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112話✲先生っぽくない(ルカ視点)

新たに学校に来た転入生。名前はワイアット。無表情で殆ど声を発することもない。どこか掴みどころのない奴だ。


レベッカ様に聞いた所によると、転入初日にはイタズラと思わしきものを淡々とした様子でしていたらしい。レベッカ様も少し困惑していた。


そして、こいつは毎日授業中に外に出ていく。それも決まった時間という訳ではなく、唐突にだ。


無表情だから何を考えているかはあまりわかんねぇーが、ただ何となく自分を落ち着かせるためなのか、と思える。そして、何となく物悲しくも見えた。


抜け出した後は何をする訳でもなく、決まって庭にあるベンチに座って数分ボーッと空を眺め、気が済めば自分で教室に戻っていく。


それにここ数日俺はついてきている。そのままにもしておけねぇーしな。数分リアムの傍を離れてしまうからリアムには申し訳ねぇが。


今日もいつものように抜け出したワイアットに付き合い、ベンチに座っているワイアットの隣に座る。


すると、ボソリと隣から声が聞こえた。


「ねぇ……聞かないの?」


ワイアットである。ほとんど話さない奴だからこんなに多く話すのかと驚いてしまった。アルビハジャン語が第一言語だろうに、聞こえてきたのはとても流暢なスミス王国やケイラー王国で使われている言語だった。


驚いた様子は表情に出さずに、


「何を?」


と素っ気なく聞いた。


すると、今日のワイアットはよく話すらしく、続ける。


「俺がなんで授業を抜け出すか……とか」


無表情のまま淡々とそう言った。


これは聞いて欲しい、ということなのだろうか?どうしたらいいんだ?


わかんねぇー。そもそも俺は相談に乗るの、そんなに得意じゃねぇーし?相手の心を汲み取るとか、思いやるとか得意じゃねぇー。


そもそも表情に出ていないから、解釈のしようがねぇじゃねぇーか。


わかんねぇから、気持ちをそのまま言うことにした。


「別に……?言いたくないこともあるだろうし、気にしねぇー。あんたが言いたいなら言えばいいんじゃね?聞くし」


「興味なさげ……まぁ、それだから話しやすいんだけど……」


声音が笑うように少し揺れる。


どこか安心したように感じる。あまり積極的に聞いて欲しい!という訳じゃねぇーんだな。深入りして欲しくない。


だけど、言いたくないわけじゃねぇから、聞き流して欲しい。下手なアドバイスとか、忠告はいらねぇからとりあえず話をしたいってわけだ。


その気持ち、わかるような気がしなくもねぇ。


「それはよかった」


「せんせーっぽくないね」


「俺は先生じゃないからな」


「……そうだった」


思い出したように頷くワイアットは、顔には出てねぇが、驚いたんだろうなというのが伝わってくる。


それから、少し黙って迷うように瞳をさまよわせてから、小さな声でポツリと言葉を落とした。言うことを決意したらしい。


「まず、抜け出す理由だけれど……弟を思い出すから」


「ほー?」


こちらには一切視線をやらず、前を向いたまま話している。そして緊張しているのか声が震えている。


そんなワイアットに、なんだか自分を見ているような気がしてくる。自分は出生のことと、母親のことをレベッカ様に聞いてもらったから、決意に勇気がいるのもわかっている。


「俺には弟がいたんだ。生きていたら、今多分あの子達と同じくらい」


あの子達とは学校の生徒のことだろう。5、6歳くらいということだろうか。ワイアットは10歳のはずだから、そこそこ年の離れた兄弟なのだろう。


生きていたらと言うから、生死もわからない状況ということだ。ワイアットは、弟はもう死んでいるものと思っているのかもしれない。レベッカ様とアンディ様から弟の少しの経緯は聞いているため、頷く。


「おう」


「あの子達を見ていると、弟の姿が重なって辛い。俺が顔に感情が出ないのも、その弟が理由だと思う」


それで抜け出すわけか。心を落ち着かせるために。顔には出ていないが、苦しいんだろう。無邪気なあいつらを見ていたら、きっと弟が生きていたらって思っちまうんだよな。


「それから……俺は人を信用できないんだ」


「そうなのか」


俺も似たようなものだが。ここは自分の話をする場じゃねぇーからいわねぇけど。


こくりと頷いたワイアットは前をこちらに目線を合わせることなく続きを話す。


「俺はさ、卑怯だから、どこまで信頼出来る?どこまでならこの人は怒らない?そうやって初対面の人にイタズラのようなことをしかけて、それで反応をみることで何だろう……試す?ことを止められない」


なるほど、それがレベッカ様やアンディ様に対するあの反応か。でも俺はそんなことされた覚えはないぞ?無言のまま座っていることがそれなのか?


それに反応つったって、そんなの限度があるだろ。見てわかる情報なんてほんの一部だろ。心なんていくらでも隠せる。


「でも、反応をみただけじゃそいつの心なんてわかりっこなくねぇーか?」


「わかるよ、俺には。それについて話すには、俺の民族について話してから方がわかりやすいかな……」

サラッとふわっと聞いて欲しい時ってありますよね。気負わず話せそうですよね。

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