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サクラハイム物語

すれ違い両想い

作者: さき太

 その光景を目撃したとき、楠城浩太(くすのきこうた)は頭の中が真っ白になった。

 真田(さなだ)一臣(かずおみ)篠宮(しのみや)花月(かづき)にキスをしていた。見間違いとか、事故的ななにかでそうなったとかではなく、背の高い真田が小柄な花月にキスをするために腰を落として、確実にしようと思って、それをしていた。

 いったいいつから二人はそんな関係だったの?頭の中にそんな疑問が浮かんでくる。花月ちゃんのことが好きだった。ずっと。始めて会ったときからずっと。最初は一目惚れだった。スケボーをしている自分にキラキラした目を向けて、凄いとか格好いいとか言ってくれた彼女に目が釘付けになって、それで、彼女に恋をした。彼女が自分の暮らすシェアハウス、サクラハイムにやってきて、一緒に過ごすようになって、一緒に勉強して、一緒に遊んで。そうやって彼女と過ごす時間を積み重ねていくことで、どんどん彼女への想いは募っていった。花月ちゃんの笑った顔が好きだった。なんでも一生懸命やるところとか、どんなことにも目を輝かせて楽しそうにしている彼女が好きだった。いつも元気で明るくて、全身で嬉しいや楽しいを表現して、それで・・・。花月と過ごした日々が走馬燈のように自分の中を駆け巡って、浩太は苦しくなった。胸が締め付けられて、押しつぶされそうで、涙が溢れそうになって、浩太はその場を後にした。俺は何も見なかった。二人がちゃんと皆に話すときまで、俺は何も知らないことにしよう。それで、二人から付き合い始めたんだって報告があったときは、その時は、ちゃんと、良かったねって、そう言うんだ。とぼとぼと歩きながらそんなことを考えて、辛くなって、走り出して。浩太はだいぶ走った先の人気のない川原で、あーっと大きな声で叫んだ。

 花月ちゃんのことが好きだった。いや、大好きだ。本当に。大好きだから、花月ちゃんには笑ってて欲しい。ずっと、花月ちゃんには花月ちゃんらしくいてほしい。困らせるような事したくない。苦しませるようなことしたくない。でも、俺は。花月ちゃんの隣にいるのは俺でありたかったんだ。他の誰のでもなく、俺の彼女になって欲しかったんだ。大好きなのに、大好きだから、言えなかった。好きだって、付き合って欲しいって、ずっと言えなかった。今の関係を終わらせるのが怖かった。同じ場所に住んでるのに、もし上手くいかなくて、顔が合わせづらくなったりして、それでなんて考えたら余計言い出せなかった。ずっと好きだったくせに、このままずっとこうして傍にいられたらなんて思ってたんだ。そんなこと考えてたから、そんなこと考えてもたもたしてたから、だから。だって花月ちゃんすっごくかわいいし、美人だし。そりゃ、他の人だって花月ちゃんのこと好きにならないわけないじゃん。他の人が俺みたいに二の足踏んでずっともたもたしてるとは限らないじゃん。それに花月ちゃんだってずっと誰かに恋しないなんてあるわけないじゃん。だから、しょうがないじゃん。こうなるのはしょうがないだろ。そう自分に言い聞かせて、浩太は蹲った。

 そもそも二人はサクラハイムに来る前からの知り合いだったんだもんな。もしかすると、俺よりずっと前から真田さんは花月ちゃんのこと好きだったのかもしれない。でも、最初は二人険悪な雰囲気だったのに。仲直りして、それで。真田さんよく、これお前好きだっただろとか言って、花月ちゃんにお菓子作ってたっけ。でもアレは他の皆にも作ってたし。勉強してると、少し休憩したらどうだってお茶と一緒に差し入れしてくれたりして。そういえば、友達のお墓参りとかで二人で出掛けてから、それ以降ちょこちょこ花月ちゃんのこと誘って真田さん出掛けてた気がする。思い返してみると真田さん、結構前から花月ちゃんのこと好きだったのかも。それで、俺と違って色々アプローチしてたのかもしれない。それで、それが実って、二人はそういう関係になって。真田さん、いい人だし。俺と違って、背も高くて体格良くて、カッコイイもんな。男らしい見た目に反して、趣味がお菓子作りや手芸、料理とかで、デコレーションとか盛り付けもかなり凝って乙女チックな感じだけど。昔はそれを本人気にしてあまり趣味のことをやらないようにしてたけど、今は開き直って堂々とやってて。趣味が乙女チックだからってそれがどうしたって話しで、花月ちゃんはそんなこと気にしないというか、食べることが大好きで細工物見たりするのも好きな花月ちゃんにとったらそれって+要素にしかならないだろうし。きっと真田さんとなら・・・。そんなことを考えて、浩太は自分の中の想いを整理した。これで諦めがつくわけじゃない。簡単に諦め切れるような想いじゃない。でも俺は、花月ちゃんのことが大好きだから、花月ちゃんがそれを選ぶなら、幸せになれるなら、それを祝福するんだ。そう思って、浩太は帰路につき、なにもなかったフリをして、色んなものを押し込めて、いつも通りを偽った。

 自分が目撃したものが真田の一方的な想いだったと知ったとき、どうして二人が上手くいくように花月の背中を押したのか、浩太には解らなかった。花月が、一臣に告白されたんだと言って、一臣のことはずっと友達だと思ってたからよく解らなくて、でもちゃんと答えなきゃいけないってことは解っててと、困ったように言うのを見て、色んな想いが自分の中に駆け巡り、諦めようとしていた想いが湧き上がりそうになって、でも、結局、何も言えなかった。

 「一臣は、わたしといると世界が広がって見えるんだって。同じ景色が彩り豊かに輝いて、全然違った景色に見えるんだって。だから、これからもずっと傍にいて欲しいって言われたんだ。友達としてじゃなくて、これからは恋人として、傍にいて欲しいって。」

 自分の気持ちを整理するようにぽつりぽつりとそう話す花月の言葉を聞いて、浩太は、その気持ちすげー解るなと思った。自分もそう。真田さんと同じように、花月ちゃんといると世界が全然違って見える。嫌いだったものも好きになれた。興味を持って取り組めるようになった。新しいことにも挑戦して、自分の世界が広がった。

 「急にキスされた時は吃驚したけど。一臣にごめんって謝られて、そんなこと言われて。こんなことして悪かったとは思ってるけど、本気だって事は解って欲しいって。一臣とのこと真剣に考えて欲しいって言われて、わたしさ・・・。」

 そう言って、心底悩んでいる様子で黙り込む花月に、浩太は悩むなら実際付き合ってみれば?と言っていた。

 「花月ちゃんは、いつも元気で明るくて。何でも楽しそうに一生懸命取り組んで、いつも笑顔で。ちょっとしたことで本当に嬉しそうに笑って、本当に楽しそうに笑って。花月ちゃんのいる世界はいつだってキラキラしてるから。花月ちゃんがいると、いつだって元気になれるから。自分も楽しくなれるから。そんな花月ちゃんだから、きっと真田さんも花月ちゃんといる世界がキラキラして見えるんだと思う。真田さんとお付き合い始めたらさ、きっと花月ちゃんが見てる世界も変わるよ。花月ちゃんは今でも凄く楽しそうだけど、きっと、今とは違った風に世界が輝いて見えて、もっと楽しくなると思うよ。嬉しいことも、もっと沢山増えると思う。俺は花月ちゃんにずっと笑ってて欲しいから。だから、そんな風に悩むくらいなら、いっそのこと飛び込んでさ。それで、今までずっと始めてすることに目をキラキラさせて何でも楽しんできたのと同じように、誰かとお付き合いするって初めての体験を思いっきり楽しんで欲しいと思う。花月ちゃん、真田さんのこと嫌いじゃないでしょ?なら、付き合ってみればいいじゃん。」

 俺はいったい何を言っているんだろう。ここで俺も君が好きなんだって、真田さんじゃなくて俺を選んで欲しいって、そう伝えれば。もしかしたら俺を選んでくれるって可能性もあるのに。どうしてこんなこと言ってるんだろう。悩んでいる彼女を見たくないから?自分の気持ちを伝えて、これ以上彼女を悩ませたくないから?両方には絶対に応えられない想いに挟ませて、彼女を苦しめたくないから?いや、ただ自分が怖いだけなのかもしれない。彼女に辛い思いをさせたくないなんて言葉を言い訳に、ただ逃げているだけなのかも知れない。

 「そうだよね。悩んで答えが出せないなら、実際付き合ってみて、一臣の気持ちや自分の気持ちと向き合ってみるっていうのもアリなのかもしれないよね。ありがとう、浩太。わたし、一臣の所に行ってくる。」

 そう言って清々しく笑う彼女を見て、浩太は、いってらっしゃいと言って笑った。そして去って行く彼女の背中を見送って、浩太は目を伏せ、溜め息を吐いて、自分の膝に頭を付けて蹲った。今まで一緒に過ごしてきた彼女との日々が、彼女の笑顔が、その声が、鮮明に蘇って涙が溢れた。

 「花月ちゃん。俺は。俺は、花月ちゃんのことが好きなんだ。本当に、大好きなんだ。本当は、俺の隣にいて欲しかった。俺の彼女になって欲しかった。」

 そう呟いて、浩太は花月の幸せを願った。

 そして年が過ぎ、浩太はサクラハイムを離れ、イタリアの地に住む祖父母の元で生活をしていた。花月が真田と付き合い始めた後も、浩太は変わらず彼女と一緒に勉強を続けていた。一緒の大学に行こうと、香坂(こうさか)に勉強をみてもらいながら受験勉強に励み、模擬試験の結果にお互いお互いのことのように一喜一憂した。彼女から友達としか思われていなくても、それでもその時間が楽しかった。時々胸が締め付けられ苦しくなったが、そうやって彼女と過ごす日々が幸せだった。受験に失敗した時、浩太は浪人して受験し直す気にはなれなかった。そこまで大学に行きたいという気持ちもなかったし、失恋しているのに彼女を追って何になるとも思った。良い機会だから離れよう。離れて、これからはお互い違う道を歩いて行く。そう思ったとき、浩太は、遠く離れたってずっと一緒に頑張っていこうと彼女と約束したことを思い出した。遠く離れもう二度と会えなくなったとしても、彼女に自分は頑張っているって、ここにいるって伝わるように、一人じゃないって彼女に思ってもらえるように、少しでも彼女の支えになれるようにそう思ってした約束。頑張って世界で活躍するような人になって有名になるんだって、それを本気でやってみようかな。そんなことを考えて、浩太はイタリアに飛んだ。

 そして、元々得意だったジャグリングの技術を磨き、ディアボロや手品も取り入れて、できる技の種類も精度も上げて。実際にストリートパフォーマンスで小銭を稼ぎながら、どうやったらもっと人を集められるだろう、もっと人を楽しませれるだろうなんて考えて、他のパフォーマーを参考にしてアクロバットな動きを磨いて目を引くように頑張って、技術も盗んで取り入れて。気がつけばファンがつき、ちょっとしたお祭りなんかに呼ばれるようになり、ストリートパフォーマンスの世界大会に出場し優勝して、色んな所に引っ張りだこになって。気が付けば、忙しい時間の合間のふとしたときに、皆どうしてるかなとサクラハイムの面々が頭に浮かぶ日々を送るようになっていた。花月ちゃん、俺、頑張ってるよ。君にも俺が頑張ってるって届いてるかな。少しでも俺のことを励みにして頑張ろうって思ってくれてたら、凄く嬉しいな。そんなことを考えて、まだ想い出にしきれていない自分の想いを感じて、浩太は胸がざわついた。久しぶりに日本に戻って、そしてサクラハイムに顔を出すから。だからきっと俺は今こんな思いがしてるんだ。そう思う。あれから随分と時間が経つのに、自分の中の彼女への想いをまだ想い出にしきれていないから、自分が日本を離れている間に彼女が彼とどう過ごしていたのかを想像して苦しくなる。久しぶりに皆に会えることを楽しみにしている。でも、二人の今を見たくない。自分ではない誰かの隣で彼女が幸せそうに笑っている姿を見たくない。そう思っている自分を感じて、浩太は気が塞いだ。

 ある日、浩太は幼馴染みの柏木(かしわぎ)(はるか)と一緒にパソコンの画面を覗いていた。同じイタリアで暮らしていても、彼が留学している学校がある場所と浩太が暮らしている場所はだいぶ離れているため、今は昔ほどしょっちゅう一緒にいるわけではなかった。それでも今も仲は良く、遙は長期休暇になると浩太の所に泊まりがけで遊びに来ていた。そんな時に、サクラハイムで過ごした日々をアルバムにして皆に渡そうと思うから載せたい写真を選んでくれと、真田からメールが来たため、二人でそれを開いて見ていたのだった。パソコンの画面に広がる懐かしい日々を眺め、浩太は胸が暖かくなると同時に少し苦しくなった。花月ちゃん、いい顔してるな。そんなことを思って、それを写した真田の想いを浩太は感じた。真田さんの写真はどれも生き生きしてるけど、花月ちゃんの写真は他のと雰囲気が違う。二人が仲直りした頃から花月ちゃんの写真が徐々に増えて、これ、夏休み明けぐらいかな、このへんからはあからさまに他の人に比べて花月ちゃんの写真が多いよな。これ見れば、この頃から真田さんが花月ちゃんのこと好きだったって、自分もずっと花月ちゃんのことが好きだったから、本当に真田さんは花月ちゃんのことが好きなんだって解る。解るから、だから、花月ちゃんの相手が全然知らない誰かじゃなくて、真田さんで良かっなって、そう思おう。そう思う。

 「浩太がもたもたしてるからって、一臣の奴、横から花月のことかっさらってさ。あいつが花月とってったの、俺、今でも納得できないんだけど。」

 忌々しげにそう言う遙の声を聞いて、浩太は苦笑した。

 「そんなこと言っても、それは真田さん悪くないじゃん。横からかっさらうもなにも、俺と花月ちゃん別に付き合ってたわけじゃないし。それに、最後は花月ちゃんが自分で選んだことだしさ。それをどうこう言えなくない?」

 「そうだよ。お前がもたもたしてんのがいけなかったの。絶対、告白すれば上手くいってたから。花月もお前の事好きだったのに、あいつが自覚する前に一臣が手出すからさ。」

 「いや、それは解らないじゃん。花月ちゃんにとってはサクラハイムの皆が特別で、大好きでさ。俺も含めみんな友達というか、家族だったんじゃないかなって思うよ。俺が告白してたって、困らせるだけで良い返事はもらえなかったんじゃないかなって俺は思う。」

 「そんなことない。絶対、花月はお前の事好きだった。そんでもって一臣は花月がお前の事好きだって解っててとったんだからね。だから、あいつのあれは横取りだし、俺は納得いかない。浩太と花月が両想いだって解ってながら、花月の無自覚につけ込んで奪ってったあいつを俺は許せない。」

 遙がそう憤慨しだし、一つの写真を選んで画面に大きく広げた。

 「ほらこれ。この花月の写真。ここに写ってるあいつさ、恋してる顔してるじゃん。そいつといるだけで嬉しいみたいな、心が浮き足立ってふわふわしてるみたいなさ、そんな顔してるじゃん。そんでもって花月がこんな顔向けてる相手は写真撮ってる一臣じゃなくてお前だからね。ここには写ってないけど、この時花月の視線の先にいたのはお前だから。これを撮ったってことは、一臣もそれ解ってたって事だからね。あいつ、本当ずるい。花月が浩太のこと好きだって解ってたから、花月がそれを自覚する前に行動起こして横取りしてさ。両想いだったのに、お前まんまと出し抜かれたんだぞ。バカ。このヘタレ。今からでも日本飛んで奪ってこい。」

 そんな遙の怒声を聞きながら、浩太はそんなことできるわけないじゃんと思った。当時が本当にそうだったとしても、あれから何年も経った今更、今更言ったところでどうにもならない。でも、当時が本当にそうだったとしたら、本当に彼女と両想いだったのなら、あの時彼女の背中を押さず告白していれば、今の自分達の関係は違うものになっていたのかもしれない。パソコンの画面に写る花月の写真を眺め、浩太は胸が締め付けられて、そして、心の中で、花月ちゃん大好きだよ、今でもずっと、と呟いた。だから俺はずっと頑張っていく。これからもずっと、あの時花月ちゃんに約束したことを胸に。遠く離れても、一緒にはなれなくても、ずっとこれからもお互いを励みに頑張っていけるように。俺は君の太陽であり続けられるように、頑張っていく。


 ふと目が覚めて、浩太は不思議な気分がした。目が覚めたのに、今見ていた夢が現実でこっちが夢の中のような気がして変な感じがする。そんな感覚に戸惑い、起き上がり、浩太は自分の手を開いたり握ったりしてそれを呆然と眺めていた。ちゃんと感覚がある。ここは現実だと思う。あまりにも今見た夢が鮮明で、夢の中で感じた自分の想いが強烈で、あれは本当のことなんじゃないかと思って、横を見て、隣のベットで寝息を立てる遙を視界に捕らえ、自分が今サクラハイムの自室にいることを認識し、浩太はあれはやっぱり夢だよなと思った。今、自分は十七歳。まだ高校生。今俺は、遙ちゃんとルームシェアしてサクラハイムで生活してるし、大学受験はこれからだ。部屋を見渡し、壁に掛けられた自分や遙の制服や、変わらない部屋の様子を見てそう思う。そして、自分の頬の涙の後を拭って、浩太は俯き、自分の手に視線を落とした。

あんな夢を見たのは、やっぱりあんな場面を目撃してしまったからだろうか。数日前、浩太は真田が花月にキスをしている場面を目撃してしまった。そして、それを見なかったことにして、いつも通りを取り繕って生活していた。でもそんなことは遙にはバレバレで、なにかあったのと訊いてくる彼に浩太は本当のことはなにも言えず、適当にごまかしていた。二人がキスしてるとこを見ちゃったんだって言ったら、遙ちゃんはなんて言うかな。夢の中の様に怒るんだろうか。浩太がもたもたしてるから、今からでも花月に告白してこい、そんなこと言うのかな。でも、夢の中とはいえ、花月ちゃんが本当は俺のこと好きだなんて、都合が良いにも程がある。そう思う。アレはきっとただの俺の願望だよな。そう思って胸が苦しくなった。

 浩太が二人のキスの現場を目撃して以来、二人の様子はどこかおかしくて、ぎこちなくて、そして花月はなにかに悩んで気が塞いでいる様子でなんとなく元気がなかった。だから浩太は、夢の中で自分がしたのと同じように花月を遊びに誘って、二人で公園に出掛けた。以前彼女が自分の出生を知って、自分の現実にうちひしがれて思い悩んでいた時、少しでも元気になって欲しくて遊びに誘ったのと同じように、好きなことを思いっきりやって忘れちゃうという自分の気分転換の方法に誘って、そして、あの時と同じように思いっきり二人でスケートボードを楽しんだ。あの時は初心者だった花月ちゃんも、今はだいぶ上達して自分と同じくらい乗れるようになった。こんなのもできるようになったんだよと言う彼女に、じゃあこれはと浩太が違う技を見せて、技を競い合って、障害物を立てて競争して。彼女が自分の好きなことに興味を持って、夢中で楽しんでくれて、それが本当に嬉しくて。こうやって一緒にいられて、こうして一緒に過ごせるこんな時間が本当に楽しくて、幸せで。あぁ、やっぱり俺は花月ちゃんのことが好きだな。花月ちゃんも俺のこと本当に好きでいてくれたらいいのに。そう思って苦しくなった。

 遊び疲れて、二人並んでベンチに座る。自販機で買った飲み物を飲みながら、沈黙が流れ、そして。浩太が何かを口に出そうとしたその時、先に花月が口を開いた。

 「浩太はいつもわたしに元気をくれるね。」

 そんな花月の言葉を聞いて彼女の方を見ると、微笑む彼女と目が合って浩太は胸が高鳴った。

 「浩太、始めて会った日のこと覚えてる?わたし、ここに座ってて、浩太があそこの階段の手すりをスケボーで滑って降りてきて、ジャンプして、スケボー回転させて自分も回って、わたしの目の前に着地してさ。わたし凄く吃驚して。凄いなって、格好いいなって目が釘付けになっちゃって。わたし、あの時さ、家出してきて友達に会いに来て、でも友達がみつからなくて。探しても探してもどこにも居なくて。凄く落ち込んでたんだ。どうせ帰り道も解らなかったけど、解ったとしても家には絶対に帰りたくなかったし、でも友達もこのまま見つからなかったらどうしようって、なんか頭の中がごちゃごちゃして、凄く苦しくて、ここで動けなくなってた。でも、浩太がそうやってわたしの前に現れて、そしたらパーって気持ちが明るくなって一気に元気になれた。浩太と話して、浩太がサンダルくれて、凄く嬉しかった。もうちょっと探してみようって、頑張ろうって気持ちになれた。」

 そう言って花月は懐かしそうに目を細めた。

 「最初に会ったときだけじゃない。わたしが落ちこんでたり元気がないと、浩太はいつも元気をくれる。わたしがサクラハイムに居られなくなりそうになったあの時も、今も。浩太と一緒だといつも楽しくて、胸が暖かくなって、落ち込んでたり元気が出ないときもいつだって元気になれて、頑張ろうって気持ちになれる。浩太はわたしの太陽だね。」

 そう言って笑う花月を見て、浩太は胸がいっぱいになった。

 「浩太は凄いね。憧れちゃうな。わたしも浩太みたいに、誰かに元気をあげられる人になりたいな。皆を笑顔にできる人に、わたしもなりたいな。」

 そう続けられた花月の言葉に、浩太は何かが自分の中ですとんと落ちた。そうだった、夢の中でも花月ちゃんは俺にこう言ったんだった。花月ちゃんにとっての俺は憧れで、目標だった。花月ちゃんが俺に向ける想いは、尊敬とかそういうモノで、恋愛感情じゃない。そう思ったから、俺は。ずっと花月ちゃんに憧れ続けてもらえる人で在ろうって、花月ちゃんに凄いってずっと思い続けてもらえるような人になれるように頑張ろうって、そう思ったんだ。彼女の隣には居られなくても、彼女の太陽であり続けたいってそう思った。

 「実はわたし、今悩んでてさ。それで頭の中がごちゃごちゃしてよく解らなくて。どうしたらいいのか解らなくて。それで、ちょっと、なんかいつも通りができないというか、よく解らない感じになってて。」

 少し俯いてそう言って、花月が夢の中と同じように困ったような顔をして、実は一臣に告白されたんだと呟いた。夢で見たのと同じように、告白までの経緯を話し、一臣のことはずっと友達だと思ってたから、ちゃんと答えなきゃいけないってことは解ってるんだけどと、胸の内を吐き出す彼女を見て、浩太は夢の中と全く同じ事をしていた。彼女の背中を押して、真田のもとに行くように促していた。どうして俺はまたこんなことを言ってるんだろう。そう思う。こうした結果がどうなるのかは夢で見たじゃん。いや、アレは夢だから、実際あの通りになるとは限らないけど。でも、それでも、ここでちゃんと告白しないから、ずっと俺は花月ちゃんへの想いを引きずってっていうのは本当にあり得そう。だって、花月ちゃんは本当に特別だから。花月ちゃんがいたから、俺は頑張れるようになった。勉強嫌いも克服して、ちゃんと勉強するようになって。苦手なものからすぐ逃げてたのが、最初から逃げないで挑戦するようになった。知らないことを知ることが、できなかったことができるようになることが凄く嬉しくて、凄く楽しいってことを知って。花月ちゃんと出会えたから、花月ちゃんに恋をしたから、俺は変わったんだ。最初はただの一目惚れ。花月ちゃんの見た目に惹かれただけだった。そしてただの下心で一緒にいて好きでもないしやりたくもない勉強を一緒にしてて。でも今は、本当に花月ちゃんのことが好きだ。見た目だけじゃない。花月ちゃんが花月ちゃんだから、俺は花月ちゃんが好きだ。

 「花月ちゃん。俺は、花月ちゃんがいたからいつだって頑張れた。花月ちゃんの笑顔に励まされて、元気をもらって。いつだって何でも一生懸命やってる花月ちゃんを見て、やりたくないなって逃げそうになっても、俺も頑張らなきゃって思えた。花月ちゃんが一緒に喜んでくれたから、楽しいとか嬉しいとかそういう気持ちが何倍にもふくれあがって。俺は。俺に憧れる必要なんて無いよ。花月ちゃんは充分、今だって充分、人を元気にできる人だよ。人を笑顔にできる人だよ。花月ちゃんは俺の太陽だ。ずっと、これからも君は俺の太陽だよ。」

 結局、ちゃんと好きだって、真田さんじゃなくて俺を選んで欲しいって言えなかった。でも、これが俺の気持ち。これが精一杯の俺の告白。今だって悩んでるのに、これ以上彼女を悩ませたくない。俺と真田さんの気持ちの板挟みにして苦しめたくない。それも本当。それでも、自分の気持ちを知って欲しい。できる事なら本当に、俺を選んで欲しい。それも本心だから。だから、好きとは言わない。でも、精一杯、俺が花月ちゃんのことが好きだって気持ちだけは、俺にとっての花月ちゃんがどんな存在なのかだけは伝えたかった。これで伝わるかは解らないけど、俺が本当に君のことが大好きだってことを君に知って欲しいんだ。君が俺の特別だって事を解って欲しい。それが解ってもらえるなら、それでいい。俺が君に向けたそれが恋愛感情だと気付いてもらえなくても。

 「そっか、浩太もわたしと同じ気持ちだったんだね。」

 そう言って嬉しそうに笑う花月の顔を見て、その言葉の意味が、本当に自分の気持ちと同じモノだったら良かったのにと浩太は思った。そうなら俺たちは両想い。いや、今でも充分両想いなのかもしれない。お互いがお互いを太陽だと思ってるなら、太陽は遠く離れた場所から自分を照らし暖めてくれるものでそれは触れられるものじゃないから、きっと今の距離が正しい。

 「浩太のおかげでわたし、ちょっと自分に自信が持てたよ。わたしも誰かの太陽になれるんだなって。人からもらってばっかじゃなくて、ちゃんと人に何かあげられてたんだなって。浩太のおかげでそう思えた。浩太、ありがとう。」

 そう言う彼女の笑顔から、自分に向けられた心からの感謝の気持ちが伝わってきて、浩太は笑った。胸がいっぱいだった。彼女の想いが嬉しくて、でも、そこに恋愛感情がないと思うから苦しくて、そして。一臣の所に行ってくると言う彼女を見送って、浩太は目を伏せて、自分の膝に頭を付けて蹲った。真田さんの所へ行って、花月ちゃんは告白の返事をする。それで、きっと二人は付き合いだして・・・。そんなことを考えて、今まで花月と一緒に過ごしてきた日々が脳裏に鮮明に蘇って、想い出が止めどなく溢れてきて、それと共に涙が溢れた。

 「花月ちゃん。俺は。俺は、花月ちゃんのことが好きなんだ。本当に、大好きなんだ。本当は、俺の隣にいて欲しい。俺の彼女になって欲しい。真田さんじゃなくて、俺を選んで欲しいんだ。」

 そう口に出して、浩太は嗚咽した。溢れる涙を抑えようとしても抑えきれなくて、とまらなくて、声が漏れ、それを必死に抑えながら泣き続けていた。

 「浩太、大丈夫?具合悪いの?」

 心配そうな花月の声がして、浩太は驚いて顔を上げた。

 「なんで泣いてるの?なにかあった?」

 心底心配そうにそう言ってハンカチを差し出してくる花月を目にして、浩太は何でと呟いていた。

 「真田さんの所に行ったんじゃなかったの?」

 「行ってきたよ。」

 「それで、どうしてここに戻ってきたの?」

 ここに彼女がいる理由が解らなくて、心底意味が解らなくて、浩太はただただ目の前の状況に混乱していた。

 「だって、浩太にわたしの気持ち伝えたかったから。」

 はにかんで花月がそう言って、浩太は更に混乱した。

 「わたし、解ったんだ。わたしにとって浩太が特別なんだって。浩太、さっき言ってたじゃん。わたしが一緒だと楽しいとか嬉しいとかそう言う気持ちが何倍にもふくれあがるって。わたしも一緒。浩太が一緒だと楽しいとか嬉しいとかそう言う気持ちが何倍にもふくれあがって、凄く凄く楽しくて、凄く凄く嬉しくて。他の人といるときとは全然違うんだよ。浩太の顔見てると、こうやって一緒にいられて嬉しいなって、幸せだなって、なんかいつも胸の真ん中が暖かくなって。なんか凄くふわふわした気持ちになって。なんかね、もぞ痒い感じがして、変な感じがしてた。どうしてそうなるのかよく解らなかったんだけど、でも、解ったんだ。さっきの浩太の言葉を聞いて、わたし凄く嬉しくて。浩太もわたしと同じだったんだって凄く嬉しくて。なんか気分が凄く上がって、どっか飛んでっちゃいそうな感じがして。それで、浩太のこと考えてドキドキしてる自分を見付けたの。それで、そっか、わたしの浩太への気持ちは好きって気持ちだったんだなって。ずっと浩太に感じてたこれは、浩太のことが好きってことなんだって。わたし、浩太に恋してたんだって気付いたんだ。だから一臣に、わたしは浩太が好きだから一臣の気持ちには応えられないってごめんなさいしてきて、それで、浩太にこれを伝えなきゃって戻ってきたの。」

 恥ずかしそうにそう言って、顔を赤くして目を伏せて、花月は気持ちを落ち着けるように深呼吸して、顔を上げた。

 「わたしは浩太のことが好き。浩太、お付き合いを始めたらわたしの世界が変わるよって言ってたけど、今とは違った風に世界が輝いて見えてもっと楽しくなると思うって、嬉しいことももっと沢山増えると思うって言ってたけど。そういう風にわたしの世界を変えてくれる人は浩太が良いって思うから。浩太の世界も一緒にそうなってくれたら良いなって思うから。だから。わたしとお付き合いして下さい。」

 そう花月に告白をされて、浩太は頭の中が真っ白になった。これは夢?花月ちゃんが俺に告白とか、そんな事って。

 「ダメ、かな?浩太はわたしとお付き合いするのはイヤ?」

 そんな不安そうな花月の声が聞こえて、浩太はハッとして、必死に、ダメじゃない、ダメなわけないしイヤなわけなんて絶対ないからと弁解した。良かったと心底ホッとした様に胸をなで下ろす花月を見て、これは夢じゃないんだと思って、心臓が早鐘を打って顔が熱くなる。

 「えっと、あの。花月ちゃん。」

 しどろもどろに声を掛ける。

 「その。俺も、ずっと前から花月ちゃんのことが好きでした。よろしくお願いします。」

 なんとかそう言葉にして、そして、その言葉に心底嬉しそうに笑う花月の顔を見て、浩太は、うわっこれはヤバいと思った。花月ちゃんかわいすぎだから。本当、なにその顔。ヤバい、心臓が爆発しそう。そんなことを考えて、俯いて、顔が上げられなくなる。

 「浩太。あのさ・・・。」

 緊張した様子の花月の声がする。

 「キス、してもらってもいいかな?」

 そんなお願いをする花月の声が聞こえて、浩太は顔を上げて彼女と目が合って固まった。そして今度は花月が顔を真っ赤にさせて俯く。

 「いや、その。せっかく好きな人とお付き合いできたなら、さ。あの。意図せず最初は奪われちゃったし。その。浩太にして欲しいなって・・・。」

 小さい声でぼそぼそとそう言う花月の言葉を聞いて、浩太は意を決して、彼女の肩に手を置いた。顔を上げ、緊張で身体を強張らせながら目を閉じて自分の次の行動を待つ花月を見て、浩太も酷く緊張する。心臓の音がうるさい。あぁ、もう本当にうるさい。彼女の肩に置いた自分の手が震えていることに気が付いて、本当格好つかないじゃんなんて思う。そんなことを思いながら、彼女の顔に自分の顔を近づけていって、そして、そっと彼女の唇に自分のそれを重ねた。その感触に、なんとも表現できない思いがこみ上げてきて、浩太は胸がつまった。一度唇を離して、もう一度確かめるようにキスをして。そうされて花月が戸惑っているのを感じて、一気に恥ずかしくなって、彼女の肩からぱっと手を離して、浩太は顔を背けた。

 「えっと。その。ごめん。」

 「うーうん。大丈夫。その。ありがとう。」

 お互いお互いの顔が見れないままそんなことを言い合って、よく解らない沈黙が続いて。

 「帰ろっか。」

 「そうだね。」

 そう言い合って、二人で帰路についた。並んで歩きながら、そっと花月の手を握ってみる。そうすると彼女が一瞬吃驚したような顔をして、それから嬉しそうに小さく笑って自分の手を握り返してきて、浩太も嬉しくなって小さく笑った。ずっと好きだった。初めて会ったときからずっと。一目惚れから始まった恋は、彼女と過ごすうちに本当の好きに変わって、その思いが思わぬ形で実って、こうして今彼女と並んで歩いている。彼女の手の温もりを感じながら、浩太はその幸せを噛みしめて、これからもこれを離さないようにずっと一緒に歩いていたいなと思った。

 そして、一緒の大学に行こうと言って香坂に勉強を見てもらいながら二人で受験勉強に励み、花月のランクに追いつくために浩太は必死に勉強して、模擬試験でなんとかギリギリ志望校の合格ラインの点数が出せるようになって挑んだ大学受験。夢と同じように、花月だけ受かって自分は落ちて、浩太は撃沈した。せっかく夢の状況が覆って、花月ちゃんと付き合えて。花月ちゃんとのキャンパスライフ本当に楽しみにしてたのに。俺、すげー頑張ったのに。こんなのってあり?そんなことを考えてちょっといじけモードに入る。

 「ここまで来たんだし、あと一年勉強頑張れば浩太も絶対、市ヶ谷学園受かるよ。浪人して一年遅れで入学でもいいんじゃないかな?」

 そんなことを言われ、本当にギリギリの所で受からなかった試験の答案を眺め、浩太はあと一年かと思った。花月ちゃんと大学生活送りたいって気持ちはあるけど、でも、一人であそこまで勉強頑張れる気がしない。そんなことを思って、これからどうするか考えてみる。

 「やっぱ俺には勉強向いてないし、そこまで大学行きたいって訳じゃないからさ。俺、浪人はしないで、イタリアのばーちゃん家行くよ。」

 そんな浩太の言葉を聞いて花月が落ち込んだような顔をして、浩太は慌てて、花月ちゃんと大学行きたくないわけじゃないよと弁解した。

 「花月ちゃんとのキャンパスライフ、俺、すげー楽しみにしてたし。花月ちゃんと同じ大学通えたら凄く楽しいんだろうなって思ってるよ。これからも花月ちゃんと一緒に頑張っていきたいって、その気持ちは変わってないから。」

 そう言って、どう言ったら伝わるかなと思って、浩太は少し考えてから言葉を口にした。

 「昔さ、将来のこと話したときのこと覚えてる?俺、正直、今でも大学行ってなにになるのって思ってるし、浪人してまで大学行って、じゃあその先はどうするんだって思うんだ。花月ちゃんは学校に通うのが夢だったんだし、花月ちゃんには大学生活をおもいっきり楽しんで欲しいって思ってる。俺も一緒にそこにいて、一緒に楽しめたら良かったなって思う。でも、俺の大学に行きたいは、花月ちゃんありきだから。花月ちゃんが市ヶ谷学園に入ってストリートパフォーマンス研究会入りたいって言って、キャンパスライフを夢見て楽しそうにしてたから、そこに俺も入れて欲しかっただけでさ。俺自身がどうしても市ヶ谷学園行きたいって訳じゃないんだ。正直、俺の頭じゃ市ヶ谷学園なんて入れてもついていけなさそうだし。でも、花月ちゃんが一緒なら頑張れるって自信があったんだ。だから受けた。でも、結果はこうで。花月ちゃんは一足先に大学行っている中、あと一年勉強頑張れるとも思わないし、花月ちゃんが一足先に卒業した後の大学生活を頑張れるとも思わないんだ。俺、元々頭悪いし、そんな根性あるほうでもないからさ。だから、これと言って凄くやりたいわけでもないことをムリして頑張るんじゃなくて、自分が楽しいと思えることを一生懸命やろうと思って。」

 そう言って、浩太は花月に向き直った。

 「だから俺はイタリアに行って、一からストリートパフォーマーとして頑張ろうと思う。俺、本業としてそれが大成するように頑張るから。花月ちゃんは大学で勉強しながらストリートパフォーマンスやって。それで、花月ちゃんが大学を卒業したら、花月ちゃんもそれを本業にしてさ、一緒に世界中を飛び回れたら楽しいと思わない?俺、頑張って、世界で活躍するような人になって、花月ちゃんが来てくれたらすぐにでも一緒に世界中を飛び回れるように土台作っとく。だからこれからも一緒に頑張っていこう。お互い違う場所にいてもずっと、一緒に頑張っていこう。ダメ、かな?」

 そう言って、浩太は花月の顔を覗き込んだ。

 「ダメじゃない。浩太と一緒にストリートパフォーマンスしながら世界中を飛び回るって、凄く楽しそう。わたし、浩太に負けないくらい頑張るよ。それで、大学卒業したら絶対、浩太の所に飛んでいく。」

 そう言って笑う花月を見て、浩太も笑った。大丈夫、遠く離れてたって、俺たちはお互いを思って頑張れる。お互いを励みに、お互い負けないように頑張っていける。俺たちはお互いがお互いの太陽だから、遠く離れたってその光は届くし暖め合える。これからもずっと。そんなことを考えて、浩太は花月に好きだよと伝え、そっと彼女にキスをした。


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