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110話★転入騒動

ワイアットが転入してくる日がやってきた。


ワイアットは午後クラスが始まる少し前に、学校に1人で来た。


アンディ様とルカさん、ジェニー、それから私と、ほぼ総出のメンバーでワイアットをお迎えする。アンディ様と私は授業のため、ルカさんはリアムの補助のためにきていた。そしてジェニーは時間が空いていたので手伝いに来てくれていたのだった。


その登校してきた彼の表情はやはり無表情で、何を思っているのか推測できない。


カイトの話だと、心が読めるかもしれないので、こちらの困惑は伝わってしまっているかもしれない。不安にさせたらごめんね、でもこればっかりは隠せないんだよ。


ワイアットを教室まで案内する。


午前クラスが終わり、午後クラスがはじまるまで少し時間があるのでまだ生徒たちは来ていない。なので、私たちとワイアットしかいない状況だ。


「ようこそ、ワイアット。今日から学校ね。緊張しているかしら?」


「………」


ワイアットは無言のまま小さく頷くような素振りを見せた。どうやら緊張しているらしい。


「ここにいるみんなは、この学校の人たちなの。紹介するわね」


「………」


またこくりと頷く。ズラっと並ぶと圧迫感を与えてしまうかもと思い、1人ずつ前に出ながら自己紹介することにした。すっとしゃがんで視線をワイアットに合わせるのも忘れない。


「私は昨日も会ったけれど、レベッカよ。主に文字や文化、歴史などについて教えているわ」


「僕はアンディ。数字や計算などをおしえているよ」


「私は、ジェニーです。お手伝いをしています。ここの学校に弟も通っています」


「ルカ。同じく手伝いをしている」


順番に紹介をすると、ワイアットはこくこくと頷きだけで返事をする。


「もうすぐみんながくるから、その時に紹介するね。自己紹介をしてもらうからよろしくね」


「……はい」


その後、生徒たちが登校してきたので、学級委員のエミリーを呼んだ。


「あたし、エミリー!よろしく」


「……っす」


ワイアットの様子は同じ年代相手でもかわらないらしい。エミリーがにこやかに挨拶をしたが、ワイアットはちらりと視線をやって、小さく礼をしただけだった。


「わからないことがあったら何でも聞いてね!」


少し心配になったが、反応を受けた側のエミリーは気にする様子もなくニコニコしながらそう言った。


エミリーに任せてよかった。


その後もエミリーは積極的にワイアットに話しかけてくれている。


「ねぇ、ワイアットはどんな色が好き?」

「ワイアットは好きな食べ物はある?」

「好きなことはある?」


などなど。カイトに質問攻めにされる前に、エミリーに質問攻めにされている。


「……オレンジと黄色」

「……特には……」

「……絵を描くこと」


ワイアットも反応は薄いが、邪険にせずそれに答える。それに対してエミリーはうんうんと相槌を打ちながら聞いて、また問いかけている。


ワイアットが少しずつでもいいからこの学校に馴染んでくれればいいなぁ。





みんなに紹介をして、ワイアット自身にも自己紹介をしてもらった。自己紹介と言っても、名前を言っただけだったが。


そして、ワイアットを加えて午後クラスの授業が始まった。いつもの通り授業は進んでいく。時に静かに書き取りをし、時に話し合い、みんなでゲームをする。


ガタッ……


静かな書き取りの時間。そこに物音が響いた。机間巡視をしていた私は音の方を見る。すると、その物音はどうやらワイアットが席から立ち上がった音らしかった。何か落としたのかとも思ったが、拾う様子はない。


ただ立ち上がって、じっと一点を見つめている。その様子はどこか異様ささえ感じる。


「……どうしたの?ワイアット??」


ワイアットに近づき、小声で問いかけるが反応はない。彼は無表情のまましばらくそうしていたと思うと、無言のまま教室を出ていってしまった。


「……え!?」


走って去っていくワイアットに思わず呆然としてしまう。周りの生徒たちも、書き取り用の黒板から視線を上げ、ワイアットが去っていった方をポカンと不思議そうな顔で見ている。


そんな中いち早く動いたのは、リアムのそばにいたルカさんだった。


「レベッカ先生、俺が追いかける。あんたは授業を続けろ」


私にそう言ったかと思うと、ワイアットの後を追いかけるようにして、教室を出て行く。


いけない、呆然としている場合じゃなかった。みんなの方を向いて指示をする。


「ごめんね、みんな。みんなは書き取りを続けよう!」


何が起こっているのだろう。転入生入って早々、一波乱ありそうです。

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