また1人魅了しました。
この家の愛娘、サリエル・ミュラー公爵令嬢は、お茶もそこそこにマリーに向かって頬を赤らめ、瞳をキラキラと輝かせて胸の前で指を組んで首を傾げてきた。
「ねぇ、マリーお姉さま。お茶を飲んだら、ご一緒に庭園を見に行きませんか?我が家の薔薇園は、国内でも有数の庭師によるもので、とっても綺麗なんですのよ!」
「こら、サリエル。マリエリア様をあまり困らせるんじゃない。大体もう夕暮れだ。薔薇園を見るならせめて明日にしなさい。」
そんな娘を嗜め、父親であるミュラー公爵は困り顔でこちらに向かって謝罪してくる。
「申し訳ありません、マリエリア様。早くに妻を亡くし、一人娘のため少々甘やかし過ぎたようです。どうにも我が儘に育ってしまいまして…」
「まぁ、お父様!!我が儘なんて酷いですわ。
わたくしはただマリーお姉さまともっと仲良くなりたかっただけですわ。」
「だから、それが我が儘だと…」
「あ、あのっ!!」
このまま放置すると、延々と親子喧嘩が始まりそうだと思ってつい、口を出してしまった。
「別に私は困っていませんので、そんなに気にしないで大丈夫ですよ。薔薇園はとっても気になるので、ご好意に甘えて明日見せて頂いても宜しいでしょうか?」
「えぇ、勿論です。」
優しい風貌のミュラー公爵が瞳を細め、頷いた。
「それと、あの~…」
私は恐る恐るといった呈で話し掛けた。
「如何致しましたか?マリエリア様。」
「その、言葉遣いなのですが…恩人だとかで気を遣っているなら全然気にしなくていいので!!
……敬語、止めていただけると嬉しいのですが。私、ただの庶民なので、こそばゆいと言いますか…」
そう言うと、何故かミュラー公爵は、ポカンとした顔で固まってしまった。
あれ、私何か変なこと言っちゃった?
お相手は、この国でも名のある貴族であるミュラー公爵家当主だ。不敬を働けば、最悪牢獄行きもありうる。
ハラハラしながら反応を待っていると、次の瞬間ミュラー公爵は盛大に笑い出した。
「!?」
私はさらにワケわからなくなった。
何故大爆笑された、私!!この上なく不可解だ。
誰か答えプリーズ!!
「あぁ、いや失礼致しました。
ですが、貴女様を気軽に扱うことが出来る貴族などまずいないでしょう。下位の貴族ならいざ知らず、上位貴族であるなら、マリエリア様のその指輪の意味に気付かぬ者などいやしませんから。」
「はぅっ!」
またも変な声が出てしまった!
最近、奇声を発する機会が増えた気がする。
変人扱いされたらどうしてくれよう、あのエロ王子め!
そんな内心を押し隠しつつ、公爵に向き直る。
「いつ、気付かれたのですか?もしかして、始めから…?」
ここに連れて来られたのはもしや、王子の策略なのだろうか。私は思わず訝しんでしまった。
そんな様子に気付いたのか、穏やかな表情を浮かべミュラー公爵は軽く首を横に振る。
「いいえ、ここにお連れした後ですよ。事件の後は気が動転していて気付きませんでしたが、馬車から降りた際にエスコートした時に気付きましてね。」
そういえば、ここまで馬車で連れてきて貰った時、1人で降りようとしたら手を差し出してエスコートしてくれたんだった。
ザ・紳士!!
そっか、あの時か!
なら、そんな疑わなくても大丈夫かな?
むしろ、好意で連れてきてくれたのに、悪いことしちゃったわ。
「ご安心下さい。貴女の立場を知ったからといって、利用しようなどという不埒な考えは一欠片も御座いません。むしろ、貴女方をあのまま見送らなくて良かったと安堵しております。
同じ貴族としてお恥ずかしながら、この王都には貴女のことを知り己の権力欲を満たそうとする者も少なくありませんからね。」
様子を伺うに、本気で言っているみたい。
最後の方のセリフは心底嫌悪するような苦い顔をしていたから。
それにしても、そんな可能性もあったのかとぞっとした。もし、もしも私が何も知らず呑気にそこらを歩いていて、私が(仮)婚約者だとバレていたら、誘拐だったり、周りを巻き込んだりしていたかもしれないんだ。
これからどうすればいいんだろ?
まぁ、ルイ達がいるし、私もそう易々と捕まったりしないけど、ディーの会うまでの間、なんとか周りに迷惑掛けずに過ごしたい。
何が最良なのか、部屋でゆっくり皆と相談しようかと考えていたら、先程のサリエル嬢の発言を思い出す。
「あ、あのう…」
おずおずと瞳を揺らし、向かいに座るミュラー公爵を見つめた。
「な、なんでしょうか、マリエリア様。」
一瞬、公爵様が目を見開き、息を詰めた気がしたけれど気のせいだろうか。
「先程、サリエル様からご提案頂いた件なのですが、もしも今もお気持ちが変わっていないのでしたら、用事がすむまでこちらでお世話になっても宜しいでしょうか?」
「…えぇ!勿論ですとも。
歓迎致します、マリエリア様。勿論、お連れの皆さま方も。」
「…っ!!
ありがとうございます!ミュラー公爵様!!」
私はソファから身を乗り出し、思わず公爵の右手を握りしめてしまった。
「…っ!!!
…お礼など、宜しいのですよ。こちらがお礼させて頂いているのですから。」
ミュラー公爵はにっこりと笑うと、私が握り締めた手の上に自らの左手を重ねた。その後、そっと私の手を取りソファに腰掛けるようやんわり促してくれた。
しまった。ちょっとはしたなかったかな?
まぁでも庶民だってのは言ってあるし、これくらいの無作法、許してくれるよね?
なんだかほんのり公爵の頬が赤い気がしたけれど、熱でもあるのかしら?
でも具合は悪い様子は無さそうだし、大丈夫かな。もし、悪化するようなら治癒魔法を掛けてあげよう!
私は安全な寝床を確保出来て浮かれていた。
私達を侍女に部屋まで案内させ、笑顔で見送った公爵は、1人になった部屋の中で独りごちた。
「……危うく、手を出す所でした。
流石、皇太子殿下を虜にしただけはありますね。過ちを犯さなくて良かった。」
30代後半という若き公爵家当主は、今後どう接するべきか、1人頭を悩ませたのだった。
きっとまたルイからは呆れた目で見られていることでしょう。
幼少期を森で過ごしたため、無防備で鈍感に育ったマリー。まさか公爵様までたらし込むとは私も思いませんでした(笑)
さてさて、どうなる!?
ディーのヒーローポジションは常に揺らいでいますwww




