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生きとし生けるもの  作者: しゅるるふしぃ
1/2

狐の子

この世の全てに意味があるのでは無い。

この世の全てに意味付けができるのだ。



***********


お母さんは狐なの

いつもコンコンコンコン言ってて

風邪でもひいたみたいなの


お父さんは狐なの

いつもなんにも言わないから

居るのか居ないのかわからないの


ぼくはね、あのね、狐じゃないの

だって元気だし喋るのは好きだから


でもちょっと少しだけ寂しいな

ぼくも狐ならよかったのに

お母さんみたいにすごく綺麗で

お父さんみたいにかっこよくて


でもそんなことは叶わないんだ

だってお母さんが言うんだもん


あなたは狐ではありません

あなたは私たちの子供ではありません

だからあなたを愛せません


狐は真実を

狸は嘘を話します

だから私はあなたに本当のことしか話しません

もしもたぬきを見かけたら

近寄ってはだめ

話しかけてはだめ

狸はあなたを子供のままにしてしまうから

どうか私たちを恨まないで

こんな私たちを恨まないで


ぼくはいつだってこの言いつけを守ってるよ

もちろん二人を恨んでなんかない

でもちょっと少しだけずるいかもだけど

ぼくはお母さんとお父さんのことが好き!

お母さんはぼくのことを愛してないって言うけど

ぼくが二人を愛しちゃだめなんて言われてないもん


でもちょっと少しだけ

……ほんのすこーしだけ

寂しいんだ



その日は突然きたんだ

ぼくはお父さんとお母さんの近くで気持ちよーく昼寝をしてた

そしたらお父さんがウーッて低い声を出して

お母さんがコンコンって咳をしたんだ


本当に大きな音がしたんだ

言葉にすると、キュン!って感じかな

ぼくは寝ぼけなまこでボーっとしてて

お母さんが倒れたことに気づかなかったんだ

バキュン バキュン

大きい音がまた聞こえて、ぼくはようやく目が覚めた


お母さんは赤色だった

これは血だってすぐ分かったよ

大好物のうさぎさんにもいっぱい流れてるからね


ぼく、大丈夫?って言ったんだ

そしたらお母さんはこう言った


ああ、愛されない哀れな子供よ

この血とは無縁の狐ならざるものよ

私はあなたが居なくても寂しくありません

あなたのことなど考えたくもありません

だから……


そこまで言うとお母さんは、苦しそうに血を吐き出したの

なんだか見ててすごく嫌だったよ

でもお母さんは必死に喋ろうとしていた

ぼくはもう喋ってほしくなかった

やめてって言おうとした


でも気づいたの

いつも優しかったお母さんの目が、その時は一段と優しかったんだ

お母さんは続けた


だから……

だから……だからね坊や

早くお行き

お母さんとお父さんを置いて早くお行き

寂しいけれど

悲しいけれど

振り返ってはいけませんよ

そして……いつか私たちを思い出すかもしれないけど

すぐに忘れなさい

こんな思い出、忘れてしまいなさい

ああ、坊や

私の坊や

……こんな私を……どうか恨んで

……ここから逃げて………………

忘れて………………………………


……幸せになって


お母さんは動かなくなったの

ぼくはお母さんが言ったことが全然わからなかったんだ

だっていつものお母さんの言葉と違うんだもん

だってだって

だっていつもは……

……だって


もう訳わからなくなって

お父さんの近くに行ったんだ

お父さんは相変わらず唸ってた

背の高い草むらに向かって唸ってた


ガサガサって何かがでてきたの

本当になにか分からなかったの

足二本で歩く動物なんて知らないもん


バキュン

お父さんも倒れちゃった

お腹いっぱい食べたあとの昼寝の時みたいに、勢いよく


でもやっぱりお母さんといっしょで、血がいっぱい出てたんだ

これって昼寝じゃないんだよね?

お父さんに言っても、やっぱりお父さんは何も言わなかった


そう思った時……

お父さんは口を開いた


愛する我が子よ

よく聞きなさい

今おまえの目の前にいるのは人間だ

この世で一番恐ろしい生き物だ

……前に言ったことを覚えてるね?

さあ、行きなさい

どこまでも行きなさい

お母さんなら大丈夫だ

お父さんが一生守るからな

……だから、安心して行きなさい


目を閉じたお父さんを

動かなくなったお母さんを

人間は大きな入れ物に入れて

どっかに行っちゃった


お父さんは昔に

ぼくがすごく小さかった頃に

一回だけ喋ったことがあるの

今でもちゃんと覚えてるんだ

お父さんはこう言ったの


人間を見たら逃げなさい

お父さんはおまえを人間からは守れない

だから人間を見たら逃げなさい


ってね

それからお父さんは一言も喋らなくなっちゃったの

だからかな、その言葉は今でもちゃんと覚えてるんだ


だから人間って聞いて、ぼくは逃げようとした

でもぼくは足がすくんで動けなかった

お父さんとの約束をやぶっちゃったんだ

人間はぼくには何もしなかったけど

お父さんとお母さんを連れて行っちゃった

ぼくがちゃんと逃げていたら、二人は連れてかれなかったのかな?


しばらく家で寝ていたんだけど

お腹がすいたから歩き回ることにした

それに、お母さんとお父さんが居ない家は、あんまり居たくなかったし



ちょっと歩き過ぎちゃって、来たことがない場所に来ちゃった

うさぎも鳥もいないから、お腹ぺこぺこ


おーい狐や

こっちへおいで

とびきり美味しい

うさぎがおるぞ


そんな声が聞こえてきて

ぼくはついついそっちへ行っちゃったんだ

そしたら足下の穴に落ちちゃって

ころころすとーん

ごっつんこ

誰かとぶつかっちゃった


ごめんなさいって言いながら見たら、そこには狸が居たの

すっごく偉そうな狸が居たの

お母さんが狸には近づくなって言ってたから、ぼくはすぐ離れようとしたんだけど、出口がわからなかった

狸は喋りかけてきた


これはこれは哀れな狐の子よ

君が来るのを待っていたよ


ぼくは狐じゃない、って言うと


いいや、君は狐だよ

そこにある水たまりで顔を見てみればいい


嘘だ

ぼくは狐じゃない

そうだ、狸は嘘つきなんだ

この嘘つきめ


おやおや

君のご両親は、君に厄介な誤解を残していったみたいだね

普通は自分で気づくものだが、君はまだ小さいから仕方が無いか

いいかい、よくお聞き


狐と狸

それぞれには別の憑きものが憑依する

狐には嘘つきが

狸には正直者が

そしてそれは大人になると現れる

大人の狐は嘘しかつけなくなり

大人の狸は真実しか言えなくなる

そしてその呪いは

死ぬ直前まで解かれることはない

君の両親は、ずっと君に嘘をついていたんだよ


ぼくは狸の話を聞かないようにしていた

でも、狸の話した話はなんだか分かりやすくて

それで、ぼくにとってほんのちょっと嬉しい話だったから

聞いてないフリになっちゃってた

そしてぼくは、質問までしちゃったんだ


あのさ……その約束事を破っちゃったらどうなるの?


狐も狸も

この呪いに一度でも逆らえば、一言も喋れなくなってしまうんだよ


それは……

すっごく悲しいね


ああ

愉快なことではないね


そう言うと狸は向こう側に行って見えなくなり、すぐにうさぎを手に持って戻ってきた


さあ

このうさぎを食べたらすぐにここを出なさい


家に帰ればいいの?


君にはもう家はないんだよ

君は新たな居場所を探しに出るんだ


どこに行けばいいの?


君が行きたいように行けばいい

進みたい道を進めばいい

そうすればいつか、君の居場所は見つかるからね


本当に?嘘じゃない?


これは狐と狸の間に伝わる、昔からのお話なんだ

嘘じゃないさ


ぼくはうさぎを平らげた

考えながら平らげた

そして僕は決めた


……それじゃあ、ぼく出かけるよ


うん、それがいい

ここには帰って来れないからね


分かった

じゃあね


気をつけるんだよ




狸は小さくなっていく狐の姿を見ながら、こう呟きました


いやあ、じつによかったよかった


**********

一つだけ忠告がある。

日本の伝統からすると、狸は嘘をつく生き物である。

もちろんこれは小説だから、そんな伝統は守る必要が無い。

だが、これだけは言っておこう。


狸は人を化かすのが何よりも好きである。


















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