第16話 エルムの真の力
「私とした事が、こんな旧時代の英雄と子供に手傷を負わされるとは」
エルムは自身に回復魔術をかけながら呼吸を整える
「現代人は軟弱者でいかんな~、どれ、鍛えなおしてやろう」
ブライはヘラヘラと老人風にエルムをからかう
・・・さすがは回復術師か、やっぱ武器ないと決め手にかけるな、ダメージはこっちも深刻だ・・・
「ミロク、大丈夫か?」
「ちょっとだけつかれちゃったー、でもがんばる!」
その瞬間、ミロクの後ろにエルムが移動する
「もうその手はくわねぇっての!」
エルムが姿を現した瞬時にブライがエルムに反応し、攻撃を仕掛ける、再度エルムがブライの後ろを取るが、ミロクが距離を詰める
「クッ・・・!うざったい!」
「ハッハッハ、ご自慢の時を操る能力ももう見切っちまったな、しかも時止めてる間は魔法どころか攻撃も仕掛けられないんだな!」
「得意になってられるのも今のうちです、魔法を使えなくなるのでこの術は控えたかったのですが、仕方ありません・・・ハァッ!」
エルムの周りが赤い光に包まれ、大きな爆発が起こる
「きゃあ!」
ミロクが風圧で吹き飛ばされる
「な、なんだ?」
爆風による霧が晴れたその場所には、人間の5倍くらいはあろうかという醜い竜の様な姿があった
「クハハハ、もう小細工は無しだ、圧倒的な力で蹂躙してやろう」
「人体変化?500年前でも伝説級の失われた魔法って言われてた筈・・・」
「そうだ、我々マヤノ教団は失われた魔術の研究も進めている。この魔法もまだ完璧ではないが、お前らごとき屠るのは造作もない」
「おーおー、言葉使いも乱暴になっちゃって、フ〇ーザさんよ」
「フリ・・・何だって?」
ブライは元の世界で読んでいた漫画の悪役の様だと揶揄し、硬化魔法を自身にかけエルムに殴りかかる
「おらぁ!」
ガッ
「ん?何かしたか?」
ブライの渾身の打撃であったが、エルムは微動だにしなかった
「ははは、本当にフ〇ーザみたいだな」
「さっきから訳の分からんことを!」
エルムがブライを上から叩き潰す
「ぐおっ・・・」
なんとかガードはしたが床に足がめり込んでいく
「ほらほら、どうした?このままミンチにしてやろう」
「えーい!」
ミロクがエルムの指に蹴りを入れる
「グアアアアア!」
エルムの指が折れ、たまらずブライから手を放す
「クッ・・・ガキめ!」
「よそ見してていいのか?」
ブライが放った火球がエルムの口の中に飛ぶ
「ゴハァァッァァ!」
・・・口の中は硬くない様だな・・・よし!・・・
ブライはエルムが苦しんでいる間にミロクに耳打ちをする
「おっけー!」
「おいおいエルムさんよ、変わったのは姿だけで大した事ねぇな」
「ゲフッ・・・貴様ら・・・地獄を見せてやる・・・ゆるさんぞーー!」
「今だ!ミロク!」
怒鳴っているエルムの大きな口にミロクが飛び込む
「なっ!モゴモゴ・・・」
「しゅわっち!!」
その直後、ミロクはエルムの頭部を口内から突き破る
「が・・・あ・・・」
エルムの巨体は大きな音を立てて倒れる
「終わった・・・はぁ」
「かんぜんしょーり!ぶい!」
「さて、あとは脱出だな」
「どうするのー?」
「まぁ、護衛も中にまだいる状態だし、出発した事にするのは無理があるな。ただ俺たちの正体はコイツにしかバレてない、このままフケちまおう」
そういうとブライはミロクを抱きかかえ、エルムに手を当てる
「転移魔法!」
・・・
「遅いわねブライ達、無事だといいんだけど・・・キャッ!」
カイノス、セレスの目の前にボロボロのブライ、ミロクと、大きな怪物の死体が現れる
「無事じゃったか!この怪物はエルムか?」
「そうそう、人体変化魔術なんつー、レアな事してきてさ、強敵だったよ」
「みろくもいっぱいがんばったのー!」
「ミロクちゃんお疲れ様」
「ともかく無事で良かったわい」
「こっちは戦いと転移魔法でもうクタクタだ、宿に行こう」
・・・
「くぅ~疲れましたwにしても教団のマヤノへの心酔っぷりは凄かったなー」
「偉大な人であったのは間違いないが、恐らく洗脳魔術も多少かかっているじゃろう」
「あと2人倒すのか・・・潜入の為に怪我するのも、武器無しで闘うのも2度とゴメンだな」
「苦労かけたのう、しかしあれしか方法は無かったのでな」
一行は宿に着き、ブライとカイノスは大浴場で談笑していた
「次の目的地はガルバディ共和国か?」
「そうじゃな、ちと長旅になるのう」
『わーい!おふろおふろー!』
『こらこらミロクちゃん走ったら転ぶわよ』
隣の浴場からセレスとミロクの声が聞こえてくる
ザバァ!
「忘れてた・・・」
ブライは立ち上がり怒りの表情になる
「ど、どうしたのじゃブライ」
「潜入前に撲殺されかけたからな、俺、行かなきゃ」
「お、女湯へか?行くといってもどうやって?」
「多少は回復した、壁一枚の転移魔法など造作もない」
「こ、殺されるぞ」
「俺は勇者だ、ここでヘタレちゃ勇者失格だぜ!」
そういうとカイノスの目の前からブライは消えた
「伝説の蘇生魔法もいつか研究しないといかんな」
-女湯-
「湯気だらけで何も見えねえな・・・ムッ!人影発見!」
湯気の向こうの人影にゆっくりとブライは近寄る
・・・向こうも近寄ってくるな、うへへ、転移魔法様様だぜ・・・
近寄ってきた人影と向かいあい、ブライは風魔法で霧を払う
しかし
目の前にいたのは明らかに男だった
「は?男・・・?転移に失敗したか?」
「あり??女湯に入った筈なのに、何で男がいるんだ?さてはオメー、変態だな!?」
「変態はテメーだろうが!俺には復讐っつー立派な目標があるんだよ!」
「かーっ!言い訳する変態はここで成敗してろう!」
「上等だ変態野郎!かかってこいや!」
お互いが構えたその刹那、大きな殺気が二人に突き刺さる
「変態なら1人殺すも2人殺すも一緒かしらね」
タオルを巻いたセレスがそこにはいた
「せ、セレス・・・いや俺は変態を倒しに来ただけであって・・・」
「綺麗なねえちゃんだな!今この変態倒してやっから安心してくれ!」
「どっちも変態だろうがこのクソ共!死ねぇーーーー!」
セレスは強化した風呂桶で2人を吹き飛ばす
「やれやれ、ブライよ、先にあがってるぞ」
男湯まで吹き飛ばされた2人はしばらく目を覚まさなかった