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99話★話し合う

そう言うと、エミリーはポカンとした顔をした。口が大きく開いている。そして、そのまま首を横に傾けて聞いた。


「……きがすすまないって?」


嫌いや苦手って言葉を使いたくなくて言った言葉が分からなかったらしい。どう表現するのがいいのだろうか。ネガティブな言葉を直接的にあまり使いたくなかったが、分かるように言わなければならない。言葉を使うのは難しい。


「あー、あまり好きじゃないってこと」


「ううん!全然よ。リアムはね、優しい子なの。困っている子がいたら助けるもん。例えばこの前、石灰石を忘れた子に、自分のをポキッって折って半分貸してたよ。自分も忘れ物が多いからって言ってた」


エミリーは人のいい所を見つけるのも得意なんだな。


「そっか、そっか。じゃあさ、1度リアムとしっかりお話するのはどうかな?リアムの気持ちもしっかり聞いた上で、エミリーの気持ちも伝えられたらいいんじゃないかな?」


「……!」


私の言葉に、こちらをまじまじと見る。その瞳はまだ赤くて少し腫れている。なにかに気づいたようなその表情に、笑いかけると、さらに言葉を続けた。


「ああ思っているかも、こう思っているかもって人の気持ちを思いやるのも確かにとても大事なことだよ。でも、本当のことは話してみないとわからないかなって、私は思うよ」


「そうかもしれない。あたし、声かけるだけでリアムの話、聞けていなかったかもしれない。それに言い方がキツかったかも!謝らなきゃ」


エミリーはうんうんと唸りながらそう言った。とても素直な子なのだろうと思う。でも、気が強いところがあるから、2人で話させるのはちょっと怖いかも。私も一緒に入れたらいいかなぁ。子ども同士のことだとはいえ、学校にも関係あるし。


それから、2人だけじゃ解決できない問題だってある。こちらも動けるようにしなければ。リアムのそれは、きっとわざとでは無いかもしれない。自分で止められないのであれば、こちらも対策を錬れればいい。


みんなが過ごしやすい教室を作りたい。


「じゃあ、授業終わりにお話してみようか。もしかしたら、リアム自身もなにかに困っているかもしれない。私も一緒にお話を聞いてもいいかな?」


「わかった!」


エミリーはうんうんと頷きながらそう答えてくれた。それから、少し考えて、問いかける。


「授業に戻る?」


「……あ、えっと……んー」


エミリーは何やらモジモジとしながら言葉を曖昧に紡ぐ。まあ、入りづらいか。そうだよね。エミリーに笑いかける。


「じゃ、このまま先生と一緒にサボっちゃう?」


「え?」


「たまにはいいでしょ」


驚いた顔を見せるエミリーにパチリとウインクをしてみせる。少しまごまごとした様子だったエミリーだが、意を決したようにこくんと頷いた。それから、ぱっと笑顔を見せてくれる。


「うん……!」


その後、エミリーは一旦顔を洗いに井戸へ行って、目元を冷やした。そして、戻ってきた彼女とたくさん話をした。普段こんなに話をしたことがないから、エミリーのことを沢山知れた。


エミリーはいつも以上にキラキラした瞳で話してくれる。元気な声で楽しそうに話すエミリーは、話を聞いて貰えるのが嬉しいのだと伝わってくる。


「それでね、あたしのお家は布を作る仕事なんだけど、お母さんが編む布はとてもとても綺麗なの。あたしもいつかお母さんみたいな布を作るのよ!」


「そっか、そっか!」


「あのね、ちょっと練習もしているの。お母さんが教えてくれているんだ!」


「そうなんだね。見てみたいな」


「じゃあ、今度持ってくるね!」


キランと瞳を輝かせるエミリー。やはりこういう生徒と1対1でお話出来る時間は設けるべきだなぁ。それこそ、教育相談みたいな時間を作りたい。


★★


「リアム、ちょっといい?」


「はい、大丈夫です」


授業終わり、リアムをちょいちょいと呼び寄せた。ついで、さらっと事の経緯をアンディ様に説明してから図書室へとリアムとエミリーを連れて行く。


「どうかされましたか?」


図書室の席に、エミリーとリアム、そして私が座ると、リアムが問いかける。くるりと大きな瞳を回して疑問符を浮かべているのが分かる。エミリーは無言で座ったが、少し考えたあと、意を決したように声を出した。


「あ、あのね!あたし、リアムに言いたいことがあるの!」


「エミリーさんが、僕にですか?何でしょう?」


急に言われて、目をぱちぱちと驚きに瞬かせるリアム。


ここにきて思った。エミリーともう少し打ち合わせをしておくべきだった。何を言うのだろう、と急に不安になった。もし、きつい言い方で話をすれば、きっとリアムも売り言葉に買い言葉。喧嘩になるだろう。


ヒヤヒヤしている私を他所に、エミリーは至って冷静な言葉を放った。


「あたしね、最近、リアムに言い方、きつかったなって思うの!ごめんね」


「そうですか?いつのことでしょう?」


疑問符を浮かべたリアムがエミリーに問いかける。あまり分かっていなさそうなリアムにエミリーはええっと、と前置きをしてから、説明をする。


「例えばね、授業中とか。リアムが質問したタイミングとかで注意する時とか」


「それは、僕も悪い面があります。エミリーさんの言っていることは間違っていません」


リアムはエミリーの言葉に驚いた顔をしてから、首を横に振った。リアムの言葉は淡々としているが、きっと本気でそう思っているのだろう。


「でも、傷ついたかなって思ったの」


「いえ、こちらこそ、せっかく言ってくれているのにごめんなさい。頭では分かっているのですが、どうしても無意識に気になったことは、その場で聞いてしまうのです」


エミリーの言葉に再度首を横に振ったリアムは、申し訳なさそうにそう言う。頭と身体が一致しなくて自分ももどかしいのだ、と続けて言った。リアム自身も苦労しているし、苦しんでいるようだった。


「そうなんだ」


「なので、これからも言っていただいて大丈夫です。言ってくださるとありがたいです」


リアムが真顔のままそう言うと、エミリーは驚いた顔をした。


「え!?いいの!?……わかった。でも、言い方には気をつけるね」


「わかりました。僕もできる限り気をつけます」


エミリーの言葉にリアムがこくりと頷く。エミリーがスッキリした顔をしていたし、リアムも傷ついたような様子は見られないので、いったん話し合いは終わりにすることにした。


「ごめん、リアムはちょっと残ってくれる?」


リアムにそう言って、彼が頷くのを見たあと、エミリーをちょいちょいと手招きして図書室から連れ出す。


「言いたいことは言えた?」


「うん。言えた!あのね、あたし、よかった!」


「うん、何が良かったの?」


「リアムとお話できたこと!2人とも違うこと考えていた!だから、話し合いできてよかった!」


違うこととは、認識が違ったや誤解があったってことかな。エミリーの心が晴れたのなら、話し合いができてよかったな。


「そっか、そっか!エミリーもお話、ちゃんとできて偉いね!」


「えへへ、ありがとう!」


「じゃあ、エミリーは帰ろうか」


「うん」


笑顔で手を振るエミリーを見送ってから、リアムの元へと向かう。すると、姿を現した私に、開口一番リアムが問いかける。


「何していらしたんですか?」

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