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第5話 ムンバdeルンバ

 ムンバ地区へと向かう道中、車内でダノンから世界情勢のことを聞いた。


どうやらラムタ国は魔法研究の末、軍事力も伸び、国同士の大きな大戦があり、周辺国を次々と支配し、世界の7割以上はラムタ国の領土らしい。ラムタ領土には魔物も殆ど出ないらしく、魔族も入ってこないらしい。魔族、人間以外の種族は領土内にいくつかコミュニティがあるらしく、そこで暮らしている。文明としては自動車だけでなく、法律、警察、銃や電話、TVまであるらしい。


魔王復活の年ではあるが、王家代々勇者が生まれ、この時代の勇者の名前はディクト。

美形でTVでも活躍し、国内外からの人気と期待を背負って討伐の旅へ出た。腕も確かで、歴代最強と名高い勇者らしい。


ダノンの話を聞いて確信できたことがある。文明の進歩には確実に転生者がいるだろうという事だ。ダノンは転生者という言葉すら知らなかったが、歴史や世界の事を何も知らないブライに対し、「浦島太郎みたいだな」と元の世界で語り継がれている童話の主人公を引き合いに揶揄したのだ。


また、勇者という存在が神格化されていて、勇者の名を語るのは犯罪で、逮捕されるらしい。ブライは勇者を名乗りダノンに注意されてわかった事である。


 「着いたぞ」


ムンバ地区、ブライの記憶では当時ムンバという小国で、王様自ら農作業をやるような農業国家であった。大戦でラムタに占領され、現在は国境手前の軍駐屯地、防衛基地を兼ねた都市で、500年前の面影はない。


「書庫は地区の真ん中にある。何にも知らないんだからたくさん勉強しろよ。俺はブライがくれた金貨を換金してくるからよ。首都のラムタ王宮都市までは長旅になるだろうが、達者でな!」


ダノンは笑顔でブライを見送り、ブライは感謝を伝え書庫に向かった。


 ムンバ中央書庫、ラムタの中ではさほど大きくない書庫ではあるが、軍事、娯楽、歴史の本が豊富らしく、公共施設らしく綺麗な建物だった。


本を外に持ち出したり、重要文献のフロアに行くにはIDが必要らしく、IDの無いブライはとりあえず目についた【魔物でもわかる!世界の歴史】という本を手に取った。


ブライが転生してくる前の歴史は以前に聞いた通りの歴史が書いてあった。問題はブライが魔王を倒してからの事であった。


【魔王ジェンティルを倒した勇者ブライはローレル姫と結婚。その後魔族と繋がっていた賢者オグリが魔族を引き連れラムタ国へ攻め入ったが、勇者ブライとその仲間、王宮騎士団たちの活躍によりこれを撃退。しかし戦いの中オグリと刺し違える形で勇者ブライは命を落とす】


【オグリの孫マヤノはオグリ撃退後、身内の起こした惨事の償いとして世界各国で医療魔術の発展に大きく貢献。以降聖女として神格化されマヤノ教団が今も医療の発展に関わっている】


【戦士グルケト、魔術師ライシャはラムタ国で後進育成に貢献、夫婦でもあった2人の子孫はその後もラムタ国の軍事拡大に貢献した】


改ざんされている所もあるが、事実もあるだろう。しかしブライは許せない、絶対に許してはいけない事が書かれていた。ブライの転生直後から親同然に可愛がり、修行をつけてくれた最愛の師、王宮で絶体絶命の窮地を救ってくれた恩人、オグリが悪として、さらにブライの手で倒されているのだ。


「魔王よりタチ悪いじゃねえかッ・・・」


溢れる怒りを抑えブライは歴史書を読み漁った。世界が認識しているこの500年の事はだいたい理解した。あとは事実とのズレをどう調べるか。


 考えているとダノンが書庫へ入ってきた。


「おっ!良かった良かった!まだいたか~」


「ダノンさん!換金できました??」


「おう、それがよー、貴重すぎて換金所じゃ扱えないってんで、国が買い取ってくれてな。とんでもない額になっちまってよ。1人でもらうには悪いからよ、ちょっとしたプレゼントがあるんだ。表に来てくれ。」


と、半ば強引に外へ引っ張られブライは書庫を出る。


「どうよ?運転できるか?」


目の前にあったのはバイクだ。元の世界でいた時は少しだけ乗っていた。今どきは馬で移動しないんだなと寂しさもあったが、世界が変わりすぎて転移魔法も使用できない今のブライには大きな助けとなるものだった。


「ええ!こんなもの貰って大丈夫なんですか?高価なものなんじゃ・・・」


「いや、金貨数枚の売値だけで数年遊べるくらいの額だったんだ。むしろ金も受け取ってくれ。」


ダノンはそういうとカバンから札束を数束取り出した。


この時代ではコインだけでなく紙幣も流通しているらしい。


「これくらいで良いか?おっと!礼は言うなよ。俺にはとんでもないお金が入ったんだ。礼を言わなきゃならないのはこっちの方だからよ。」


ダノンはブライと固い握手を交わし、ムンバ地区を後にした。


「こんなに貴重なら、金貨もっとポケットに入れときゃ良かったな~」


・・・とりあえずは地図を買って、宮殿のある首都とやらを目指すか・・・




---首都ラムタ・宮殿某所---


「ご報告です!ムンバ地区に大戦前の金貨を持ってきた男が来たそうです!」


広く、暗い部屋で暗闇に向けて身分の高そうな男は語り掛ける。そして闇から声が聞こえてくる。


「ほう?その男はどうしている?」


「金貨を売却後、書庫で別の男と会い、ガルバディ方面に向かっています。両名とも尾行中でございます。」


「フム。おそらくはどちらかがブライであろう。目を離すな。必ず捕まえて連れて来るのだ。最悪殺しても構わん」


「了解いたしました。失礼いたします。」


そういうと男は部屋を出る。


「勇者ブライ・・・ついに目覚めたか。過去の遺物め」


ブライの知らぬ所で、悪意は確実に育っている。

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