127話★気づいたこと
ここ数日、フラーウム嬢を見ていて気づいたことがある。それは、彼女はツンケンしているが、決して人を傷つけないこと。そして、実はアドニス様のことが大好きなこと。
一見色んな人に冷たく接しているように見える。でも、相手の話はちゃんと聞く。そして、最近少しずつ慣れてきたらしい子どもたちとも会話をしている。文句のようなものを言いながらではあるが、子どもたちにだって分け隔てなく接していた。
「いいですこと?このハケの端の部分を使うと、とても綺麗に貼れますわ。あ!エミリー、そこ、はみ出していますわ」
「本当ですっ!どうしよう!!」
「こちらで余分な糊を貰いますわ」
「ありがとう、アカシア先生!」
「ふっ!ふふふっ!……あ、えっ……あ、あなたのためではありませんことよ?わたくしが貼った部分が綺麗ではなかったら、わたくしが不器用にみられるではありませんか!それが嫌なだけですもの」
……なんというか、ツンケンとした態度と表情があっていない。
そして、学校の監視だ、私を監視すると言っていたが、ほとんど彼女の視線はアドニス様に向いている。
アドニス様が失敗しそうになった時はよく見なければ気づかれないくらいだが眉を下げるし、アドニス様にいい事があった時はほんの少しだけ口の端が緩む。
これを愛と呼ばずになんと言おうか。
アドニス様には伝わっていないようだけど。
フラーウム嬢の視線と彼の視線があった際、アドニス様はビクッと怯えたように身体を震わせた後、ふいっと視線を逸らしていたから。
アンディ様以外の前では結構ツンケンしているし、眉を釣り上げているが、本当は優しい人なのかもしれない。
「あの、フラーウム嬢……」
「……ふんっ」
……もっとも、私にはとてもとても冷たいが。目の敵にされている……。
だが、要件がある時は、仕方なくという感じだが話をしてくれるし、どうしていいか分からない時は勝手に進めずちゃんと聞いてから進めてくれる。素直だけど、素直じゃない令嬢なのだ。
そして、もう1つ。これは、この活動が始まる前から分かっていたことだけど、アンディ様といる時は、顔を赤くして分かりやすくデレデレになる。いる時といない時のテンションが少し違う。
いるってわかった時は、わかりやすく目を輝かせるし、いないってわかった時は分かりやすく落胆の色が目に宿る。もちろん一見変化がないように見えるが、よく見るとわかりやすいのだ。
そして、アンディ様といつも仲良く話をしている。幼なじみだから、仲がいいのも、気心がしれているのも分かっている。2人にしか分からない2人だけの世界。仲良く話して、微笑みあって仲睦まじい。
それを見ると、私の心がちょっとモヤモヤしてしまう。そこは苦しくて辛い。
『いつか奪ってやるわ。その場所もアンディ様の隣も』
彼女は私と初対面の時、そう言っていた。
きっと、彼女は私がぬくぬくと守られながら生きているのが気に入らないのだろう。
『わたくし、あなたよりこの地であったり、アンディ様のことに詳しくてよ。あなたみたいなこと、わたくしにだってできるわ。あなたの代わりなんていくらでもいるの』
彼女の言った言葉を思い出す。
たしかに、フラーウム嬢は私なんかよりずっとずっとこの土地に詳しい。そして、今の生徒への関わり方をみると、彼女であってもこの学校の制度は成功しただろう。
私がいなくても、きっとちゃんと回る。
私がここにいる意味は何なのだろうか。
私は、必要ないのかもしれない。
そして、彼女はアンディ様の事が好きなのだろうと思う。それはもうわかりやすい程に。
じゃあ……私は?
アンディ様のことをどう思っているのだろう。
どうしてアンディ様の隣にフラーウム嬢がいるだけで苦しいのかな?ただ、いつも優しいアンディ様をとられたと思う、子どもみたいな感情なのだろうか。
分からない、分からない。
……って、ダメだ、ダメだ!
子どもたちの前で暗い顔してちゃ!
「レベッカ先生!」
「なにー?」
ほら、呼ばれた!切り替え!!
カイトに呼ばれて、私ははっと我に返る。そして、呼ばれた方へと向かった。
「どうしたの、カイト?」
そう聞くと、カイトはスっと紙を指さし、申し訳なさそうな顔をした。
「ここの所、色違うの貼っちまった!どうしよう」
「カイトはドジです……」
「……リルは容赦ねぇーなー」
リルがいつものように淡々と言い、カイトは眉を下げながらそう言った。
「そうねー、どうしよう。剥がせそうなら剥がしましょう!紙が破れたら困るから、もし無理そうなら剥がさず、思い切って上から正しい色の布を貼りましょう」
私は悩んでそう言った。
「わかった!」
カイトは頷き、布を剥がそうと試みる。リルは「私も手伝います」とカイトを手伝い始めた。
どうやら大丈夫そうだ。
とりあえず、細かいことを考えてもしんどくなるだけだ。今は文化祭を完成させることを目標に頑張ろう!
ちょっと短めです。
レベッカ、思い悩む……。