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121話★子どもには子どもの世界

アドニス様が転入してきた。午後クラスである。ワイアットが午前クラスへと移ったのでそれと入れ替わる形での転入だ。


アドニス様はとても大人しい子であった。大人しいと言うと語弊があるかもしれない。大人しいと言うよりは、ずっと何かに脅えているように見えた。


常にオドオドとしており、こちらが少しでも驚いた顔をしたり戸惑ったりするとすぐに「ごめんなさい」を繰り返す。脅迫的な何かにも似たその行動にどうしていいかわからなくなる。


勉強の方は、特段できるというわけではないが、できないわけでもない。


そして、貴族である彼が平民の中に入っているので、他の生徒たちは彼とどう接して良いかわからないのだろう、生徒たちはどこか遠巻きである。嫌悪的な雰囲気はないが、様子を伺っている。


お姉さんであるアカシア嬢もたまに様子を見に来るが、何か言うわけでもなくこちらを観察して満足したら帰るといったかんじである。


アドニス様がこうなっている原因を知れれば良かったのだが、こちらがアカシア嬢に話しかけようにも、ツンっとした態度を取られてしまうため、できないでいた。だが、こちらから離れるわけでもなく、ちらちら見られている。


話そうと思っても、


「アドニス様……!」


「は、は、はい!な、な、何でしょうかっ」


と返事はしてくれるが、これ以上聞いてくれるなというオーラが見える。


うーん、でも、やっぱり、この学校に来たからには、楽しく過ごして欲しい。別に何が彼を怯えさせているのか詳しく全てを聞くつもりは無いが、普通に話くらいはしてみたいし、少しは何か過ごしやすい方法があればいいなと思う。


どうしていいか分からなくて、いきなり詰んでいる気がする。


そして、アカシア嬢はちょっと怖い。睨まれる。これは、目の敵にされているから仕方ないかもしれないけれど。







「それで、僕のところに来たの?」


「はい、そうです……!」


目の前にはアンディ様。学校が終わった時間、私はアンディ様と2人で教室に残っていた。アドニス様のことを相談するためだ。


自分で考えて、そして行動してもどうしようもない時は、やっぱり方法が間違えていると思う。でも、何が間違っていて上手くいかないのかは客観的に見てもらうのが1番いい。その上でどうするべきか?を考えるべきだ。


そして、アドニス様やアカシア嬢と1番関わりがあるのはきっと彼だ。彼に相談するのが一番いいはず。


「アドニス様はどんな方なのでしょうか?」


「アドニスは……んー……小さい頃から大人しい子だよ。人の家の事情を詳しく話していいか分からないから、理由は伏せるけれど、訳あって、少し大人を恐れている所もあるね」


アンディ様がそう言う。そりゃそうだ。本人が言いたくないのに勝手に聞くのは違う気がする。そして、大人が怖いのか。それであの怯えよう……。


「そうなんですね……」


「外に出るのは好きじゃないと思う。僕が小さい頃はよくフラーウム家に遊びに行っていたけれど、アドニスはあまり一緒にいなかったね。まぁアドニスが小さかったというのもあるけれど」


「そうなんですね。私はどうするべきでしょうか?」


「レベッカは、アドニスに心地よく過ごして欲しいんだよね?」


「はい」


元をたどればそれである。別にアドニス様の心をどうこうしようというわけでも無ければ、立ち入ったことをするつもりもない。今では安心して過ごせていないと思うから、少しでも彼の心が軽くなればいいなと思う。


あとは、少しだけ自信が持てればいいな。彼はとても自信がなさそうに見える。


アンディ様は「なるほど」と言いつつ、顎に手を当てて悩む。


私に何か出来ることはあるだろうか。話しかけてもダメだし、そもそも大人が怖いなら私たちのことも怖いのではないか?


「あの子たちを信じるのがいいんじゃない?任せてみたらどうかな?」


「あの子たちって、生徒たちですよね?」


「うん。子どもには子どもの世界がある。時には大人が入るのも大事だよ?でもね、必要のない時もあるんだ。子どもたちで解決できることもあると思う。あの子たちは、レベッカの自慢の生徒でしょう?信じてみればいいと思うよ」


ワイアットの時もウィル先生に同じようなことを言われた。たしか、適材適所だって。私、成長してないかも……。少し落ち込んだ。


「でも、あの子たち、ちょっと怖がっているように見えます」


「そりゃ貴族の子だからね。僕やレベッカ、ウィル先生なんかも貴族だけど、きっと先生だから何か害なすことはしないと思っていると思う。でも、あの子たちにとってアドニスは未知の貴族だから」


確かに嫌悪感があるって感じではないから仲良くなれないことはないと思う。アドニス様も彼らに嫌悪感を抱いている感じはしない。お互いどちらかと言うと警戒しているのだ。その警戒心だけなくなればきっと。


「なるほど。でもこのまま……」


何もしなければ、きっと。


「いっても平行線になってしまう……ってことだね」


そう。


お互い警戒したままなら仲良くなるのは無理だろう。このまま膠着状態が続くだけ。どちらかが手をさしのべなければいけない。多分一度話してみればそのうち仲良くなるかもしれないけれど、話すのが無理ならどうしようも無い。


何かきっかけがあれば……そう、きっかけよ!


「仲良くなるきっかけを作ってあげるのはどうでしょうか?」


「なるほど。それはいいかもしれないね」


アンディ様が頷く。


話すことが出来ないなら、話す状況を作ればいい。話すきっかけ作りをしてみたらいい。


「なにかイベントをしましょう!学校といえばイベントですもの」


何をしようかなー?


前世の学校には、文化祭や体育大会、合唱コンクール、遠足などなど様々なイベントがあったけれど……こちらにもあるのかな?


何はともあれ、なにか楽しいことがしたい!

第4章開幕です。

よろしくお願いいたします。

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