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103話★図書館改造計画!2

私とカイトは本棚の前に立っていた。2人で今から本を並び替えるのだ。本当のところを言うと、もう少し人手が欲しかった。だが、そんなこともいっていられないので、ふぅっとひとつ息を吐いて、パシリと自らの頬をたたく。


「頑張りましょう!あ、カイト、ごめんね、リルと一緒じゃなくて……」


後半は少し控えめな声でカイトにだけ聞こえるように言った。そう言うと、カイトはみるみる顔を赤くする。耳の後ろまで真っ赤である。


「なっ!!べ、別に……俺は……」


慌てたようにブンブンと首を振るカイト。リルの名前を出しただけでこうなるのだ。とてもわかりやすい。可愛い恋心である。


「真っ赤になってるー。かーわいー!」


思わずそう言うと、


「か、からかうなよ!リ、リルが何担当だって別に……俺は、俺のできることをするだけだから!」


頬を赤らめたまま、ぷいっとそっぽを向いてしまった。ちょっとからかいすぎたかもしれない。ごめん。でも、言動がイケメンだな、この男子。どうかこの初恋が上手くいきますように。


「ごめん、ごめん。さて、頑張りますか!とりあえず本を全て引っ張り出しましょう。掃除も兼ねて」


「うん。俺はあっちから取り出すから、先生はこっちからお願いする」


「わかったわ」


赤い顔のまま、すっと本棚へと向かうカイトに、私はそう返事をして、カイトがいる側の反対側から本を取り出す。そこまでたくさん置いていないのですぐ出し終わるだろう。


それが終われば、面だし(表紙が見えるように本を置くこと)をする本やぎゅうぎゅうに見えないように一旦引き上げる本を決める予定だ。


そう思いながらせっせと本を取り出していると、反対側から本を取り出していたはずのカイトが、床に座り込んで1冊の本を手に取り、開いている。


これは、本の整理をしている時のあるあるだ。気になった本や、前に読んだ本を片付けの時に見つけて読んでしまう。気持ちはすごくわかるが、これでは進まなくなってしまう。


そう思って声をかけようとすると、


「先生ー」


カイトの方から声をかけられた。


「なにー、カイト」


カイトに返事をすると、目線をこちらに上げて、ちょいちょいと手招きをされる。目がきらめいており、口許は弧を描いている。見て見て!と言わんばかりである。その少し子どもっぽい姿に微笑ましい気持ちになりながら近寄る。いや、子どもなんだけれども。


私が近寄ると、カイトは宝物を見せつけるようにバッとその本をこちらに掲げる。『世界の美食大百科』と書かれたそれは、どうやら食事に関する本らしかった。図鑑よりは薄いが、少し厚みのある本だ。


「この本、俺、初めてみたかも。これもスミス王国の本?」


見せつけるようにこちらに向けられた本をじっと覗き込む。スミス王国とケイラー王国は文字や言語は一緒なので、よく見ないと分からないが、見覚えがあるので私の本だと思う。


「ええっと?……うん、そうだと思う。私が持ってきた本だね」


「読んだことない!読みたい!!!」


私の返事を聞くと、納得したように頷いたカイトは、自分の方にその本を引き寄せると、キラキラとした目でじっと見る。もう興味が全て本にいってしまっている。特にカイトは世界各国に興味がある。その本はきっとカイトの興味にピッタリなのだ。


だが、そんなことをしていたらきっと図書館の片付けは終わらない。ここは心を鬼にせねば。


「カイトさーん」


もう本へと興味が移り、今にも本を読み始めそうなカイトの手からスっと本を取り上げるようにして持ち上げる。


「あ、本……」


「先に片付けを一緒にしよう!本はその後で、ね?」


カイトの目が、私の持つ本から離れない。だが、私が窘めるようにそう言うと、カイトは諦めたように「はーい……」と返事をした。


カイトが読みたいと言っているこの本は、図書室が片付いた後ですぐ見つけられるように避けておこう。私はその本を分かりやすいように少し離れた椅子の上へと置いておく。


「早く終わらせて、本を読むぞ!」


カイトは決意したように拳をギュッと握りしめながらそう言った。並々ならぬやる気である。カイトのおかげですぐ終わりそうだ。



「まずはその、メンダシ?とやらをする本を選定しないとだな」


本を全て出し終えた後、そびえ立つ本のあいだに仁王立ちしながらカイトが言った。ふふん!と得意そうな顔をしている。ひと仕事終えた!という顔である。


だが、本を全て出し終わるまで、私はとても大変だった。何にしろ、カイトが「これも面白そうだ!」「あれも!」と嬉しそうに言いながら読み出そうとするので、それを止めるのに骨が折れた。根からの本好き好奇心旺盛ボーイである。


あとで読むためにと避けられた本が、一番最初に興味を持った本『世界の美食大百科』を置いた椅子の上に積み上がっている。


「そうだね、どんな本がいいかなー?」


「そりゃもちろん、これらだろ!」


カイトに相談すると、カイトは得意げな顔のまま本を次々と見せる。そのタイトルは、『世界の文化』『スミス王国の洋服カタログ』『言語の歴史』『世界周遊記』などなど。カイトの好きな本だろうと思う。


「カイト……これは……?」


「全部面白いぞ!世界に興味が沸く!自分が生きている場所がどんなに小さくて、世界はどんなに広いのかがわかる。国が違えば食べ物だって、音楽だって、服だって、そして言語も違う。様々な価値観があるって知れるぞ!」


ニコニコと笑顔いっぱいで話してくれるカイト。そう言えばカイトは商家の跡取り息子なのだが、世界に興味があるらしい。多分本当なら自分で見て回りたいんだろうな。


「そうだね、とても面白いと思う。でも、世界のことに興味がある人ばかりじゃないかもしれないよ?」


「確かに、俺はこれが好きだけど、リルなんかは最近はよく法律の本を読んでいるからな……」


これはカイトが成長をするチャンスだ、と問いかけた私の質問に、カイトはううん、と思い出すように自らの顎に手をあてる。


「そうだね。ここに全部を置いたらどう思うかな?」


「俺は楽しい!……けれど、他のが好きな人は嫌な気持ちになるかもしれない……」


私の問いかけに、カイトはハッとしたような顔をする。そして、申し訳なさそうにそう言った。人のことを考え、他人の気持ちを慮る。簡単なように見えて難しいことである。思いやりの大切さに気づいたカイトはとても素敵だ。


「そうか、そう思うんだね。じゃあ、どうしようか?」


「ううん……どれか1冊だけにする!そして、文字が苦手な子でも読める本とか物語も並べる!」


そう言うカイトはとても優しい顔をしていた。そうだね、とても素敵な答えだと思うよ。


「そうしよっか!」


カイトと私はお互いに頷きあい、そして本の選定に入った。


図書室を利用する人が少しでも本に興味を持ってくれますように。


そう思いながら片付けを再開していると、


「あらら……!」


と驚いたような声が聞こえた。

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