精霊たちの密談【第3者視点】
窓の外から、深淵の闇の中光輝く星と静かに照らす月が見下ろしていた。その窓辺に立ち、アリアは背中越しに声を掛けた。
「私は、マリーの恋を応援致しますわ。
例えこの先どんなことがあろうとも。
…貴方は、どうするのです?」
「…どう、とは?」
ベッドの主の傍らに座り髪を撫でていた手を止め、ルイはちらりと目線だけを向けた。
「言葉の通りですわ。
マリーのこと、どうするのですか?
…貴方も、マリーのこと……」
「別にどうもしない。
まぁ、強いて言うなら、アイツが不甲斐ない態度でいるならカツを入れるくらいはするだろうが。」
くるくると主の柔らかなプラチナブロンドの毛先を弄りながら、ベッドに寄り掛かりつつ肘をつく。
「…本当にそれで良いのですか?」
はぁと1つ息を吐き出して見上げると、低い声で呟いた。
「ーなんだ。
さっきから言ってることが矛盾しているぞ。
お前は俺に何をさせたい。」
珍しく動揺しているのか、アリアはらしくない慌てようで困り顔を浮かべてこちらに振り向いた。
「そんなつもりは……っ。
ただ、それでルイは本当に幸せなのかと……」
「…っは。お前もだいぶ人間に感化されたな。
忘れたのか?俺達は精霊だ。それもこいつの守護精霊だ。
主の幸せは、俺達の幸せ。…そうだろう?
そんなこと、あんたの方がよく知ってると思ってたが…。」
過去にも人に仕えていた経験があるのは、この中で唯一アリアだけ。
他の3人は、マリーが初めての経験だ。
精霊としての格や生きてきた年数などばらつきはあるし、それこそ強さで言えば、ルイが一番強い。だが、人に仕えることの意味を一番理解しているのはアリアだろう。
「勿論よ。
でもだからこそ、知ってるのよ!
主従の関係ではない人との繋がりというものを。」
ずっと神のもとで人に関わらず生きてきたルイ。
人に仕えるどころか、人と接するのはマリーが初めてだった。
マリーが普通じゃないとはじめからなんとなくわかっていた。
だが、そういうマリーだからこそ、惹かれ主従を誓った。
それは他の3人も同じだろう。
それがどんな種類のものであるか、わかっているつもりだ。
そして、その想いを告げるつもりがないことも。
「……そうだな。
そういう繋がりも、あるのだろう。
だが、俺は今の関係を変えるつもりはない。……今はな。」
「……ルイ…。」
「アイツとのことで、もしもマリーが危険な目に合うのなら、その時は容赦はしない。…誰がなんと言おうがかっさらっていく。
それが、俺の役割だ。」
「…貴方は……。
いえ、そうね…勿論よ。
私達は、マリーを守るためにいるのだから。」
ふんと小さく息を洩らし、アリアから視線をマリーへと向けた。
髪を撫でていた右手は、首もとに光る石に触れる。
「聖女…か。」
そんなもの、なんの意味があるというのか。
役割など、とうの昔に失くなって久しいその存在。
今更、何故コイツが背負わねばならないのか。
考えてもどうしようもないことだとわかっていても、苛立つ気持ちは抑えられない。
アイツと出会わなければ…。
だが、それもまた、運命なのかもしれない。
とはいえ、ルイはその運命とやらに振り回される気は毛頭なかった。
「マリーのいきたいように、思うままに。
その為に、俺は動くだけだ。」
その結果、運命に逆らうことになったとしても……。
それが、あの時、誓ったこと。
誰に言うでもなく、ルイは口許を緩ませ主を見つめた。
無鉄砲で、お人好しで、純粋だが、愚かではない幼き少女。
もう二度と目の前から失うことなどないように。
傍で守り抜くと決めた。
「お手並み拝見……だな。」
その言葉に同胞であるアリアは苦笑いを浮かべた。
姿はないが、近くで残りの同胞がいるのもわかった。
これから何が起こるのか、それはきっと誰もわからない。
それでも、どうかここにいる少女が幸せであるようにと願い、静かに夜は更けていった。




