12話★資料作成と天使への餌付け
レベッカ視点に戻ります!
それからというもの、学校作りの準備は着々と進んで行った。
ジェニファーさんにも話を聞く機会が多く、どんどん仲良くなり、愛称のジェニーで呼んでいいって許可までもらったし___かなり嬉しい___、
私がジェニーやカイトと仲良くしてるからか、街のたくさんの子供たちから学校についての意見を聞けた。
やっぱりみんな、色々なことを知りたいし、学びたいんだと知った。ちょっと嬉しい。
そして、今は第1関門突破の為の準備を敢行中である。
第1関門___それは、アンディ様のお父様であり、私がお世話になっているマーク家当主アンドリュー・マーク公爵である。
彼に許可してもらえなければ、計画は遂行できない。というのも、彼の領地で行うのならば彼の命令は勿論絶対だし、権限は全て彼が持っている。なので、彼が首を縦に振らない限りは学校作りは夢と消えてしまうのだ。
許可して頂けるように、すっかりお馴染みとなったメンバー、アンディ様、ジェニー、私で、所謂プレゼンの為の資料を鋭意製作中なのである。
プレゼンと言っても、前世のように便利なプレゼン用ソフト、もっと言えばパソコンすらこの世界にはない訳で。資料は全て手書きだ。
ああ、文明の機器が恋しいよぉ!…なんて言ってる場合ではなくて…!
そして、肝心の資料だが、今は、下書き段階。
そして、製作場所は私の滞在するこの家。3人で小さな紙を見つめ、あーだこーだ言いながら良いものを作ろうと必死だ。
ジェニーは家の手伝いもあるのに、その合間を縫って来てくれるのだからほんとうに有難い。神様だ、女神様だ。
「見やすいように、タイトルや項目名の前に印をつければよいと思いますが、どうでしょうか?」
ジェニーがそっとペンを取り、紙に、ほかの文字より大きく書かれたタイトルの横、そして、次に書かれているサブタイトルの前に、ポツリと黒い丸をうつ。
ちなみになのだが、ジェニーは読み書きもバッチリだった。この資料作りを始めた時にサラサラと文字を描き始めたから驚愕した。
いつ学習したの、と尋ねると独学です……と恥ずかしそうに返された。独学でここ迄出来たら凄いと思うよ、本当に。誇っていいと思う。私ならみんなに自慢して周っている。
「いいかんじですわ」
「予算や人数の見込み等、数字のものはグラフを添えるのはどうかな?」
アンディ様がじっと資料を見ながら言った。確かにその方が一目瞭然だしね。
それからアンディ様は、スっと、いとも簡単そうにグラフを書き足してくれた。
アンディ様は、何でも出来るが、その中でも数字系は特に得意なようだ。私はもろ文系なので、理数ができる人は本当に羨ましい!
何はともあれ、心強い味方もいるのだから私も頑張らなきゃ。
「ここの言い回しは、誤解を招きそうなので、こう言い換えればいいのではないでしょうか」
私が、直すべきところに大きくバツを書いてから、その下に新しい文言を書き足す。中々に大きな変更になったが、下書きだから、あとで綺麗に清書するし、大丈夫だろう。
「そうだね、確かに。じゃあ、ここも変えて……」
アンディ様がその下の行も同じように書き変える。言い回し、大切だからね!
こうやって時間を忘れて没頭していると、前世の文化祭を思い出す。クラスであーだこーだ言いながら、企画を取りまとめていた。青春時代だわ〜。
……私、そんなに中心になるキャラじゃなかったけれど。
「ふふふ」
私が思わず笑ってしまうと、アンディ様とジェニーは、紙に向けていた視線を上げ、こちらを不思議そうに見つめる。きょとん、と言う言葉がピッタリだ。
「どうしたの、レベッカ」
「どうしたんですか、レベッカ様」
2人の声がかさなった。
「なんか、楽しいなぁって思ったのですわ」
それから、こんなに何かに集中したの、久しぶりですもの、と続ける。そう言うと、2人は柔らかな笑顔を向けてくれた。
「そうですね!私も楽しいです」
「僕も。何かに集中するなんてこと、今までなかったから」
「それも、こうやって協力してくれる2人のおかげだわ。ありがとうございます。こんなこと頼めるの、2人だけだもの。2人とも、大好きよ」
本当に2人がいてくれなかったらまじめに何も出来ないよ、私。2人はいい子すぎるし、優しすぎる。私は、そんな2人のことが大好きだ。
そう思いつつ、笑顔を向けると、アンディ様とジェニーの顔が赤く染まっていった。
「……ッ……!」
「あら……!」
殊にアンディ様の顔色は林檎のごとくだ。白い肌だから、薔薇色が映えている。
ジェニーは嬉しそうな優しい笑顔だった。
何かへんなこと言ったかな?
そう思いつつ、アンディ様をじっと見つめると、んっっ!っと小さく咳払いをしてから目線をそらされてしまった。
え、何故に?なにゆえ?
首をかしげかしげ、次いでジェニーの方を見つめる。すると、ジェニーは呆れたような苦笑したような顔をしていた。
え、私は何をしたの…?
「レベッカ様、人たらしって思いませんか?」
そのあと、小さく何かを__2人だけ、だなんて、大好き、だなんて。それにあの笑顔__呟いたジェニー。でも、私にはよく聞こえなかった。
人たらし……?言われたことない…けれど。今世、前世の記憶を辿るがそんなことはなかった。
「ないわ」
今世は特に、心の底から悪意の塊である、悪役令嬢だよ?国外追放された悪役令嬢だよ?人たらしとは無縁だよ。
「天然なのですね、もっとタチ悪いです」
ジェニーにまた呆れ顔をされた。最近、ジェニーは、思ったことを遠慮なく言うようになってきたなぁ……!最初はたどたどしかったけど。
思ったことを伝えられるのは、いい傾向だね!それだけ私の事少しは信頼してくれてるってことだし。
でも、天然、とは?
首をひねりひねり考えていたが、いつの間にやら顔色を戻したアンディ様の一言、「レベッカは分からなくていいよ。さ、続きをしよう」で、再び資料作りが始まった。
それから、また、没頭して。
「ねぇ、ここなんだけれど……」
3人で必死に考えて。
「ここは…」
「これでどうかしら?」
「レベッカ様、それ素敵です!」
一生懸命知識を合わせて。
「ここをこんな感じでレタリングするといいかもしれないよ」
「そうですわね!でも、タイトルごとに文字を変えたら読みにくいですわよね?ここは、同じ感じで統一感を……!次のも、同じようにレタリングしましょう」
「いいですね!じゃあ、ここは小さめでいいですか?」
難しい顔して、うんうん唸って。
いいアイディアが出たら微笑みあって。
「できたー!」
「できましたわ!」
「できましたー!」
納得いくものが出来上がった。
3人でふうっと一息ついてから、お互い顔を見合わせて微笑んだ。だいぶ考え込んでいたようで、始めてから結構時間が進んでいた。
自分がこんなに集中できたなんて意外でしかない。教育は、私の興味のあるものだからだろうか。好きなことだと集中できるってありがちよねぇ。
前世でも、授業や宿題、自主勉とかしていたけれど、興味のない科目は5分どころか1分ももたなかったのに、好きな科目や興味のある科目は何時間でもできたもの。
人間の不思議だわぁ。
全て終わった達成感で、3人とも脱力していると、
「お茶をご用意いたしますね」
それを見計らったかのようにリリが優しく笑顔でそう言い、すっとお茶をいれはじめた。部屋にお茶のいい匂いが漂う。
そしてまた、タイミングを見計らったかのように、今度はアンナがお菓子の乗ったワゴンを持ってくる。
「お菓子もございますよ!」
「わあ!ありがとう、リリ!アンナ!アンディ様、ジェニー、お茶にしましょう!」
私がそう声をかけつつ、リリがいる辺りのソファへと座ると、アンディ様とジェニーも後を付いてくる。ジェニーはどこか申し訳なさげだけれど。
まあ、こーゆーの、慣れてないだろうしねぇ…。身分とかに気後れしている部分もあると思う。もう何度かお茶をしているが、慣れることはなさそうだ。
リリもアンナも身分どうのはあまり気にした様子はないが。というか、毎回、中々紅茶を飲まないジェニーにあれやこれやと勧めていて、傍から見れば餌付けに見える……。
そして、私は、というと……
「ほら、ジェニー、もっと食べるのですわ!これもあれもそれもありますのよ!あ、このケーキも美味しいんですの!ぜひ!」
同じく餌付けしている。先陣切って、お菓子を渡しまくっている。
貴族の中には「平民と馴れ合って!」っと癇癪を起こす人もいるかもしれない。でも、平民だからと言って邪険に扱うのは違うと思うから。
それに、彼女は私の夢を応援してくれる同志でもある。
私は自分ではお菓子に手を付けようとしないジェニーの皿にあれやこれやと乗せていく。それに対して、ジェニーは慌てふためきながらもはにかみ、嬉しそうに顔を綻ばせ、それをアンディ様が少し呆れたように見るのがいつものワンセットである。
「レベッカもリリもアンナも渡しすぎだよ……」
アンディ様が少し諌めるように言うが、気にせず乗せる私とリリとアンナ。ジェニーが困っている訳じゃないから、いいではないか。それに私達だって無理な量を押し付けているわけじゃないもん。
「嬉しいです。どれも美味しそうです」
たくさんのお菓子を見て嬉しそうに微笑むジェニー。
そう、こちらとらこの笑顔が見たくてやってるんだよ!ああ、ジェニーたんまじ天使!
ジェニーの天使度に幸せいっぱいになり、微笑んでいると、
「ところで、レベッカ、ジェニファー」
アンディ様から真剣な声音で名前を呼ばれた。その声音から真剣な話をしようとしていることが伺える。
「何でしょう」
「何ですか?」
アンディ様の声に呼応するように私とジェニーも手に持っていたカップやお菓子を置いて、真剣な顔で問い返す。
「こうやって計画は出来たわけだけど、次の段階として父上、つまりマーク公爵に計画を話さなければいけない」
「はい」
「そこで、なんだけれど、実は2日後の夕食、レベッカを誘うように言われた。だから、そこで父上と話を付ける、というのはどうかな」
ジェニファーは一緒には行けないけれど……とアンディ様は申し訳なさそうに続けた。
「私のことは大丈夫です!レベッカ様とアンディ様の手伝いが出来ただけで幸せですから!」
アンディ様の言葉にジェニーがブンブンと首と手を振る。それから、ぎゅっと手を振り上げて、
「全力で応援しています!」
と言った。
「ありがとう」
「ありがとう」
アンディ様と私の声がそろう。
「じゃあ、2日後の夕食までに資料の清書を済ませて、それからマーク公爵と一戦まじえるということで……」
私が言うと、アンディ様は真剣な顔から耐えられないといった風にプッと笑いだした。
「………一戦って……」
だってそれくらいの気持ちなんだもの。
でも、みんなで悩んでめいっぱい考えたこの企画なら、きっと、大丈夫。
さあ、清書頑張るぞ!
ありがとうございました!
今後ともよろしくお願いします!
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♛人物紹介♛
ジェニファー→ジェニー
(ニックネーム?愛称?です!)
✤次回予告的な何か✤
ついに、資料作成が完成し、第一関門へと向かうレベッカ達!
今後どうなるのか?
学校作りは上手くいくのか?
そして、アンディ様の想いは……。
乞うご期待!
【次回の更新は、2月8日予定!】
それでは!
花川優奈でした!




