第11話 勇者のショッピング
「さて、この子をどうしようか?」
先刻奴隷商から助けた鬼族の子どもを見ながらブライは考える。
「病気や毒の気配は無いし、疲労で意識が戻らないだけだと思うから、今夜中には目覚めると思うわ」
医療にも精通しているカイノスは簡単な診察をして告げる
「親御さんがいれば良いんだが、奴隷商に捕まっていたとなれば、残念だがおそらく・・・」
カイノスはその先を言いつぐんだ
「まぁ、目を覚ましたら話を聞いてみよう。今日は遅い、もう寝よう」
3人が寝ようとしたその時
「ううん・・・」
「おっ!目を覚ましたみたい!」
「ここはどこ?おにいさんたちは誰?」
「俺はブライで、このおじさんはカイノス、こっちのお姉さんはセレスだ。危うく奴隷として売られちゃうところをこのお姉さんが助けてくれたんだぞ。君の名前は?」
「そうなんだ・・・ありがとう。名前はミロク・・・お父さんとお母さんは?」
「・・・お父さんとお母さんはいなかったんだ。どうやって悪いオジサンたちに捕まったか覚えてるか?」
「・・・お家にいたら男の人たちがいっぱい入ってきて、お母さんに隠れてるように言われて隠れてたら見つかっちゃって・・・お父さんもお母さんも殺されちゃったの・・・?グス・・・」
「・・・いや、まだそうとは限らないな!よし、お兄さんたちが一緒に探してやろう!いいよな?セレス、カイノスさん!」
「まぁ、助けた以上最後まで救ってあげなきゃね」
「ここで1人置いていくこともできんしな」
「決まりだな!」
「うえぇ~ん、ありがとう。」
「よーし、とりあえず汚れてっからな!風呂行くぞボウズ!」
「え、あの・・・」
ミロクは困った顔をする
「ちょ、ちょっと!」
「いいんだよ、こういうのは男同士裸で語って慰めるもんだ。キ〇タマついてんだろ?いつまでも泣いてないで、さっさとそのぼろ布を脱ぐぞ」
そういうとセレスの制止を振り払ってミロクの布を剥ぎ取った
ミロクは手で体を隠す
「う、うぅ」
「あ・・・あれ・・・?その膨らみは・・・」
先ほどまで少年だと思っていたミロクは少女だった。
ブライが唖然としているとセレスの杖が通天閣打法さながらのスイングでブライの顎にヒットした。
「何をしてんのよこの児童ポルノ野郎!!ミロクは女の子なのよ!最低の変態男!」
ブライは天井に突き刺さり、カイノスは暗闇魔法をかけられ視界を失っていた
「な、なんで俺まで・・・」
「お父さんも男だから見たら犯罪よ!ごめんね~ミロクちゃん。お姉さんとお風呂入ってキレイにしましょ」
翌朝
「あ~、昨日はとんでも無い目にあった」
アゴをさすりながらブライはぼやく
「うら若き乙女の裸を見たんだから、因果応報よ」
セレスは冷静に返す
・・・こいつやっぱりマヤノなんじゃねーの・・・
「ほれほれ、早く準備して、武具店に向かうぞ。ついでに冒険者登録もしておくか。」
文明が進み、法整備が行われる中で武装して入れない都市等もあるらしい。そんななかギルドで冒険者登録をすることにより、武装していても自由に都市への出入りができるようになる。
一行は宿を後にし、武具店へと向かう。
「いらっしゃい」
絵に描いたような武具店の店主といった感じの男が出迎える。
「剣はあっちだな。ブライは防具はどうする?」
「身軽なのがいいからな~、胸当て、籠手、動きやすいシューズが良いな」
「ミロクも身を守る防具くらいは買っとこうかのう」
「ミロクはね、クローがあれば戦えるよ!」
ぐっすり寝てミロクは少し元気を取り戻している様だった。
「それは頼りがいあるのう。よっし、クローも買ってやろう。もちろんブライ持ちでな」
「調子良いぜ全くこのオッサンは・・・」
幼い少女といえど、鬼族は高い戦闘能力を誇る。鬼に金棒と言うように、武器を持てば戦力は何倍にでもなる。
「デザイン恰好いいのは高いのがおおいな~、おっ、これ恰好良いじゃん」
ブライは陳列されている胸当てからマット色の胸当てを手に取る
「か、軽い!これアルミ?いや、めっちゃ固いな。ミスリルやプラチナにしては軽いし・・なにこれ?」
「そうか、500年いなかったんだったな。今の時代にはカーボンという素材があってな、うすーいミスリルの中にカーボンが入れてあって、強度を下げずに重量を大幅に下げる技術が進歩しているんだ」
カーボン、まだ成田無頼であった頃の世界で良く耳にする素材だった。いったい何人の転生者がこの世界に来ているのかと、疑問が生じる。
「なるほどな~、昔より戦いやすくなってるなー、よし、これ買っちゃお!ミロクもこれで良いよな?」
そういうとブライは胸当てと同じ柄の籠手、レガースシューズ、子ども用サイズを含めて買い物かごに入れる。
「剣はブライアンを手に入れるまでだし、安いのでいいわな~」
武器コーナーに入ったブライは目を疑う
「あ、あれは、ブライアン?こっちには聖槍ロンギヌス、大賢者の杖まで?ど、どうなってんだ?」
「慌てるな、名武器のレプリカが流行っていてな、聖武具のように特殊な力は宿っていない模倣品が沢山売られている。」
「ほぉ~、神聖な武具のレプリカねぇ、風情も何もないな」
ブライは笑いながらブライアンのレプリカを手に取る。
「使いやすいなやっぱり。これにしよう。ミロクはクローは決まったか?」
「うん、これにするー」
ミロクは可愛い笑顔とは裏腹に、自分の胴体と同じくらいはあろうという大きさの、凶悪なデザインのクローを持ってくる。
「ははは・・・それ持ってたらあの奴隷商も死んじゃってたね・・・」
武具を購入した4人は外に出る
「次はギルドに行くんだったっけ?」
「そうだな。ギルド内ではブライと名乗らずID通りに名乗るようにな。」
「武具店が楽しくてつい長居しちゃったな」
「ブライの時代には無いものばかりだったもんね」
「ミロクもぼうけんしゃになれる??」
「ミロクはまだ無理かな~18歳になってからじゃないと」
カイノスは困ったような笑顔で返す。
「ミロクは25さいだよ??」
カワイイ嘘をつくなと和やかなムードで笑う3人だったが、鬼族の寿命が長く、人間よりも幼少期が長い事を思い出したカイノスが聞く。
「IDは持ってるかな?」
人族以外も申請すればID取得が可能な世の中であり、ミロクも例外ではなかった
「あるよ!ほら!」
ミロクが首から下げていた首飾りの中からIDを取り出す
「・・・確かに25歳だね・・・」
「お、俺より年上かよ・・・」
ブライは驚きと同時に、安堵した
ホッ・・・これで児ポは避けられたぜ・・・
一行は様々な感情を抱きギルドへと向かった。