番外編 ✿ウィルとアンドレアの日常(アンドレア視点)
「レーアーちゃん!」
花の世話をしていると、声をかけられた。相手はルキア公爵家のウィリアム、通称ウィルである。
彼はぴょんと跳ねるように歩いてきたかと思うと、俺の隣に座った。ウィルは跳ねるように動きじっとしていないし、表情もすぐに変わる。とても元気な人である。
そして、俺の先生だった人でもある。彼は王立サンフラワー学園を卒業してすぐ、教育について学ぶための学校に1年行ったあと、今度は先生として学園に戻ってきた。そして、俺が高等コース1年の時から2年間、担任をしてもらったことがあった。今は教育大臣になるための勉強を優先している。
だが、ルキア公爵家とマーク公爵家は繋がりが深いため、よくウィルは遊びに来る。
俺は花に水をやる手を一度止めて、ウィルの方を見る。ウィルの瞳はキラキラと輝いている。動きだけじゃなくて表情もうるさいんだ、ウィルは。
「……レアちゃんはやめろと何度も……」
「いいじゃん、いいじゃん!かわいーでしょ?」
俺は眉をひそめてそう言うが、ウィルはどこ吹く風である。何が嬉しいんだか、ニコニコと笑って俺を見る。このやり取りも何度目だろう。やめろと言葉にはしているが半分諦めている。
「……何か用か?……」
「んー、いーや?マーク家に来たら、偶然レアちゃんが見えたから声をかけただけ〜」
ウィルはニコニコと笑ったまま、そうあっけらかんと言い放つ。
「……そうか」
「あ、声がワントーン下がったね?不服そうー?」
ああ、こいつはすぐに俺を見抜く。担任をしていた時もそうだった。小さい頃から無表情で氷の貴公子と呼ばれることが多い俺の心をいつも感じ取るのはこいつである。
「……そんなことはない……」
「そっかー、でも、僕はレアちゃんとお話するために来てるから〜」
全然俺の言葉を信じていないようで、ウィルはパチリとウィンクをこちらに飛ばしながら、こちらが聞いてて気恥ずかしくなることを平然と言う。
「……」
「えー、無視!?本当は僕が会いに来ないと寂しいくせにー!」
どこからその自信は湧いてくるんだ。
「そんなことはない」
これは断言できた。
というか、ウィルは気づいたらうちにいることが多い。いくら俺の父上と繋がりがあるし、仕事で訪れることもあるとはいえ、マーク家へ来る回数、多くないか。いない方が珍しいんじゃないか。
「あー、またそういうこと言う〜。僕悲しくなっちゃうな〜」
ぐすんと泣く真似をしてみせるウィル。これで俺がまた何かを言うと、すぐに表情を変えてみせるのだろう。
「……それで……本当はなんで来たんだ?」
「聞いちゃう!?実はね、今日はね、父からマーク公爵家への仕事の伝言を頼まれたんだよ。今、ディちゃん達がしている学校の話ー」
そう聞くと、ウィルは答える。ああ、今、弟が頑張っている事業だ。そこで学んだ子達が将来生き生きとこの領地で働いてくれたらいいな、と思う。
そしてこいつの父親は教育大臣なので、教育事業とは密接な関係なのだろう。ウィルもよく学校に行っているようだ。
「……そうか」
「それで、今日はこの後はレベッカ嬢の学校に行くつもり」
「……そうか」
「レアちゃんはこの後どうするの?レアちゃんも一緒に学校行く??」
「俺はこの後、父の手伝いと自分の仕事がある……」
「そっかー、ざーんねんー……!」
プクッと頬をふくらませて言うウィル。子どもみたいだ。これでも、俺よりは5歳年上のはずだが。行動と言動が騒がしい。
まぁ、でも、このうるさいのがいなくなったら、
「……寂しいかもしれないな」
「………レアちゃん!!」
ぱあっと顔色を明るくして言うウィル。嬉しいと顔いっぱいに書いてある。そして、そのままのこちらに突撃しそうな勢いで近づいてきて、俺の肩に腕を回した。
でも、ちゃんと花には気を遣って、当たらないようにしているのがわかる。そういう気遣いはできる人なんだ。
だが、花だけでなくこちらにも気をまわしてくれ。
「……暑い……」
「ごめん、ごめん!嬉しくてつい!!」
ウィルはスっと俺から離れると、舌を小さく出して見せた。不思議と似合っている気もするが、やはり年相応にはどうしたって見えない。
でも、俺の言葉に一喜一憂しているウィル見ると、俺の方が年下だが、可愛く見える気がする。
初のアンドレア(アンディの兄)視点!
アンドレアは無口ですが、心の中は意外と話します。そして、結構辛辣……笑 でも、本人に悪気はなく、思っていることを言っているだけです。
特にウィル相手だと気が緩み、扱いが雑になります。




