9話★一言の定義とは
青い空、白い雲。青と白のコントラストが美しい。
ケイラー王国は晴天が多いんだ、とここに来てからそう感じた。スミス王国では、結構雨の日とかあったから…。これも自然の御加護かなぁ。
そんな晴天の日、私とアンディ様、そして、リリの3人は馬車に揺られて、学校になる予定の建物を見学しに来ていた。アンディ様が学校候補として挙げてくれた小屋だ。
因みに、アンナは夜ご飯の用意をするため家に残った。
馬車を降り、目の前に見えた小屋は、
「きゃー凄い!こじんまりしていてとっても素敵!」
とても素敵だった。
小さいながらも綺麗な小屋だった。小屋と聞いて、ウサギ小屋とかイメージしていたけれど、流石は公爵家、と変に納得してしまった。
小屋は薄い茶色の木製で、周りはぐるりと白い、やはり木製の柵が囲っている。
そしてその小屋の周りは草や木が多く、子供たちが遊ぶにも良さそうだと思う。
「本当に素敵!」
私が小屋に釘付けになっていると、隣からクスッと笑い声が聞こえた。
「レベッカって思ってたより令嬢っぽくないね。令嬢ってもっとキリッとした、凛としているイメージだったんだけど」
「あら、ちゃんと公の場ではしますわ。これでも"令嬢の鑑"って言われてましてよ。ご心配なく」
ツンとして言うと、
「そういう意味じゃなくて。ただ、可愛いなぁって思って」
「か、かわ…!?」
こういうセリフさらりと言ってのける人だったの!?昨日は手を握っただけで真っ赤になっていたのに!?
可愛いなんて前世では無縁の言葉だったし、今世では可愛いとは言われることはあったけれど、それは圧倒的に私の実家のご機嫌取りだと思うから、こんなに好意的に、そして自然に言われたことはない。
そして、フラン殿下にも言われたこと、ない。
フラン殿下は別の女の子に夢中だったからね。私の隣に婚約者として立つときはそれはそれは嫌そうな顔をしていたわ。折角王子だし、美形なのに。
そんな訳で、免疫がない。
私の顔はどんどん熱を帯びていく。昨日とは立場逆転だ。
ホワホワとした笑顔を優しく浮かべているアンディ様。
この人、実は、乙女ゲームの攻略対象だったりしない!?
私が顔を真っ赤にしたままでいると、途端にアンディ様は不安そうな顔になる。
「だ、大丈夫!?どこか痛い!?」
一言いいかな?
天然かっ!無自覚かっ!小悪魔かっ!
……全然一言じゃなかった。
★★
心配するアンディ様を大丈夫だと説得し、その後、小屋の管理をしているという男性に会った。
この小屋はマーク公爵家のもので、今はアンディ様の管轄だそう。なので、もしここで学校をするのなら、公爵の許可はいらないよ、と言っていた。
そして、この男性、といっても多分20代前半くらいの人はアンディ様付きの使用人だそうで、この小屋の管理もしてくれているらしい。
名前は、ルカと言うらしい。アンディ様が教えてくれた。そんな彼は、見目は整っていて、流石ゲームの世界の住人だと感心した。
だが、いいのは見目だけのようで、私を見た瞬間盛大にその整った眉を歪めた。そして、一言。
「女かよ」
え、会って早々の感想がそれですか。まあ、確かに間違ってはいないけれど。生物学的にもそして、自分の認知的にも女として過ごしてますけれども。
もっと何か、なかったんですか。いや、あったでしょう。
「ごめんね」
アンディ様が申し訳なさそうに謝る。アンディ様は何も悪くないのに。
ってか、主人に謝らせる使用人って。
そう思いつつも、こちらは見学させてもらう立場なので、優雅に一礼する。
「レベッカ・アッカリーと申します。よろしくお願いしますわ」
「よろしくする気はない」
ひとのあいさつ人の挨拶跳ね除けたぞ、この男。
「ルカっ!」
アンディ様がたしなめようとするが、
「女にはろくな奴、いねぇからな。俺は嫌いだ」
何よその言い草!こちらが下手に出ているというのに……!
そう思うとムカッとしてきた。だって、初対面の相手に言われることじゃない。性格も何も見ずに嫌いだなんて。
「一言よろしいでしょうか。初対面の相手にそのように接するのはどうかと思いますわ。貴方は私の何を知っておいでなの?それに、ひとつに女性といっても性格は人それぞれです。私は自己紹介しかしておりませんので、嫌いと言われるようなことをまだ何もしていないのではなくて?」
私はふっと口元だけに笑顔を浮かべてまくし立てる。きっと、今、本来の役割である悪役令嬢さながらの顔をしているだろう。
「……」
「貴方は馬もうさぎも魚もひとつに動物という括りで、十把一絡げに、皆同じとみるのですか。1面でしかものを見られないなんて寂しい人ですわね」
私が意地悪顔のまま言い切ると、後ろでポツリとリリが声を漏らす。
「…うさぎと馬と魚……動物…?」
確かに、改めて考えれば、例がチグハグな気がするが、口をついてでたのがそれだった。それに加えて、人間も多分、動物だし。言ってしまったからには堂々とするしかない。
そして、毎度の如く、全然一言じゃない。今回は相手にも「一言よろしいでしょうか」って断ったのに。
目の前にいるルカさんはその辺は違和感を感じてないらしいからいいか。
怒りながら冷静に分析できている私、凄いね。
そんな私を前に、
「……そんなに言い切るのなら見せてもらおうか、お前がほかの女と違うってことを」
ルカさんはふっと笑う。どこか嘲笑を含んだ笑顔だ。
「望むところですわ。あ!でも、私、誰にでも好かれようとは思っていませんからね。では、ごきげんよう」
言葉の裏に、別にお前によく思ってもらいたくて、好きになって欲しくて言ってるんじゃないぞ、何も知らずに判断するのが気に入らないんだ、と言ってのけてから、また、優雅に一礼してみせる。もちろん王妃教育直伝の完璧なものだ。
ルカさんと別れてから小屋の見学へと向かう。ルカさんは一緒に行動をするつもりはないらしく、そのまま去っていってしまった。
「ルカがごめんね……基本は穏やかな子なんだけれど…」
アンディ様が申し訳なさそうに謝る。だから、アンディ様が悪い訳ではないのに。
「アンディ様は何も悪くありません」
それから、この小屋を見ていると、アンディ様の言葉があながち間違いではないことが分かる。小屋は綺麗で、ちゃんと管理されているらしかった。
窓や床はちゃんと掃除されているし、窓際には花瓶に一輪の花が生けられている。横暴な人ならこんなことしないだろう。
あの態度は、誰にでもなのか、私だけなのか?
もし、私だけなら、悪役令嬢パワーってやつかな?嫌われるオーラバンバン出しているとか。もしくは、この悪役っぽい顔が怖いとか。
「私の顔が怖いとか……?」
私が大真面目にそう言うと、アンディ様はきょとんとした顔をしてから、ぶっと吹き出した。
え、なんで。めっちゃ大真面目に言ってるのに。
「それはないよ」
断言された、なぜに。もう断罪されたとはいえ、私、間違いなく悪役令嬢なんですけれど。
「そうかしら……?」
不思議そうな顔をしている私、そして、ケラケラ……といっても貴族らしい上品な笑い方だけれど、のアンディ様という不思議な図ができた。
「君だけじゃないさ。ルカが女の子に態度悪いのはいつもの事だから。気にしない方がいいよ。…ごめん、先に知らせておくべきだったのに」
ひとしきり笑ったあと、アンディ様はそう言ってくれた。
そうよね、気にしない方がいいよね。今日はこの小屋を見に来たのだもの。ちゃんと見学しなきゃ損よね。
そういうわけで、小屋、そんなに広い訳ではないのだけれど、を見学する。
中は、見た目の通り木造で、部屋はなく、全体が一部屋みたいな感じだ。あまり使われた形跡はないが、掃除はされている。
家具などは何も無いけれど。あるとしたら、さっき言ってた花瓶くらいだ。あとは、机と椅子が数セットくらい。
「この小屋は何に使われていたんですか?」
「元々はあの別荘に来た時の物置だよ。でも、別荘を使う機会がないから、何も置かれてなくて……。それじゃ可哀想だからってルカが花を置くようになったくらいかな?」
「そうなんですか」
じゃ、現状的にはここを使っても問題は無いってことなのね。それにしても、倉庫にしては広いわね、と思わなくもないが。
「ここ、とても素敵です!ぜひお借りしたいです」
最後に一言よろしい?
この小屋、やっぱりめっちゃ素敵!!!!
ひかえめに控えめに言って最優良物件じゃない!?
……やっぱり一言じゃない。
♛人物紹介♛
✿ルカ(22)
レベッカが学校に使う予定の小屋の管理を担当している、マーク公爵家(アンディの家)の使用人。女嫌いのようだ。
ルカさんが女嫌いなのも色々あって……
今後それも明らかにしていく予定です!
今後ともよろしくお願いします。
それから、ブックマークありがとうございます!励みになっております!
よろしければ、評価等よろしくお願いします!!
【次回の更新は、1月18日予定!】