表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/148

96話★たずね人

凛とした声とともにやってきたのは、紅茶にミルクを少し溶かしたような、オレンジがかった茶色い髪の女性。大きな丸い黄色の目は優しげに垂れているのに、白い肌は陶器のようでもあり、どこか冷たい印象を与える。


服も黄色であり、全身の印象が黄色であるその女性。だが、瞳がレモンの果実を写したような薄い黄色であるのに対して、服は少し山吹色がかった黄色とクリーム色だ。


「フラーウム嬢」


私の隣にいたアンディ様はそうポツリと言葉を発する。フラーウム嬢と言えば、この国ケイラー王国の侯爵家の娘である。そして、私が王立サンフラワー学園でお会いした、信号のようなカラーの令嬢の1人だ。


フラーウム嬢は、たしか、学園で魔法を人を傷つけるために使って退学になった、赤色令嬢ローズ・サンレッド嬢のお友達。噂によるとサンレッド嬢に逆らえず仕方なくいじめをさせられていたとか。確かに優しげな令嬢というイメージだ。


言うなれば彼女は被害者なのだろう。


だが、何か……。ただの優しい令嬢じゃない気がする。どうしてそう思うか、と言われればわからないが。勘とでも言おうか。


「アンディ・マーク様!お久しぶりですわ」


フラーウム嬢はスっとドレスの裾を上げて丁寧に礼をしてみせる。育ちのいい、貴族らしい所作。その礼にアンディ様も軽く頷き答える。それから、彼はフラーウム嬢の方へ近づき、心配そうに眉を寄せた。


「先日は大変だったね。大丈夫だった?」


先日、というのは赤色令嬢の件のことを言っているのだろう。アンディ様の瞳からは本当に心配している気持ちがみてとれて、彼がフラーウム嬢のことを信頼しているのがわかる。彼とフラーウム嬢は仲がいいのだろうか。


「大丈夫ですわ。ご心配いただき、ありがとうございます」


「大丈夫ならよかった。あ、改めて挨拶をするのは初めてかな。こちらレベッカ・アッカリー嬢」


「レベッカです。よろしくお願い致します」


私がドレスの裾を上げて挨拶をすると、フラーウム嬢は、今気づいたといったように少し驚いたような顔を見せた。この距離で気づかないことなどあるのだろうか。


「そして出会いが出会いだったからあまりいい印象がないかもしれないけれど……こちら、アカシア・フラーウム嬢」


「いいえ、彼女も被害者でいらっしゃるのでしょう?」


「申し訳ありません、ありがとうございます。アカシア・フラーウムですわ。以後お見知り置きを」


申し訳なさそうに謝ったあと、優しげに目を細める。でも、そのふたつの表情ともやっぱりどこかその通りには見えない。何故だろう。


……そうだ、分かった。その目だ。


優しげに微笑んでいるように見えて、どこか瞳の奥が鋭いのだ。しかも、私に向けて、だけ。アンディ様へはとろける蜂蜜のような瞳を向けているのに対して、こちらを見る時だけどこか敵意を感じさせるような視線を感じるのだ。


そして、このアンディ様を見る目は、きっと……。前世から何度も見てきた目だ。ドラマでも現実でも。これはきっと、恋だ。フラーウム嬢はアンディ様に恋をしている。


私からフイっと視線を外したフラーウム嬢は、再びアンディ様の方へ視線を戻すと、可愛らしい笑顔を浮かべて、


「マーク様、突然のご訪問誠に申し訳ありません。わたくし、実はマーク家が一切を取り仕切ってらっしゃるこの学校に興味がありまして、案内いただくことはできますでしょうか」


そう小さい子が可愛らしく何かをねだるような声音でアンディ様に言う。その様子に、何故か分からないけれど、胸の中がモヤモヤする。ちょうどなにか霧がかかったような。


これはなんだろう?


アンディ様がフラーウム嬢に向けている笑顔にだって……。


「僕は構わないけれど、レベッカはいい?」


アンディ様は今度はこちらに笑顔を向ける。それに、さっきとは変わって少し安心するような、嬉しいようなあったかい気持ちが広がる。


「……え、あ、はい!構いません!」


そんな自分に動揺しながらも、頷く。なんで、私、アンディ様がこちらを向いてくれただけで嬉しいの……?


アンディ様は私の言葉に頷くと、フラーウム嬢へ手を差し出す。フラーウム嬢は喜色満面といった様子の笑顔を浮かべてその手をとる。相手はお客さんだからエスコートするのは当然。


なのに……


また……モヤモヤグルグル。胸の中が引っ掻き回されるような、ともすればそれに酔ってしまいそうな、変な感覚。気持ち悪い……。


この気持ちは何なのだろう……?


「レベッカ、どうしたの?入るよ?」


「……あ、はい!」


思考の海に潜っていると、その縁から持ち上げられるように声をかけられる。私は、慌てて返事をして、学校に入ろうとしている2人の後を追った。


この見学、何か一波乱ありそうな予感……。

皆様思っておられることは一緒でしょう。

「レベッカ、はよ気づけよ」と……笑


いつになったらこの鈍感令嬢は気づくんでしょうかね。物語の展開と同じくらい、レベッカの様子にも是非注目してみてあげてください!




ここで、今回出てきた登場人物紹介!


〇アカシア・フラーウム

ケイラー王国侯爵家の娘さん。アンディに恋心を抱き、レベッカに敵意を抱いている。赤令嬢とはまた違ったやり方でレベッカにつっかかる。

信号令嬢の黄色であった。赤令嬢の子分をしていたが、いなくなったため我が物顔をしている。

紅茶にミルクを一滴二滴くらい垂らしたほどの淡いオレンジ茶色のような髪。まるく少しタレ目気味の黄色い瞳。なので、見た目は気弱で優しそうに見える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ