124話★コミュニケーション力
建国祭ということで、この国の神々として祀られている自然神の、太陽の神、海の神、空の神、 植物の神のモザイクアートを作ることになった。彼らは建国の神なのである。
ケイラー王国の伝説が載った本に彼らの姿が描かれていたのだ。それを参考にワイアットとレーベが紙に大きく描いてくれた。
ちなみに太陽の神は男性の姿として描かれている。燃え盛る炎のような赤とオレンジの不思議な髪色の長髪をサラリと腰まで流しており、勇ましい顔をしている。
海の神は神秘を思わせる青とエメラルド色の混じりあったような髪色だ。その髪を腰の辺りで緩く結んでいる。どう表現していいかわからないが、グラマラスな姿の美しい方である。こちらは女神である。
空の神は水色と白銀が混じりあったような髪色だった。前世でいうボブの髪型をしている。布を何枚も重なり合わせたかのようなヒラヒラとしたした服を着ている可憐な方である。こちらも女神である。
最後に植物の神は男神であった。緑と茶色の混じりあった髪色で、こちらは短髪だ。がっしりとした体型で、静かな威厳を感じる方である。
その色に合わせて布を貼るのである。糊やハサミは、紙同様、材料を用意してくれると約束してくれた、ジェニーの実家オルティス商会から提供された。
そして、端切れは生徒の中で服飾系のお仕事をしている家から、本当にもう使えなくなった布を譲ってもらった。結構な量が集まった。私は、職員室との間を隔てているカーテンに使ったドレスの布の余りを提供した。
今日は制作を始めて3日目。
本題のアドニス様の様子だが相変わらずである。授業終わり、午前午後両方のクラスの生徒が来ているが、アドニス様に話しかける人はあまりいない。
アドニス様も気後れしているのか話しかけず、チラチラと周りを見ているようだった。
そんなとき、アドニス様に近づいていく人がいた。レーベである。レーベは基本的にワイアットと共に製作の指揮をしている。アドニス様とは今日、初の対面である。
レーベはタッタッとアドニス様の方へ行ったかと思うと、彼の前でいつものほわりとした笑顔をうかべ、首を傾けながら問いかけた。
「ねぇ、君は何君?僕はレーベ!!」
「……ぼ、ぼく?……えっと……アドニスです」
いきなり問いかけられたアドニス様はぽかんとした顔をした後、キョドキョドと目線をさ迷わせながら答えた。だが、レーベは彼のそんな様子を微塵も気にした様子はなく、ニコニコと笑顔のままだ。
「そっかー、アドニスくんかー!アドニスくんはこっちに来ないの?」
「えっ……」
レーベがあっけらかんと言う。そんなレーベにアドニス様は戸惑ったような様子を見せる。すると、レーベは話を続けた。
「あのね、あそこのところ、まだ布が貼れてないのー。僕と一緒にしてくれない?」
「……ぼ、僕なんかでよければ……!」
「ありがとー!いこっ!」
アドニス様が遠慮がちに言ったのを聞いたレーベはぱあっと顔を明るくして、アドニス様の手をギュッと握った。そして、自分が元々作業していた場所へと引っ張っていく。
ちょっと強引ではあったが、アドニス様の表情をみると、頬を赤く染めて少し笑みを浮かべているので嫌ではないのだろう。
貴族と平民だから、身分差がある。それをいとも簡単にレーベは乗り越えてしまった。レーベはきっと身分じゃなくて、彼の胸の辺りに広がる色で判断したんだろうな。
こんな風に手を取り合えるのが広がるといいな。
レーベが連れていった先には、午後クラスのエミリーやレイラがいた。レーベはエミリーやレイラとも仲良くなったらしい。
「エミリーさん、レイラさん!あのね、手伝ってくれる人、連れてきたよ!」
レーベに声をかけられてエミリーとレイラが振り返る。エミリーは、嬉しそうにお礼を言いかけてギョッとした顔をした。
「ありがと……って、レーベ!その子は……」
「うん?アドニスくんだよ〜」
にぱっと笑うレーベ、オドオドしているアドニス様、驚いているエミリーとレイラという4人で無言の時間が流れた。
「レイラ……貴族の子に仕事押し付けて大丈夫かな……」
「……だ、大丈夫じゃない気がするよ……」
レイラとエミリーが話す。レイラはいつものように袖で顔を隠しているし、エミリーはちょっと困り顔をしている。それに対して、レーベはプクッと頬を膨らませた。
「アドニスくん、悪い子じゃないよ?一緒に作品づくりしてくれるって言ってくれたもん」
「……そ、そうなの……?」
「作業、一緒にしてくれるの!?」
レイラとエミリーが驚きの声を上げる。アドニス様はこくんと頷く。
「貴族の子はあたし達と一緒に作業なんかしてくれないと思ってた……」
エミリーがぱちくりと目をまたたかせて言った。
その後は、4人で一緒に作業を始めていた。最初はとてもぎこちない様子だったが、途中からはワイワイ楽しく作業をし始めていた。やはり子ども同士だから慣れるのもはやいのかもしれない。
アドニス様もオドオドしつつも話に参加していて、なんだかいい雰囲気だ。
よかった、少しは打ち解けたかな?
そして、さらに驚いたことに、私が別のところで作業をしているうちに、1人また1人とアドニス様たちの話の輪に他の子が増えていっていた。それも、午前クラス午後クラス関係なく。
「実はね、話してみたかったんです!でも、迷惑かなって……」
エミリーがアドニス様に向かって、そう言った。
「……僕も……みんなと話せて嬉しい……僕なんかと喋ってくれてありがとう……」
「僕なんかなんて言わないで下さいぃ……私たち……勝手にアドニス様が怖い人だと思ってました、ごめんなさい……」
オドオドしたアドニス様にレイラがそう言う。レイラとアドニス様、系統は少し違うが雰囲気は似たものを感じる。ちょっとほわほわした感じとか。仲良くなれるといいな!
多分みんなアドニス様のことが気にはなっていたのだが、近寄りがたかった。でも、レーベが話しかけ、レイラとエミリーとも話し始めたからきっとそれがきっかけになったのだ。
今はワイワイ楽しそうに話している。
それにしても、子ども達のコミュニケーション力恐るべし。そして、初めに話しかけに行ったレーベのコミュニケーション力も恐るべし。
「アドニス、ちょっと打ち解けたみたいだね」
私が楽しそうにしている生徒を見ながら周りにちらばった端切れを一箇所に集めて片付けていると、アンディ様が私の横に来て、端切れ集めを手伝ってくれる。
「はい、そうですね。よかった!!」
文化祭、企画してよかったな!