。
「集中して」
アンディ様の声が聞こえた。
「は、はいっ!」
そして、後ろから歯ぎしりが聞こえる。音の主は後ろで凄い顔でこちらを睨んでいるフラーウム嬢である。
「じゃ、ユキとアドニス様、やってみて下さい」
ユキとは空の神役をやっている女の子だ。午後クラスで音楽系の家系の生まれの子。リズム感があり、踊りや歌が上手であるため、舞も1番上手だ。
「わかった」
「わかりました」
ユキは姿勢よく、アドニス様は不安そうな顔で前へと出ていく。
「1、2、3」
カウントに従い、2人は動く。だが、直ぐにユキが声を上げた。
「ちょっと待って」
それに従って、練習が止まる。
「今のターン、ズレたよ」
「……ごめんなさい、僕のせいで……ごめんなさい」
アドニス様が謝る。本当に悲しそうで、出来なくて悔しいのだと思う。アドニス様がステップを間違えてしまって一旦練習が止まったのである。それが申し訳ないのだと思う。
アドニス様が苦手とするのはこのターンである。ターンする所のテンポがズレるのだ。
アドニス様が恐縮したように眉を下げている。半ば強引に植物の神をやってもらっているので少し申し訳なくなる。
「大丈夫だよ、アドニス様!」
太陽の神役のフレディがすかさず声をかける。
「もう一度してみる?今度はゆっくりしてみよ!」
それに続くのは海の神役のエミリーである。ふたりはいつもこうやって優しく声掛けしてくれる。
「………」
「……ユキ?」
無言のままでいる空の神役の子にエミリーが声をかける。
「アドニス様だけ別で練習すればいいんじゃない」
ユキが冷たい声でそう言った。
「ちょっとユキ?!」
エミリーが驚いた声をあげる。フレディも驚いた顔をしている。
「だって全然進まない」
「……ご、ごめんなさい……」
ユキが冷たい声で言い、アドニス様がビクッと身体をふるわせる。
「そうやってビクビクしてるのも腹が立つ。ユキ、今日は帰る」
ユキはフンっとそっぽを向いたまま言うと、踵をかえして教室を出ていった。
「……」
アドニス様は眉を下げてそれをじっと見ている。
「アドニス様、大丈夫ですか?」
「あまり落ち込まないでください……」
エミリーとフレディがアドニス様のもとへと行く。
「な、な、なんですの!あのちんちくりんは!!」
そんな3人を横目に、私のとなりではフラーウム嬢が小さな声で憤慨していた。
「ううん、僕が悪いのです。上手く出来ないから……ごめんなさい」
アドニス様が悲しそうにそう言った。こんな顔、させたい訳じゃなかったのに。
劇の練習は不穏な空気です。