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時代遅れの異世界転移  作者: 卯沙戯 有栖
第一章
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帰還

 ふと我に返ったように、私は目を覚ます。

 白い蛍光灯が木製の机と空き教室を照らす中、私はそこに腕を組んで突っ伏していた。

視界の端に映った窓の外は、既に夕闇が色濃く染まっている。そろそろ部活を終えた生徒が帰宅する時間だ。私は帰宅部なのに、ここまで長居したのは始めてだ。

 顔を上げると、向かいの席の机をこっちにくっつけて、スマホとミニキーボードから手を離して伸びをする女子生徒がいた。何やら、やり切ったような疲労感と笑みを浮かべて、こちらを見ている。

「おはよ。どうだった?」

 私と目が合うなり、そんなことを聞いてくる、自称神。

「どうも何も……」

 私は両手を握り、腕の力で身を起こす。

「そりゃあ、色々と奇抜的な発想はあったけれど、あんな程度じゃ面白いとは言えないわよ。だいたい、まだ何も始まってすらいないじゃない! 普通なら、とっくに第一章の“起承転結”の“起”には入っているわよ! 今は、やっとプロローグ中盤に差し掛かったところじゃん! あんまりもたもたやってると、焦れて読者は離れていくよ!」

「うえぅ、辛口! うぅ……でもだからって展開を急ぐのもアレだしなー」

 まあ、本当のところはどうか知らないけれど。私は巻き込まれた八つ当たりに言ってやった。自称神は落ち込んでいるけれど、それで諦めてたらこんな途方もない道など歩めっこない。

 “アイデアと行動力次第で何でもできる”と、あの世界の名言にしてたみたいだけど、きっとその重みも理解せずに設定したのだろう。その時には、せいぜい沈んでしまうが良い。


「あーそれでさ。早速なんだけど、荷物を多く持つ方法、私思いついているんだけど、聴きたい?」

 気を取り直して、自称神が目を輝かせて私に聴いてくる。

「へぇーそう。どんなの?」

 私は面倒くさがりだ。解決のアイデアがそっちにあるならば、さっさと教えてもらいたい。いくら私が主人公に設定されているとはいえ、そこまで自分でロールプレイングする程のやる気はない。

「ハンドリフトを持っていけば良いんだよ! 向こうの世界に!」

「ハンドリフト?」

なんだそれ。聞いたことが無いものだ。

「わたしのお父さんが仕事で使っている道具でね。L字型になっていて、横に伸びている部分に荷物を載せて、真っ直ぐ伸びたハンドルを引いて持ち上げたら、2トンぐらい物は楽に運べるんだって」

「へぇー、そんなものがあるの」

 確かに、それで解決できなくもないが……。

「うんっ! こっちから人を自由に行き来させられるなら当然、物ができない道理は無いよね! それに、ハンドリフトは風魔法とかで飛ばしたりすれば武器になるよ!」

 うん。まあ、それはそれでいいだろう。

 だけど、一つ気になったことがある。

「まあ、そりゃあそうなんだろうけどさ。一つ、いいかな?」

「うん? どうかした?」

 首を傾げる、自称神。

「あの少年、まさかそれが可能な前提で思考を巡らせてたの? 自称神の世界(向こう)に行ったっきり帰って来られなくなってしまった可能性は、彼は考えていなかったわけ?」

「あ……」

 図星だったようだ。普通の転移ものでも、それは珍しくない決まり事のはずなのに。どうやら自分なりの設定に夢中になる余りに考えが固まってしまったようだ。

「ま、まーいいじゃん! 喋っている間も別の考えを浮かべさせるなんてなかなか出来ることじゃないしさ! それが、困った時に希望にならないような事だと特に!」

「うーん……」

 そうだろうか。説得している間に、はっ……と嫌な予感が浮かぶのも、小説では普通にありそうな事だが。

 まあ、大体その予感は当たっている事が多くて、杞憂に終わった事はあったかどうか思い出せないけれど。

 というか、そうならばわざわざその可能性を提示させる必要も、ミスリードを誘う以外では中々ないか。なぜなら、それを一生懸命考えるコストに対し、活かす時間が少ないから。


 そう考えていると、教室のスピーカーから、チャイムが鳴った。もうそろそろ、完全下校時刻が近づいていることを告げている。

 後ろを振り返った自称神も、それに気づく。

「あっ! もうこんな時間! つい夢中になって忘れてたよ!」

 そう言って、スマホとミニキーボードを畳んで、慌てて鞄に仕舞って去ろうとする自称神。

「あっ、そうだ! 忘れるところだった!」

 そして、翻してこちらにやって来る自称神。

「連絡先、交換しようよ! またこの続きの展開を纏めたら、放課後に会って話を進めたいから!」

 それはつまり、今後も今日みたいに、私のもとにこの子がやって来てしばらく眠らされるということなのだろうか。

「まあ、いいけど」

 それで暇潰しが増えるのならば、特に忙しくもない私にはあまり問題はない。

 その手のやり方には疎かった私は、自称神に教えてもらいながら、連絡先を相互受信する。

「それじゃあねー」

 そう言って、足早に自称神は教室から去っていく。

 私は、暢気にそれを見届けて、ふと自分のスマホに新規追加された連絡先を見てみる。

 宇佐美(うさみ)悠子(ゆうこ)

 それが、自称神の真名だった。

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