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ファーグレリルの公爵邸  作者: 林来栖
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 ファーグレリルの村では、昔から奇妙な言い伝えがある。


『新月の夜に、公爵様の別邸へ行ってはいけない』


 隣国連珠国随一の港、薫風の入江街から北へ三十キロ。丘陵の稜線を国境とした場所にある、メイラウド王国に属する山間の村。

 人口三十人ほどの小さなファーグレリル村に、公爵様などと言うお偉い方の別邸などあるわけがない。

 が、ファーグレリル村では、祖父母から父母へ、そして孫へと、代々その奇妙な言い伝えが伝わっていた。


 港から大河麗巴江、メイラウド語でダウレイン河伝いに風が上がって来る夏の夕暮れ。

 村のガキ大将レントは、遊び仲間の三人、キーリ、シェン、フレアに、話を持ちかけた。

「なあ。大人達は『新月の夜に、公爵様の別邸へ行ってはいけない』って言ってっけど、俺、今まで山ん中歩いてて、『公爵様』がいそうなお屋敷なんて、見たことねえぞ?」


 レントの父親は猟師である。

 仕事で山へ入ると、長い時は三ヶ月も家へ戻って来ない。

 弓とダガーだけが己の命を守る猟師は、自身で危険を察知し、危ないと思った場所へは決して近付かない。

 レントも、学校が休みになると、時々父親の猟の手伝いに一緒に山奥へ入る。


「俺も無い」木こりの父を持つキーリが同意した。


「俺も、父ちゃんの仕事に時々付いてって、かなり山の奥まで行くんだけど、大きな木はいっぱいあっても、お屋敷なんて見当たらねえ」


「それによ、『公爵様』っていうだけで、名前がわかんねえじゃねえ? メイラウドの公爵様って方は、どれだけいるんだよ?」レントが腕組みする。


 王都から遠く離れた片田舎の、猟師や木こりの子供が、自国の貴族の名や数など、知るはずもない。


「エリックのばあちゃんが、「『公爵様』って言っても、人間じゃないよ。エルフの『公爵様』だよ」って言ってたんだけど……」


 キーリの話に、レントは「俺もそれは、俺のじいちゃんから聞いた」と頷いた。


「でも、エルフなんて、おとぎ話にしか出で来ねえ。ほんとに居たなんて、俺は観てない

から信じねえぜ」


「うん。エルフ族は遠い昔にこの世界からいなくなったって。だからあの言い伝えは多分、新月だと星明かりしかないから、危ないから夜の山道を一人で歩くな、って意味だと思うよ」優等生のシェンが、おっとりと言った。


 父親が村役場の出納係をしているシェンは、四人の中では家柄が一番上である。

 が、温厚な性格で、自分の家が裕福であるということや、成績が良いというのをひけらかしたりはしない。


「あたしも、シェンが言うのが正しいと思うよ」


 四人組のただ一人女の子のフレアが言う。


 フレアは、村で唯一の宿屋の娘である。

 四人姉妹の三番目で、上二人の姉と共に、宿の一階の食堂が忙しい時には手伝いをしている。


「うちに泊まるお客さんはみんな言うけど、この辺りの山道は、夜に時々魔物と出くわすって。山賊も居るし。だから夜は出歩くなっていう戒めの意味よ」


「そうかなあ? 大人達がなんか隠してるんだと、俺は思うけどな」


「……もしかして、レント。あんた新月の夜に『公爵様の別邸』を探しに行こうって言うんじゃないよね?」


 フレアの蒼い目に睨まれたレントは、田舎では珍しい金髪の頭をカリカリと掻いた。


「だってよ、本当にあるのかないのか分からないもんに、いつまでもビクついてるっておかしいんじゃねえ? 魔物ったって、出っくわすのは牙コウモリぐらいだぜ?」


 昔からレントはフレアに睨まれると、どうも萎縮してしまう。

 一歳年上のフレアには、幼児の頃から何かと面倒を見てもらったからかもしれない。


「あんなん、俺のオヤジのダガーで一発で斬れるって。……山賊は、マズいけど」


「でしょ? 『公爵様の別邸』を探すのは、止めといたら? でないと、山賊に殺されるかもよ」


「もーっ!! うるせえよっ!!」


 しかし、今回ばかりは気圧されたくなかった。

 十二歳になり、剣や弓の扱いも随分と上手くなっている。

 何より、男として意地を張りたかった。

 フレアの説教に、レントはムカついて河原の小石を思い切り川面に投げつけた。


「これだから女はさっ。男の冒険ってのを分かってねえんだからっ」


「なーに一人前ぶっちゃって。そんなセリフ、大人になってから言ったら? 今はまだ冒険より、命の方が大事よ」


 フレアは腰掛けていた岩から立ち上がると、スカートの埃を払う。


「もうそろそろ宿の準備の手伝いだから、あたし帰るね。——レント」


「なんだよっ」


「行かない、と思うけど、本当に『公爵様の別邸』探しは、止めときなさいよね」


 河原を、橋へと登って行くフレアの赤毛の三つ編みを睨み、レントは「ふんっ」と腕を組んだ。


「……どーすんだ?」キーリが訊いた。


「俺は、レントが探しに行くっていうんなら、行ってもいい」


「フレアは女だから、心配ばっかしてんだよ。——俺は行くぜ」


 格闘より勉強が得意な優等生は行かないとは思ったが、一応「シェンはどうする?」とレントは尋ねる。


「山賊は……、マズいと思うよ。僕は止めておく」


「そっか。分かった。その方がいい」


 レントはにっ、と笑った。


「んじゃ、行くのは俺とキーリな。明日の夜が新月だ」

えーと(汗)

普通はホラーファンタジー、と題するはずですが、はっきり怖いとは言い難い話でして^^;;

お読みいただいて、多分、「微妙」と思われるとは思いますが。

一応、ホラーですっ。と言い切ってみました。

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