続き
翌日の放課後。
悠子から連絡を受け取った私は、教室で待っていると少し経ってからあいつはやって来た。
「それじゃあ、早速始めても良いかな?」
「ん……いいよ」
私の前に座り、スマホとミニキーボードを取り出す。待ちきれないという様子の彼女は、準備が整うと、異世界転移のまじないを私に掛ける。
まだ、教室に残っている生徒は数名いたが、特に気にはしない。弁明は全て、彼女にお任せするとしよう。
眠りから覚醒したような、曖昧な感じがした。いつの間にか寝落ちしていたみたいだ。とりあえず、閉じていた瞼を上げる
「あ、気がついた?」
少年……もといシグムントの姿が見え、声がする。
どうやら、私は石道に横たわっているらしい。両手を地面に着けて、体を持ち上げ、両足で立ち上がる。
「ここは?」
私は呟いてから、気づいた。ここはハンターギルドから数十メートル離れた所。時間帯は昼。どうやら、あれから時は経っていないようだ。
しかし、だとしたら、なぜ私は地面に倒れていたのだろう。
「びっくりしたよ。急に倒れるから、どうしちゃったんだろうと思って。でも、すぐに気がついて良かった。怪我はないかい?」
「ああ……うん。大丈夫」
寝起きのように、まだ少し頭がぼんやりするけれど。
それで、私が自称神の世界から離れると時は止まるという設定なのに、どうも私が気を失ったりした分、少しばかり時は進んでいるように思う。これはどういう訳なのか。
【本当にその設定だと、こちらから離脱した時の境目がハッキリしなくなるから、気を失わさせることで少しばかりの時間は進めさせてもらいました】
ふーん、そう。だったら、自称神の世界と現実世界を連続で行き来する事で、無駄な時間を進められるんじゃ……。
【やめてください。そんなことしたら私の世界にいる間、暫く頭をおかしくさせてもらいますよ】
本気な感じで警告されてしまった。仕方が無い。やめておこう。
「もしかして、今、日本? という国と意識を交感してたのかい? ということは、僕の話、決めてもらえたのかな?」
ひょっとして彼、日本? という国があるという事になっているのかな? 面白いけれど、正しておこう。
「ええ、そうよ。私の母国、日本に行ってきたの。それで、共同仕事の話だけど、いいわ。引き受けてあげる!」
そう言うと、シグムントは目を輝かせて喜んだ。
「ほんとかい? やった! ありがとう! それじゃあ、今日はよろしくね!」
いつの間にか、敬語口調じゃなくなった彼。確か、自分のターンに入ったあたりだったか。まあ、それはいいや。
「うん、よろしく」
こちらも、敬語無しで返す。距離が縮まった感は少ししたが、ただの仕事仲間であるし、何もおかしくはないはずだ。
「そういえば、まだ君の名前を訊いてなかったな。よければ、教えてくれないかい?」
「あ、えっと……純花、よ」
この世界に合う名前とかとっさに思いつかなかった。まあ、いいか。
「スミカか。うん、分かった。それじゃあ、早速行こう。ここからなら、西門の方が近いよ」
当然、狩猟のための場は城壁の外にある。シグムントが言うには、その中でも西側には森と湖があり、比較的低レベルなモンスターと豊かな薬草があると言う。もちろん奥には、危険なモンスターがいるが。
そしてこの国のハンターギルドは、中央よりやや西側に位置している。
私はシグムントの案内に着いて行き、西門を目指す。この国の西側方面は、農村地帯が大部分を占めていた。
やがて西門に辿り着いた私とシグムントは、素材採取のために出国することを告げる。そこで私は初めて出国税を要求された。無一文の私にはどうしょうもないので、今回は仕方が無くシグムントに借りる事にした。もちろん、最後の精算時に返すと約束して。
そんな訳で、無事に門を通過した。