番外編✲あべこべでもいい(ルカ視点)
これは、俺とレベッカ様が放課後の学習会を始めて少ししてからの話である。
文字の学習はほとんど終えたから、今はもう歴史や地理、計算も少し難しいものなどを勉強している。当たり前かもしれないが、学校の生徒よりだいぶ進んだことをしていると思う。
最近は様々なことを知れてとても楽しい。世界が少し明るくなった気がする。学ぶことは生きることだなと思う。
今日も放課後、レベッカ様に教えて貰っている。
「なぁ、ここ。分からねぇんだけど」
「どこ?……あー、そこね。そこを因数分解するのよ、ほら」
俺が聞くとレベッカ様は、今教科書代わりとして使っているレベッカ様所有の本をのぞきこんで少し考えたあと、ミニ黒板にスラスラと数式を書いていく。それを俺は横から覗き込む。小さな黒板を2人で覗き込む形だ。
「なるほどな。ありがとな、レベッカ様」
レベッカ様の説明を聞き、納得してそう言うと、俺は再び勉強に戻る。すると、レベッカ様は少し何かを考えるように目線を上に外してから、
「少し気になったんだけれど、呼び方それなのにタメ口ってなんかあべこべな感じ……」
と言った。
言われてみれば、たしかにそうかもな。俺は正直、こいつとの距離感をはかりかねている。俺は少し考えてから、
「確かに……。じゃあ……ありがとうございます、レベッカ様……?」
と合わせてみた。すると、レベッカ様は驚いたような顔をする。何か変だったか?とレベッカ様を見つめながら言葉を待っていると、レベッカ様が応える。
「……そっちに合わせるのね……。それに、なんかそれも変な感じ……」
変な感じも何も合わせろと言ったのはそっちだろう。そう指摘すると、レベッカ様はなんだか微妙そうな顔をする。言いたいことが伝わっていないとでも言いたげである。
「そもそも私のことをレベッカ様だなんて呼ばなくていいんじゃない?だって、私たち似たもの同士でしょ。それに実家も同じ公爵家だし」
似たもの同士というのは国を出てきたということを言っているのだろうか。そして、確かに国を出ているとはいえ2人とも貴族の子だから。
でも、やっぱり俺はアンディ様の従者で、そのアンディ様が好きな人となるとやはり気安く呼ぶ訳にはいかないと思う。これは譲れない。
「いやです。そちらに合わせる訳にはいきません」
「なんでよ……ルカさんの敬語、違和感……。やっぱり元のままでいいわ」
「どっちだよ!」
レベッカ様につっこみをいれると、レベッカ様は子どものように拗ねた顔をする。
「だって、あなたが気安く呼んでくれないんだもの。その上敬語になったらさらに距離が遠くなるわ。……あ、私も敬語にしようかしら」
「それはやめてくれ」
それこそ違和感がすごい。
そういう訳で、公正なる話し合いと攻防の結果、あべこべでもいいんじゃないか、と今まで通りでいくことになったのだった。
本島は本編のどこかで入れたかったお話です。
ルカさんの言葉と呼び方、ずっと気になっていたので。
 




