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118話★ 美味しいは幸せ時間

アンディ様に誘われて、アンディ様の家の庭でお茶をすることになった。


「色々大変だったね」


席に着くと、アンディ様が手ずから紅茶を入れてくれた。私の分と自分の分を入れたあと、自らも席に座る。ふわりと香りの良い紅茶をいれてもらえて気分が上がる。そして、紅茶と共に並ぶ美味しそうなお菓子も。


「怒涛の展開すぎてついていけません……」


「お疲れ様」


優しく労ってくれるアンディ様だが、アンディ様がもあちらこちらと奔走してくれているのだから疲れているはずだ。私は先生だけをしていればいいが、授業に加えて、事業の指揮を執る彼は私なんかより何倍も忙しい。


ワイアットとレーベの件も後処理を色々してくれたのはアンディ様だった。


「ありがとうございます。でも、アンディ様もお疲れ様です」


「ありがとう」


のほほんと笑うアンディ様は全く疲れを出さない。アンディ様はこう見えて体力お化けなのかもしれない。


「さぁ、いっぱい食べてね」


「いっぱい……は食べるとリリに怒られますが、いただきます」


リリの厳しい顔が思い浮かぶ。そして、夕食を食べて貰えなくて悲しい顔をするアンナの顔も。食べすぎないようにしなければ。


でもケーキスタンドに並べられた、色とりどりのカップケーキに、スコーン、マカロンのようなお菓子、そして、クッキーなどなど!どれもとても甘い匂いで美味しそうである。


「……!美味しいです……」


目の前にあった可愛い花形のクッキーを一つとると、口に入れる。ふわりと香るのは甘いいちごの香りが鼻腔に広がり、ついで甘さが舌を楽しませる。でも、甘さはしつこくなくて、程よい。


とても美味しい。美味しいは幸せだ。幸せ時間だ。


「レベッカはとても美味しそうに食べるね。お淑やかに優雅な仕草なのにすごいと思う」


それは褒められているのか……?


でも、まぁとりあえず食い意地を張っていると思われていなければそれでいい。お嬢さまの振る舞いでがっついているように見せず、お菓子をたくさん食べるのは得意だ。


「アンディ様は食べないのですか?」


ニコニコとこちらを見ているアンディ様にもクッキーを勧める。


「僕は大丈夫だよ。君を見ているだけでいっぱいになるから」


お腹が……?


そんな素晴らしい胃をしているのか!いいな、羨ましい。私は食べすぎていつも怒られるのに。


なんて思っていると、アンディ様はスっとカップをソーサーから持ち上げ香りを楽しむ。それから一口。それにつられて、私も紅茶を一口頂いた。香りがふわりと広がって、こちらもとてもおいしい。


「わぁ、この紅茶もとても美味しいです」


「そう?それは良かった。実はお父様が最近貿易を開始したものなんだ」


なるほど!マーク公爵は貿易の大臣だもんね。あらたなものを取り入れたのか。


その後のアンディ様の話を聞くところによると、その原産地に行った際、マーク公爵がこのお茶に一目惚れをしたらしい。それで、どうにか交渉をして、そしてどうにか香りなどが損なわれないように試行錯誤して、ようやく輸入に成功したらしい。


確かにこの紅茶とてもおいしい。マーク公爵が気に入るだけのことはある。


「実はねこの紅茶、ミルクを足すとさらに美味しくなるんだ」


「そうなんですか!」


私はストレートの紅茶も好きだが、ミルクティーも大好きである。飲んでみたい!そう思ったのが顔に出ていたのだろう、アンディ様はクスリと笑う。


「いれてみる?」


「は、はい!」


少し前かがみになるようにアンディ様が立ち上がる。ミルクをいれてくれようとしているようだ。何から何までしてもらっては申し訳なくて、「それくらい自分でやります!」と言ったが、「大丈夫。すわってて?」と優しく言われてしまったらおまかせするしかない。


改めてアンディ様が立ち上がったその時、サラリとアンディ様の胸元からペンダントが滑り落ちる。キラリと青い宝石のようなものが光る。


服の中にいれて付けていたらしいペンダントが立った弾みで服の外に出たらしい。


「……綺麗なペンダントですね!」


思わず声に出してしまっていた。ミルクポットを自らの近くに置いたアンディ様は、私に言われて自分の首元を見る。


「ほんとう?ありがとう」


それから、ペンダントの宝石をそっと持ち上げて、はにかむように笑う。優しげな笑顔に、とても大切なものなのだろうと思った。


「とても綺麗で思わず見入ってしまいました」


「ありがとう」


アンディ様が持ち上げたペンダントの宝石が太陽を浴びてキラキラと美しく煌めく。どこまでも深く美しい青色。とても素敵なペンダントだと思う。


普段装飾品をあまりつけないアンディ様だが、これだけは別なのだろうか。


「いつも持ってらっしゃるんですか?」


「うん。母が、僕が生まれた時にくれたものなんだ。僕を守ってくれるお守りなんだって。だから肌身離さず、ずっと大事にしてる」


なるほど。アンディ様のお母様からの贈り物。一見少し厳しそうな表情をしているが、心がとても優しい公爵夫人を思い出す。


アンディ様はとても愛されているんだなぁ。


「普段はぶつけたり汚したりしないように服の中にかけているんだよ」


「なるほど、そうなんですね」


私が納得したように頷くと、アンディ様はペンダントをまた服の中へと戻した。


……でも、あのペンダント……どこかで見たことがあるような……気がする。気のせいかしら。


なんて少し思ったが、アンディ様とお話をしながらお茶を楽しんでいるうちに忘れてしまっていた。


アンディ様が勧めてくれたミルクティーはそれはもうとても美味しかった。


黄金色の紅茶に絹のような白がふわりと広がり、馴染みのある色になる。少し甘みがたされた紅茶はとてもとても美味しかった。

青色のペンダント、見覚え?聞き覚え?ありませんか……。

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