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死の予告状

 朝起きると、部屋の中央にあるテーブルの上に一枚の便箋が置いてあった。


 起き抜けの俺は、最初それに気が付かなかったが、小一時間も経つ頃、漸く手に取った。


 昨日、真由美が忘れたのかと思い中身は見ない事にした。


 便箋をテーブルの片隅に追いやり、遅めの朝食をとった俺は見たい番組があった訳では無いがテレビの電源を入れた。


 休日の詰まらない情報番組を暫く眺めた後、髪を切りに、外に出掛けようと思った。


 テーブルの上の鍵を取ろうとした時、それの下敷きになっていた便箋が目に飛込む。


 なんとなく……見たくなった。


『コザイ ミチキヨ

西暦20XX年9月4日19時20分頃

○○駅近くの交差点を渡っている最中、大型車両に跳ねられ死亡』


「真由美の悪戯か?」ぼんやりと眺めて、漸く出た言葉は宙に虚しく消え入った。


 真由美にメールを送ってみる事にした。

『昨日変な紙置いてった?』


 十分、二十分と待ってみるが、返事は無い。


 きっと今頃、笑い転げてんだろうな。と、腹を抱える真由美を頭に思い浮かべてみる。


 さて、どんな仕返しをしてやろうか? とりあえず歩きながら考える事にした。


 俺と真由美は大学は違うが、それ以外はずっと同じ。家も結構近くて、歩いて行ける距離にある。


 ドアの前で、出て来るまで待って驚かす。いやいや、それじゃ他の住人に通報されかねない。


 特に良い考えが浮かんだ訳でも無いが、俺は既に真由美のマンションの前まで来ていた。


 呼び鈴を押してみるが返事は無い。合鍵を使い中に入ると冷房がガンガンに効いた室内で真由美は薄着でぐっすりと眠っていた。

「真由美、おい起きろ。風ひくぞ」

「ん〜……だれぇ〜?」

「俺だよバカ」

「キヨちゃん〜? どったのぉ?」


 真由美は寝惚け眼をしきりに擦り、漸く開いた大きな瞳で俺を見た。

「昨日変な紙置いてったろ?」

「変な紙? キヨちゃんの部屋にぃ?」

「ちげぇの? ならいいや……それよりどっか遊び行こうぜ」


 俺の提案に真由美はガバッとベットから飛び起きると、素早く歯を磨き服を着替え化粧をした。……と言っても、化粧は入念に一時間以上もかけたのだが。


「久しぶりだね、出掛けるの」

「そういや最近、家ばっかだったからなぁ」

「どこ行こっか?」

「お前服買いたいつってたろ?」

「じゃお昼食べてからね〜」


 近所の馴染みの喫茶店で真由美はクソ暑い中、ホットサンドを笑顔で頬張っていた。


 俺が頼んだアイスコーヒーを飲み干す頃には真由美もすっかり食べ終わり、さっき話ていた洋服屋に行く事にした。

「9月なのにまだまだ暑いねぇ〜温暖化だからかなぁ?」

「毎年こんなもんじゃねぇか?」


 降り注ぎ、照り返す陽射しにうんざりしながら駅までの道のりを少しだけ足早に歩いた。


 店内に入れば外の病的な気温と喧騒から解放される。

「はぁ〜極楽極楽ぅ」

「おっさん臭ぇからやめてくれな?」


 冗談めかして言ったのだが、真由美はぷぅと頬を膨らませて見せた。


「これどうかな?」

「良いけど、白のが似合うと思うよ」

「じゃあ白にする!」


 3時間近く、洋服屋や雑貨屋を連れ回され、外はすっかり茜色に染まっていた。

 買い物の帰り道、信号が赤だったので立ち止まり青になるのを暫く待った。

「飯どうする?」

「今日は付き合ってくれたお礼にあたしが作るよ」

「期待してますよ、真由美さん?」

「んふふ、任せてちょ」


 信号が青に変わり、さて進もうかとその一歩を踏み出した瞬間嫌な予感がした。

『コザイ ミチキヨ

○○駅近くの交差点を渡っている最中、大型車両に跳ねられ死亡』


 あの紙にはそう書かれていた。様々な考えが脳裏を過ぎる。

「キヨちゃん危ない!」


真由美の叫び声が聞こえた気がしたが、それは迫り来る轟音に掻き消された。


 地響き、唸るエンジン音。突如としてコンクリートジャングルに現れたのは、巨大な風格漂うゴリラでも殺戮を楽しむ正義の恐竜でも無く、大型のダンプだった。


 人々が足を止めた。

 聞こえて来たのは、何かが潰され、破裂する音。そしてそれに続く金属同士が激しく衝突する音。


 人々の悲鳴や奇声がビルに響く。周囲には血や臓物が飛び散り、黒煙を昇らせる車両もあった。


 一瞬、正に瞬きする間だった。



「真由美……あり、がとう」

「だ、大丈夫、清春?」


二人とも放心状態に近かった。

俺を夢中で引き寄せてくれた真由美も、もしかしたら巻き添えで死んでいたかも知れない俺も。




2007/09/06

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