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117話★溢れる涙と予算の使い道

その後お医者さんに来てもらって、ワイアットの様子を見てもらったが、体が悪いわけではないとの事で、落ち着いたのならもう大丈夫との事だった。


少しすると目が覚めるだろうと言われたので、ひとまず私が借りている家へと連れて帰って隣の部屋のソファに寝かせた。


ここに来る時は、ルカさんがワイアットをおぶってくれた。ありがたい。そして、学校に保健室がないのは致命的かもしれない……。


家にいたアンナとリリにワイアットの看護を任せ、それと同時にルルーにマーク公爵とアンディ様への伝言を託す。おおよそのことを書いたので大体は伝わるだろう。


そして、ルカさんにはワイアットの両親を呼びに行ってもらった。ルカさんには息付く暇もなくあっちに行ったりこっちに行ったりしてもらって申し訳ない。


カイトには申し訳ないけれど日を改めて貰うことにし、帰ってもらった。


私は必要になるかも?とレーベとともに教会へと向かった。レーベがこれからどうするか分からないが、もしレーベがワイアットの弟で、ワイアットの両親がレーベを引き取りたいみたいなことになれば、教会の人にいてもらった方がいいかもしれないと思ったのだ。もちろん、1番はレーベがどうしたいかだと思うけれど。


そんなこんなで、私の家にみんなが集結した。ワイアットの両親、教会の神父さん、そして連絡を受け取ったアンディ様。勢揃いのメンバーが集まっている。


そして、ワイアットの両親はワイアットの様子を見てから、レーベに会った。彼を見た瞬間、2人は泣き崩れた。親というものは何年も会っていなくても自分の子どもだと分かるらしい。


「間違いないわ。私の息子だわ」


「レーベ……なんだな……」


レーベはいきなり両親だと言われてもどうして良いかわからないらしく、緊張しているようだ。


「お父さんとお母さん……なの?」


神父さんの後ろに隠れるようにして両親を見ている。


「ええ」

「ああ」


2人が涙をためて返事をする。それに呼応するようにレーベの目にも涙が溜まっていく。2人がレーベを分かるように、レーベも2人を分かるのかもしれない。


レーベが両親の元へたたっと走っていく。それを2人は受け止めて抱きしめた。抱き合ったまま泣き始める3人。


その時、コンコンとノックがされ、返事をするとワイアットがリリに連れられ、入ってきた。お父さんはレーベをお母さんに預け、ワイアットに駆け寄る。


「ワイアット!大丈夫か!?」


「……うん、大丈夫……」


お父さんはワイアットの身体がどこも悪くないことを確認するように触る。その顔は本当に心配そうだ。


それから家族が落ち着くのを見計らって、私はワイアットの両親とルカさん、アンディ様、神父さんにソファを勧めた。


レーベとワイアットには別の部屋で待機してもらおうと思ったが、本人たちが聞きたいと言ったため、部屋にいてもらった。


そして、ワイアットの両親からは当時の様子を、神父さんからレーベが来た当初の話をしてもらった。


神父さんによると、レーベが教会に置かれた日、つまり来た日は夜で、少し雨が降り始めていたらしい。それで窓と雨戸を閉めに行ったとき、泣き声が聞こえて、行ってみると草の上に布で何重にも布を巻かれて顔も見えない状態のレーベがいたらしい。そして、少し先に馬車のようなものが見えたとのことだった。


教会の中に連れ帰って、布を外すと3歳のレーベが現れた。着ている服にレーベと名前があったらしい。


ここからは推測だが、ワイアットの両親の話と神父さんの話を総合すると、きっと人攫いに攫われたレーベは移動の馬車の中にいた。その中に乗り合わせた誰か、おそらく同じく攫われた誰か、が衣服か何かの布を何重にもレーベに巻き付け、教会の前を通った時、柔らかい草の上を目掛けて放り投げてくれたのだろう。


この子だけでも助かるように、と。


きっと3歳の頃だからレーベには記憶はないだろう。だが、「真っ黒い何かがいっぱいみえた」と語っていた。その後、オレンジが僕を助けてくれたとも。きっとそれは記憶の奥底にあった心の色だ。


ワイアットの両親と神父さんの話が終わった後、


「……あの、あのね……俺、お母さんとお父さんに謝らなきゃいけないことがあるんだ……」


ワイアットは少し悩むように視線をさまよわせてから、決意したようにお父さんの目を見つめた。ワイアットの両親は涙顔のままそろってコテンと首を傾けた。その仕草はどこかワイアットとレーベに似ていた。やはり親子なんだろうと思う。


「俺……俺、知ってたんだ。レーベがいついなくなったか。俺と友達が遊びに行った川に付いてきて……それで……」


なおも言い募ろうとしたワイアットをお母さんが止めた。


「言わなくていいわ。大丈夫だから」


それから、お母さんはワイアットをやさしく抱きしめる。その腕にぎゅっと掴まるワイアット。


「悪い子でごめんなさい」


「悪い子なんかじゃないさ。俺らにとってはワイアットもレーベも大事な息子だ!苦しい思いをさせて悪かった!!」


そう言ったお父さんはレーベとワイアットをお母さんごと抱きしめる。


「こちらこそ、ごめんなさいっ……」


「おにーちゃんは悪い子じゃないよ」


その後レーベが今後どうするか話し合った。ワイアットの両親はもちろんレーベを家に連れて帰りたいと言ったが、急にワイアットたちの家に行くというのは慣れないだろうから、初めのうちは教会とワイアット達の家を行き来することになった。


「レーベ、お家、ふたつだね!」


とレーベが喜んでいたのでとても場が和んだ。


レーベと家族が幸せになれればいいな。





「レーベとワイアットにお願いがあるの」


レーベが教会とワイアットの家を行き来するようになったり、ワイアットが午前クラスに移動したりと少々変化はあったものの、変わらない平和な毎日が戻ってきた。


ちなみに後で事情をきいたカイトは、2人の兄弟が出会えたことに涙をながし、ワイアットが午前クラスに来たことを大いに喜んでいた。そして今やワイアットに話しかける筆頭だ。


ワイアットは、少しずつではあるが表情が戻ってきているように思う。一気にという訳にはいかないが、本当に少しずつ。そして、カイトとも仲良くできているようだ。


そんなある日、私はアンディ様と共にレーベとワイアットにお願いごとをしていた。みんなが帰ったあとの教室で、私とアンディ様はワイアット達と向かい合って座っている。


「お願い?」

「願い?」


2人して聞き返し、コテンと首をかたむける。その様子はそっくりだ。さすが兄弟。一緒にいるようになって更に似てきた気がする。


「うん。あのね、2人には、絵本製作に協力してほしいの」


そう、絵本製作。ワイアットが転入してくる前、図書室を整理した時、もっと分かりやすい勉強の本を作ったらどうかという話になっていた。


予算も増えたので、アンディ様と話し合ってこの予算は絵本に使おうということになったのだ。


その整理の時には、レーベは絵が上手だからレーベに任せたいという意見があった。そして、それなら、ワイアットも一緒に作ったらどうかなと思ったのだ。2人は写実的な絵が上手だ。写真みたいな絵を描く。それが絵本になったらとても素敵だと思う。


その旨を説明すると、


「勉強の本、僕たちが作るの?僕、やってみたい!」


「楽しそう……俺もしてみたい」


と二人の反応は良好だった。そういう訳で絵本作りは2人に頼むことになった。


2人が帰ったあと、アンディ様と2人になった。


「疲れたでしょう」


アンディ様が優しい声で聞いてくれる。その声を聞いていると素直な返事をしたくなる。アンディ様の声は不思議だ。


「はい……」


私は頷きながら返事をした。怒涛のような毎日だった。色々悩んだし、どうしていいか分からないことも多かった。その疲労が今どっと来たような気がする。


「ちょっとだけお茶していく?」


「します!」


なので、アンディ様の優しい誘いにのった。

ワイアットの兄弟編はこれにて終了です。

ありがとうございました!

そして、今度は次のテーマへ……。

よろしくお願いいたします!

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