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113話♧ココロ壊れる(ワイアット視点)

アルビハジャン族、それが俺がうまれた民族の名前。


スミス王国とケイラー王国の国境付近にある森に住んでいた。1つの場所に家を持たず、時期によって住む場所を変えて引っ越す。


移動式の家を持ち運び、馬や牛と共に移動する。そんなに広い範囲を移動するわけではないけれど、森の北と南ではだいぶ温かさや寒さが違うから。


そして、スミス王国やケイラー王国とは違った言語を話す。文字もあるにはあるのだがほとんど使わないし、みんな書かない。この言語を使うのは俺らだけだし、会って話せばいいので、書く必要がないからだ。


だから、俺らの民族は書くのが苦手な奴が多い。その代わりと言ってはなんだが、絵が上手い奴も多い。文字の代わりに絵で意志を伝えることもある。


それに加えて、俺らには特殊な能力が備わっている。それは「人が思っていることが胸の辺りに色で表れる能力」だ。


小さい頃、民族の長老が同じ年代の子を集めて、俺たちの民族の能力について話してくれたのだ。俺が5歳の時の事だった。


俺は初め、信じられなかった。だって、そんな色は見えたことがなかったから。それを疑問に思って聞くと、「民族同士だと、同じ力を持つから相殺してしまって見えない」との事だった。


そして、それを初めて見たのはスミス王国に行ったとき。基本的に俺たちは森から出ないけれど、ごくたまに隣にあるスミス王国にものを買いに行ったり食材を買いに行ったりすることがあった。


それについて行った時、色が溢れて見えた。俺たち以外の人の胸の辺りに、色が見えたのだ。その色は様々で、赤、黄色、オレンジ、ピンク、水色など。綺麗なそれらは、それ一つ一つがどんな気持ちを表すのか、最初はわからなかったけれど、観察していくうちにわかった。


同じ色の人は同じような行動をしているし、表情をしているから。


分かりやすかったのは赤。赤は怒りだ。赤色の人はみんな怒鳴ったり怒りの表情をしている。次に分かりやすかったのは、青と水色、そして黄色。青は悲しみで、水色は焦りや心配、不安など、黄色は喜びである。


悪い人といい人がわかるようになった。


スミス王国でもの売っている店員さんが黄色は黄色でもどす黒い黄色をしていたら、その人は嘘の値段を言っている。いわゆるぼったくりである。


でも、黄色が綺麗な黄色だったりオレンジだったりすると、喜びや親愛などを表しているため、良心的な値段だったり、値段が高くても本当にいいものだったりする。


そうしてみんなは買うものを見分けているのだ。





そんな風に、細々だけど平和に暮らしていた俺らの元に悲劇が起こったのは、俺がその能力を知ってから2年後の7歳の時である。


隣の国、スミス王国がこちらに税金を要求し、そしてそれを断ると、今度は人攫いを始めたのだ。証拠がある訳じゃないけれど、きっと攫っていったのはスミス王国の連中だと思う。人攫いはスミス王国の法でも禁止されているはずだから、違法に、である。


その攫われた中に、俺の弟がいた。というよりも、弟の事件が人攫いの初めだったように思う。


その日は、俺と数人でスミス王国と俺らが住む森との間に川があるから、その川に遊びに行っていたのだ。その川は遊び場が少ない俺たちにとって唯一の遊び場だった。


友達はみんな7歳で、俺と同じ歳だった。4歳以下の子は一人もいないはずだった。4歳以下の子達は心の色の事も知らされていないし、危ないから、森から出てはいけないことになっていたからだ。もっともその当時、俺は理由までは知らなかったけれど。


それなのに、


「なんでお前がいるの?」


俺は思わず大きな声を出してしまった。そこに、自分の弟がいたから。弟は、当時まだ3歳だった。右も左も、ものの善悪も、そして心の色もまだわからない幼子だ。


「………?」


弟は不思議そうにこちらを見たあと、俺の方に「抱っこ!」というように手を伸ばしてきた。どうやら俺たちが遊びにくるのについてきてしまったようだった。


どうしよう、4歳以下は来たらいけないことになっているのに。一旦引き返して、弟を家に置いてくる??


くるくると頭の中で思考が回った。


「おーい、ワイアット!早く来いよー!!遊ぶぞー」


「あ、うん!」


友達の言葉に思考が途切れる。このまま帰ってまた戻ってくるなら、遊ぶ時間が減ってしまう。この楽しい時間が減ってしまうのだ。


今思えばなんて甘かったのだろうと思う。


弟の近くにいて、見張っていたら大丈夫だろう、と思ってしまったんだ。じっとしてて!って言ったらきっと大丈夫だと思ったんだ。


その日俺の弟は、忽然と、本当に一瞬目を離した隙にいなくなってしまった。


俺は森の中を探した。いっぱい、いっぱい探し回った。でも、見つからなかった。


もしかしたら家に帰っているかもしれない、そんなあるはずも無い、一縷の望みを掛けて家に帰っても、やはり居なくて。それどころか、大騒ぎになっていた。


弟がいない!と。


村を上げての大捜索になっていた。その頃は、人攫いが起きたことなんてまだなかったから。


帰ってきた俺に、母が聞いた。


「あの子を知らない??」


と。


「知らない……」


そう、言った。そう言ってしまった。


本当は知っていたのに。俺があの時、弟を家に連れて帰っていたら、こんな事にはならなかったのに。


俺のせいなのに。俺のせいだ。俺が……悪いんだ。


それから、人攫いが頻繁に起こるようになった。周りにいるみんながどんどんいなくなっていく。怖かった。弟も人攫いに攫われたのかもしれないと思った。きっとそうなんだろう。


悲しいし苦しいと思うと同時に、俺の嘘がバレないことを安心する自分もいた。あの時に、きっと正直に「俺についてきてしまったんだ」と言っても言わなくても結果は一緒だと思ったから。


感情が複雑で、どういう感情か自分で消化出来なかった。


だからだろうか、俺は笑えなくなったし、泣けなくなった。心が表情に出なくなった。笑おうとしても、泣こうとしてもピクリとも自分の顔が動かなくなったのだ。

少し伏線を回収しているつもりです……!

更新しなかった期間を含めて約2年ほど前の伏線回収です。

忘れてらっしゃるかも…ごめんなさい……!

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