第2話 愛を取り戻され
「さっさと魔王をやっつけて帰ろうぜ?腹減っちまったよ」
思い出にふけっているところを水をさして来たのは戦士のグルケトだった。頭は少しアレだが、近接戦闘の能力は確かだ。
「緊張感持ちなさいよ!仮にも最終決戦なのよ。」
魔術師のライシャ、攻撃魔術の使い手で、気性も荒い。グルケトとデキている。貧乳。
「まぁまぁ、痴話喧嘩はその辺にして、戦いに備るわよ!」
回復師のマヤノ、主に回復、補助魔法の使い手。俺の魔法の師匠、大賢者オグリの孫娘。巨乳。
「よし、これが最後の戦いになる。平和を取り戻して帰ろう!」
姫様との甘い生活が待ってるからな。
下心を胸に扉を開けた。
そこには長い黒髪に2本の角、褐色の肌の女が玉座に座っていた。
「ようこそ勇者諸君、私がジェンティルだ。」
魔王城の魔物や魔族、魔王軍の幹部は全滅している、たった一人だというのにずいぶんと落ち着いている。
そしてそのたった一人から発せられる圧力も一人とは思えないものだった。
額に汗がにじむ。
「さぁ、始めようか。最後の戦いを!」
戦いは熾烈を極めた。グルケトが切りかかる、ライシャが雷を落とす。魔王が受け流し薙ぎ払う。マヤノが回復する。俺が剣撃を繰り出す。
どれくらいの時間が経っただろうか。体力、魔力は枯渇寸前だ。
魔王も疲弊している。
こんな時チート能力を持っていない自分を恨む。
勇者になって得た恩恵は、あくまで勇者だから人より少し強いくらいだ。特別な力もスキルも無い。
次が最後の一撃になるだろう。
剣を握る手に力を込めた。
「うおおおおおおおおおお!」
・・・
俺たちは帰った。ラムタ城に。4人ともかけることなく勲章をもらい、翌朝まで宴が開かれた。
今は俺とローレル姫の結婚式が進められている。
「ブライ殿、あなたはローレル姫を生涯の伴侶とし、永遠に愛することを誓いますか?」
「誓います!」
いよいよ結婚か。新婚生活、共同作業、新婚旅行、初夜。妄想が駆け回る。
「ローレル姫殿、あなたは勇者ブライを生涯の伴侶とし、永遠に愛することを誓いますか?」
「・・・ちか」
「ちょっと待ってくれーーーーー!」
まさに夫婦になるその瞬間だった。参列者の中から一人の兵士が叫びながら飛び出してきた。
誰だ。モブが勇者様の晴れ舞台をぶち壊そうとしている見たこともないKY君は誰なんだ。
「バルフェロ・・・」
姫が顔を赤らめて涙目になっている。この展開はまさか・・・待ってくれ。
「ローレル・・・俺の身分では釣り合わないかもしれない。でも、君を愛する気持ちは例え魔王を倒した勇者様にだって負けない!」
ベタな略奪が始まろうとしている。
「無礼者!この場をどのような場所か心得ているのか!誰かこの無礼者をを捕らえよ!」
王が怒鳴り、バルフェロとやらはあっという間に捕らえられた。
「お待ちください!バルフェロはいつも私の支えになってくれていたのです!勇者様の許嫁の身ではありましたが、幼い頃から私を傍で守ってくれていたのはバルフェロなのです!」
「しかしローレルよ。お前は一国の王女なのだ。一兵士のバルフェロとは身分が違う。それに勇者様を王家に迎え入れる約束もあるのじゃ。」
「・・・そうですね・・仕方ありません。ですが、バルフェロに罰を与えるのはお止めいただきたいのです。」
「ちょっとちょっとー、勝手に話進めてるけどさ」
ここで完全空気と化していた今日の主役、もとい俺は口を開いた。
「愛に身分とか関係ないんじゃないすかね?それに幼い頃から守っていたならこれからも守ってくれる、信用に値する人間でしょう。」
「別に俺は王家に入ってふんぞり返るタイプでもないし、一人の方が気楽だしさ。」
「しかしブライ殿・・・それでは・・・」
「仮にこの2人の結婚を認めないならラムタ王は外聞を気にする器量の狭い王って事になるなぁ~そんなんで民衆はついてくるのかな~」
「むう・・・そう言われては・・・」
王は困る
「ブライ様・・・」
姫は感動している
「さすが勇者ブライ殿!」「それでこそ勇者だ!」「かっこいー!」
参列者は歓声をあげている
あーあ、やっちまった。格好つけすぎた。本音を言えばバルフェロとやらは自ら処刑したい。いや、頭の中では何度も処刑している。彼女できないまま成人を迎えた俺の気持ちはどうなる。くそがああああああああああ!なんだよ横からいきなり出てきやがって!誰だよこのモブ野郎!モブフェロ!魔王を倒した一撃をお前に食らわせてやろうかあああああ!
「皆の者!聞けい!このブライこそ真の勇者じゃ!そしてバルフェロよ!そなたにローレルを幸せにできるか?」
「ッ・・・はい!命に代えても!」
「よかろう!バルフェロ、ローレル両名の結婚を認める!」
こうして、俺の結婚式だったものは大盛り上がりで終わった。
俺は死んだ目で笑顔、王は難しい顔、グルケト達パーティはニヤニヤしていた。
帰路、マヤノと歩いていた。
「それにしてもあんな事ってあるのね。ブライは気の毒だけど、ロマンチックで素敵だったわ」
「ま、愛する者同士で結婚するのが一番でしょ。俺もローレル姫の事よく知らないしー」
「グルケトとライシャも結婚するんですってね」
「ま、俺は王から与えられた嫁さんなんかじゃなく、真実の愛に向き合わないとなと思ってさ」
「アンタに真実の愛なんてあったの?」
「あるさ、今俺の目の前にな」
「え・・・?」
「オグリ師匠のもとで修業を共にしてさ、お前と一緒になりたいなって思ってたんだよ」
「ブライ・・・」
「マヤノ・・・」
二人は距離を詰めた。
刹那
ブライはキスをしていた。
地面に。
「さっきまで他の女に鼻の下伸ばしてた男がフラれてすぐ次の女にアタックして上手くいくと思ったかしら?もしくは、アタシがそんなに軽い女に見えたのかしら」
怒りのオーラ前回の笑顔のマヤノが頭上に立っていた。
マヤノにキスをしようとしたその瞬間、魔王討伐にも使われた杖、竜王の杖の水晶部分が顔にめり込み、ブライの顔は地面にめり込んでいた。
打撃にも使える武器だったのね・・・
怒って帰るマヤノを背に誰にもバレないように泣きながら俺は家に帰った。