128話★お願い
公演数を変更しました
前祭1公演、本祭2公演、後祭1公演→ 本祭2公演
回数を減らしました
(2024/11/8)
文化祭の準備に奔走していたある日のこと。今日の分の作業は終わり、片付けをしたあと、エミリーとレイラがやって来た。
「先生ー」
「ん?どうしたの?」
「あたしたち、劇をしようと思うの」
エミリーは少し自信なさげにそう言った。ダメって言われると思っているのかもしれない。もちろん否定なんてするつもりは無いし、やってみたいという気持ちがあるならば支えたいと思う。まだ1組も出し物をしたいという人が来ていなかったから嬉しい。
展示はもうすぐ完成しそうだなので、劇を練習する時間もきっととれるだろう。
建国祭の期間中、前夜祭、本祭、後夜祭を含めてその後1週間程度学校はおやすみをする予定だ。なので、モザイクアートはこの学校内に展示する。
そして、もし出し物をしたいという人が出てきたら、この前オープンスクールをした場所を借りられないかと思っていた。きっと教会が全てを仕切っているから、教会と、そしてマーク公爵に言えば貸してくれるかもしれない。
「そうなのね。どんな劇?」
「建国神話をしようと思っているわ。レイラが脚本を書いてくれたの。見てもらってもいい?」
エミリーがそう言い、後ろにいたレイラが恥ずかしそうに頬を赤く染めたまま紙を差し出した。予算が増えたため前より紙を多く使えるようになったので、こういった創作活動も出来るようになって嬉しい。
「……これです……。……あの……みんながモザイクアートの時に見ている建国の本を読んで作りました……」
なるほど、あの本を参考にしたのか。
私はレイラが差し出した紙をうけとる。すると、レイラはパッと袖で顔を隠してしまった。あの建国神話にしては量がだいぶ少ないな、と思いながら脚本を読んでいく。
……うん、凄い。
あの膨大な量の建国神話から、必要そうな所だけピックアップして分かりやすく、でも淡白ではないようにまとめられている。すごい。
レイラには要約の才能があるかもしれない。というか、あるんだろう。
「すごい、レイラ!読みやすいし、きっと見ている人にも伝わりやすいわ!」
脚本を読み終わり、そう言うとレイラは照れていた。元々赤い顔をさらに赤く染めて嬉しそうにはにかむ。可愛いね。
「そうでしょう!レイラは凄いのよ!えっへん!」
エミリーがそう言う。友達を褒めてもらえて嬉しかったというのが伝わってくる。そんな君もとても可愛い。
「これが劇になるの、とても楽しみだわ。出る人や配役は決まっているの?」
「神様は、太陽の神をフレディ、海の神はあたし。植物の神はアドニス様にやって欲しいって今頼んでいるところなの。空の神を本当はレイラにして欲しかったのだけど……」
「……ごめんなさい……私……」
レイラがしゅんと小さくなった。そして、少々萎縮している。人前に立つのが無理だとのこと。
「謝らないでー。誰にも苦手なものはあるから!」
エミリーがそう言う。そして、植物の神もアドニス様がまだ首を縦に振ってくれていないため、不確定ならしい。
「そして、カイトとかリルには神々の源である、愛の化身を演じてもらうの」
愛の化身とは、神々を創ったとされる神の源だと言われている。
この世界が成り立った全ての根源は愛だとされている。愛の化身は、何も無いこの世界に降り立った時、4つの愛を生んだ。
火のように燃え上がる熱い思いの愛、水のように生命の源となり育てる愛、風のように吹き飛ばし全ての悪を浄化する愛、土のように強く固まり悪から擁護する愛の4つである。
そして、その愛はやがて神を形づくった。燃え上がる愛は太陽の神に、育てる愛は海の神に、浄化する愛は空の神に、そして擁護する愛は植物の神に。
その神々が国々を創ったのだとされている。
魔法も神々が人に与えたものだ。太陽の神からは火の魔法、海の神からは水の魔法、空の神からは風の魔法、植物の神からは土の魔法がそれぞれおくられた。
以降、王家は魔法を血筋として引き継ぐ。王家の血筋が薄くなると魔力も弱くなる。いちばん強いのは国王で、魔力は次期王である、第1王子に1番継承される。
本当はどの国にも同じだけ愛を注ぎ、魔力も与えたが長い時をへて、信仰は局地的なものになり忘れ去られていった。そのため、魔法が使える国と使えない国が存在するらしい。
その国の成り立ちが載っているのが建国神話である。
もっとも、私が建国神話を知ったのはケイラー王国に来てからだが。スミス王国ではまた違った歴史が語られている。
「あれ?リルは劇に出るの、嫌がってなかった?」
たしか生徒議会でも目立ちたくないと言っていた。大丈夫なのだろうか?
「それがね、カイトが説得してくれたの。それでカイトが出るならいいよって言ってくれた!だから、2人に愛の化身の役をしてもらうことにしたの。そこまでいっぱい出ないから」
なるほど。カイトはどうしてもリルと一緒に出たかったらしい。
「そうなんだね」
「それから、最初の王はワイアットにやってもらいたいんだ!ワイアットは威厳が出せると思う!」
「楽しい劇になるといいわね。マーク公爵と教会にお願いをするからこの脚本、預かってもいいかしら」
「うん!よろしくお願いします!」
その後、マーク公爵とこの辺りの神事を総括している教会、つまりレーベ達がいるところだ、に許可を得たので、正式に劇をすることになった。
多くの人に来て欲しいので、本祭に2公演させて貰えることになった。
練習、一緒に頑張ろう!