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時代遅れの異世界転移  作者: 卯沙戯 有栖
第一章
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ハンターギルド

 通りを中央に向かい進んでいると、やがて、大きく「ハンターギルド」と書かれた看板と木造建築の建物が見えてきた。近くに来ると、横向きの竜の頭をシンボルにした鉄看板も見える。

 扉は成人男性2人分の広さで、両開きの2階建て。流石に大勢の者が出入りするだけあって、結構規模がでかい。隣には、魔物などの大型の素材を取引・解体する専門の作業場があり、それも負けず劣らずに辺りを陣取っている。いや、奥行きまで考えると、やはり作業場の方が広めか。

 とにかく、中に強面のおっさんが何十人と居ろうと、ここに入る他ない。私は覚悟を決めて、扉を潜る。

 鐘の音を鳴らしながら足を踏み入れたそこには、果たしてよくゲームで見かける光景があった。

 賑やかにしつつも、ここに訪れた私のことを見る数十人のハンター達や受付嬢。正面には受付窓口があり、隣には衝立に何枚かの紙が貼られた依頼ボード。

出入り口の左隣には2階へと通じる階段がある。

 右隣の奥のスペースは、簡単な酒場兼食堂となっており、今いるハンターの過半数はそこで昼食を取っている。

 残りは、もう一仕事やる予定なのか依頼ボードを眺める者。彼らの仲間か、食堂から離れた席で装備品のチェックや手入れをする者達がいた。

 なんとなく食事の方に目が行きながらも、私は依頼ボードの方へと向かい、残っている依頼内容を見る。


 魔物の討伐関係。これは武器も魔法も無い私にはできないのでパス。素材入手。これも運が良ければ薬草ぐらいは採取できるだろうが、同じく危険なので却下。

 となれば、残るは街中でのサービス業とかになる。日本でのアルバイト経験もまだ無い私だが、指導を受けて頑張ればそれなりにできるだろう。えーとなにか、そういうものは……と。

 探したが、今日残っている時間の中で可能な即日募集の依頼は無かった。明日からの依頼なら無くはないが、それで給料が貰えるまで保つだろうか。

 この世界を離れられる都合上、食事面については問題ない。向こうで済ませて、戻って来るだけでいい。

 しかしその間、この世界の時は止まってしまう。そうすると、どうしても夜が開けるまでここに留まらなければ、明日はやって来ない。安全に泊まるための宿屋。主に稼がなければならないのはそっちの方である。

 さて、どうしたものか。


「あのー、すみません」

 私の近くで声がしたので振り返ってみると、そこには1人の少年がいた。

 歳は10代半ば。あちこちに傷跡がある鉄の鎧と兜に身を包み、左手に盾を所持、左腰に付けた鞘に剣を収めている、典型的な戦士だ。首からぶら下げている檻の中から電光を放つランプと、背中に背負った革製のリュックサックまで装備してあることを除けば。

「君、この辺じゃ見かけない人だけれど、もしかして旅の方ですか?」

 どうしてそれが分かったのかと一瞬戸惑ったが、自分の服装を見てみれば一発だった。

 なにせ私は、放課後の夕暮れ時に、自称神に強引に、制服姿のままこの世界にやって来てしまった。この世界にも、学生服はあるだろうが、いくらなんでも同じデザインで済ますほどあの子も愚かではあるまい。つまり私は、この国にはない初めて見る服装をした変わった娘に見られた訳だ。

「え……ええ。そうです。この国にも初めて訪れまして。とりあえず資金稼ぎのために何か依頼をと思いまして」

「ああ、やっぱりそうですか。ならば、ぜひ相談したいことがあるのですが……。僕は、シグムントと言います。今から午後の狩りに出掛けるところなのですが、よろしければ一緒にどうですか?」

「……は?」

 突然のことに吃驚して、思わず内心が声に出てしまった。

「ああっいえ! もちろん無理にとは言いません。もしやりたい仕事があるなら別に断ってくれても構いません! ですが、もし引き受けてくださるのであれば、狩猟の成果の半分を報酬にしますが、いかがでしょうか?」

 もしや、これはナンパだろうか。

 今まで十数年と生きてきて、そんなことされた経験は一度も無い。まあ、私は根暗だし愛想悪いし他人も興味ないし故にろくな友達も居たことがない。

 だからこそ、初めてのナンパの対象にされ浮かれる……というのは馬鹿の発想で、私自身は、警戒心バリバリだった。

 何が目的か。それを考えた時、私の脳内には、身代わり、詐欺、痴漢等、悪い考えしか浮かばなかった。

 では、どうすれば回避できるか。私には、とっておきの武器がある。……まさか、こんな事で活かされるとは思わなかったが。いや、逆に考えれば、こんな事でしか使われやしないだろう。

「あ、ごめんなさい。生憎ですが私、魔法は全く使えない、正真正銘の役立たずですので」

「え……」

 私の申告に固まるシグムント。周りのハンターも受付嬢も、何人かこっちを見ている。

「いやでもっ……水素を出すとか、少しくらいはできるでしょう?」

 まさか……と言いたげなシグムント。他の注目している人達も、私はただ謙遜しているだけと思っていることだろう。だけど……。

「いえ。本当に使えないんです。この国……いや、この世界の人達には珍しい事なのかもしれませんが、事実なのです。現に、ここの南門の方にも同じ事を問われましたが、私は水を一滴も出現させる事はできませんでした!」

「うそ……だろ……」

 力無く呟くシグムント。さて、トドメを打ってこの話は終わりにしよう。

「残念ながら、嘘ではありません。そういう訳ですので、私をお仕事のお供にしても足手まといにしかなりません。なので、この話は辞退させてもらいます。それでは」

 そう言って、私はシグムントから目を離し、再び依頼ボードに目を向けた。

 しかし、何度見ても、今の私に救済になるような依頼は無かった。

 ならば、どうしようか。そうだ。もう少し街中を見て回れば、アルバイトを募集している店ぐらいあるかもしれない。紹介料惜しさにとかで。ここに無かった以上、そっちに賭けてみるのも手か。ここのは、最終手段にするとして。

 そうと決まれば、今はもうここには用は無い。私は早速、ハンターギルドを後にする。

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