第10話 エアー勇者の大魔法
「まずは闇商人のネイサンという男がブライの偽造IDを用意している、会いに行こう。」
街を歩いて闇商人の所へ向かう最中、多くの視線やひそひそ話を感じた。ここの住人に比べて小綺麗な恰好でおまけに女連れ、ドムス外にブライ達3人は目立ちすぎた。
「ここだ」
街に入って5分もかからず着いた場所は一見普通の商店だった。
「いらっしゃいませ。」
「美味しい煮物が作りたくてね、ラムタオオトカゲの肉を買いたいんだが。」
「・・・量はどれくらいでしょう?」
「300gだ。あと、アイゼルキノコも100gつけてくれ。」
「・・・かしこまりました。少々お待ちください。」
店員とカイノスの会話を聞いてブライとセレスは不思議そうな顔をする。
「カイノスさん、今のなんですか?」
「まあ、見ていなさい。」
店内でしばらく待つと他の客が買い物を終えて客はブライ達3人のみとなった。
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
そういうと商品棚がスライドし、地下への階段が現れた。
「ほら2人とも早くせんかい。置いてくぞ。」
ブライ、セレスは唖然としていたが、慌ててカイノスを追いかける。
「さっきのは合言葉でな。全く面倒だが、これをやらんと入れてくれないんでね」
階段を降りると応接間の様な空間になっていて、デスクに男が座っていた。
「おお!カイノスさん!久々じゃない!」
「元気そうだな。言ってあったものはできてるかい?」
「ああ、できてるよ!でも今回のはだいぶ訳ありだろう?高くつくぜ?」
「足元見るのう。まあ良い。お前さんは仕事は詮索せずキッチリやってくれるからな」
そういうとカイノスはID証を受け取り、ブライに渡した。
ブライト・ナルガという名前とID番号が書いてあった。
「相変わらず良い仕事するのう」
「知らなかった・・・お父さんが裏家業の人間と知り合いだったなんて・・・」
「世間から隠れて暮らすには助けが必要でな。ところでネイサンよ、報酬を追加するから調べてほしいことがあるんだが」
「ああ、カイノスさんは太客だからな。なんでもやるよ」
「ジュベナイル霊峰の聖剣に封印をかけた者を知りたいんだが、調べられるか?おそらくマヤノ教団の者なんだが。」
「教団か・・・時間はかかるが、不可能ではないな。前払いで50万、成功報酬150万でどうだい?あ、IDは15万な」
「いいだろう。なぁブライよ」
「えっ!俺!?」
「身に着けてたカバンに信じられないくらいお金あったからな。」
「ちゃっかりしてるなぁ・・・まぁ、自分の事だし世話になってるから払うよ。」
ブライは札束を出しネイサンに支払う。
「うん、確かに25万あるね!じゃあとりあえず3日おきに進捗を報告するからまずは3日待ってくれ」
「頼んだぞネイサン」
「よろしくお願いします」
ネイサンと固い握手を交わし、一行は商店を後にした。
「さて、次は武具かな」
武具店に向かっている途中、人だかりができている場所があった。
「何だろう?ブライ、お父さん、見に行きましょうよ」
「あっ!待ちなさい!」
セレスはカイノスの制止も聞かず走って行く
「嫌な予感がするのう・・・」
ため息をついたカイノスについてブライも人だかりの方へ
「さぁさぁさぁ!ごらんください!世にも珍しい鬼族の子供です!洗脳の首輪付きだから安心!腕力もこの通り!300万Gでいかがですかぁ?」
そこには大きな石を持ち上げる、角の生えた子供がいた。年齢は人間でいうところの10歳か11歳くらいか、その少年の目には生気が宿っていなかった。洗脳の所為だろう。
「奴隷商か。鬼族とは珍しいのう。」
鬼族、数ある種族の中でもエルフ族と並んで人間に容姿が近い種族だ。エルフ族は魔力特化の人が多いが、鬼族は魔力が使えない分、圧倒的腕力が備わっている。ブライが500年前の旅で戦った大人の鬼は建物を投げる事ができる程の力を持っていた。
「さて、セレスはどこに・・・あっ」
「ちょっとアンタ!子供を奴隷にして売るなんて酷いじゃない!」
「なんだぁ?文句あんのか姉ちゃん・・・よく見りゃいい女だな。お前も奴隷にしてやる!」
「あのバカモン・・・揉めるなと言ったそばから」
「やれるもんなら・・・やってみなさいよ!!!」
「よーし、お前たち、捕まえろ!」
奴隷賞の後ろから出てきた男たちが飛び掛かり、セレスは杖で殴りつける
どうやら自分に筋力アップの補助をかけているらしい。
「ば、ばかな・・・こんな小娘が・・・」
勝負は一瞬だった。圧倒的魔力(腕力)の前に男たちは地面にひれ伏す
セレスの暴力を見て他の見物客達も蜘蛛の子を散らすように去って行った
「あとはアンタだけね」
「へへへ・・・お強いんですねお嬢さん、そうだ!お嬢さんにだったらこの鬼を半額で譲りますよ!」
「あら、ありがとう。でもお金無いから身体で支払っても良いかしら?」
「へ?も、もちろん!へへへ、こりゃラッキーだな」
セレスは拳に魔力を込める
「私の拳も身体よね?ありがたく受け取りなさい!!」
ドゴォッ
奴隷商の顔にセレスの鉄拳がめり込み、奴隷商はそのまま地面にめり込んだ
「はぁ、遅かったか・・・」
ため息をつくカイノス
マヤノに殴られた事を思い出し、回復術師の戦闘力は侮れないなと改めて感じるブライ
セレスがこちらに気付いた時、最初に倒した男のうち一人がセレスに銃を向けている
「危ない!」
「え?」
「死ねぇぇぇ!」
男が引き金を引こうとしたその刹那、ブライは男に手を向けて叫ぶ
「転移魔法!」
銃を構えていた男は消え去った
転移魔法、勇者のみが使用できる伝説の魔法。自分や他者を転移させる魔法である。しかしド〇クエの様にMPを使用せずに気軽に使えるわけでもなく、魔力、体力を大幅に使用し、距離や人数によって使用する魔力も変わる。
「今のが伝説の転移魔法か・・・この目で見るのは初めてだ・・・」
「とりあえず街の外に飛ばしておいた。でも・・・ちょっと疲れたな・・・」
ブライは尻もちをつく
「あ、ありがとう。ごめんなさい油断してしまって」
「全く、あれだけ言ったのにに揉めおって、ブライがいなけりゃ大変だったぞ」
「まぁ、結果的に怪我もないし良かったじゃないですか。最近何もしてなくて空気だったし」
「で、どうするんだ?この子」
「洗脳の首輪を外してあげないとね。呪いがかかってるみたい。今解呪するわ」
首輪は外れたが鬼族の少年は意識を失ってしまう。
「このままにもしておけないし、ブライも大魔法で披露してるし、今夜は宿を取りましょう」
一行はドムス外の宿に入り、夜を迎えた。