ルルージェ加工店の謎・2
ルルージェさんとは、仲良くなれそうだ。
というか、もっと色々なお話をしてみたくなった。
「私、ルルージェさんがご存知のように、シュヴァルトの森で育ったんです。だから、世間のことに少し疎い所があって…」
「えぇ」
彼女が優しく微笑み、続きを促してくれる。
「…だから、魔力が忌み嫌われているということを子供の頃に知って、ずっと悲しかったんです。でも、最近になって街に出るようになってみたら、以前の噂とは違って、人々が魔力に対して友好的になっていることに驚いたんです。あ、でも、全て、というわけではないですけれど…」
そう、全ての人が認めてくれるのなら、あの子達が、私の元へ来ることなんてなかったはずだから…
私は彼女達のことに考えがいき、少しだけ気持ちが沈んでしまった。
そんな私の様子に気付いたのだろう。
ルルージェさんは、目の前にスッと紅茶とクッキーを出してくれた。
一体いつの間に出したんだろう?
「リノ特製の紅茶と紅茶クッキーよ。
気持ちが落ち着くと思うわ。」
なんという気配り精神!!
日本人も真っ青な『おもてなし』ではないか!!
「あ、ありがとうございます。
それじゃ、ありがたく。」
カップを口に運び、一口飲んでみた。
爽やかな香りが口一杯に広がり、心がほっと暖まった。ミント系の何かが入っているのかもしれない。
クッキーもとっても美味しかった。お店で売っていたら、是非とも常連になりたいお味だ!
私が口元を綻ばせていたのに気付いたのだろう。ルルージェさんはクスクス笑いながら、クッキーの入った袋を私の手元に置いた。
「気に入って頂いたみたいで嬉しいわ。
もし宜しければ、こちらお土産にどうぞ?」
ちょっと、いやかなり恥ずかしい。うっかりスイーツに夢中になってしまったようだ。
でも、彼女の申し出は正直嬉しかったので有り難く頂くことにした。
後方で呆れた溜め息が聞こえる気がするのは、気のせいだと思うことにした。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか。
こちらがご注文のお品ですわ。
マリエリア様、出来映えは如何でしょうか?」
スッと雰囲気が変わった。
接客モードになったようだ。
うっかりルルージェさんの魔力に気を取られて本題を忘れるところだった!
軌道修正してくれたルルージェさんに感謝と謝罪の言葉を告げ、私は手渡された木箱をそっと開いた。
私が頼んだのは、5つのピアスとブレスレットやネックレスと言った普段使いで身に付けるものをいくつか。
ピアス以外は、ルルージェさんへのお任せで頼んだものだ。
ピアスは実は大まかなデザインを指定してあったのだが、想像以上の出来映えに私は感動で言葉を失ってしまった。
「綺麗…」
「お褒め頂き光栄ですわ」
思わず呟いた私の言葉に安堵の息を吐き、ルルージェさんはにっこりと微笑んでくれた。
「本当に素敵です!!ありがとうございます。
…この国では歴史的な問題から基本的にモチーフになるものに月って避けられてるでしょう?だから、最初お願いしたときも、ほんとは断られるんじゃないかとドキドキしていたんです。
でも、快く引き受けてくれて、更にこんな素敵なデザインを作ってくれるなんて…っ!!」
そう、私が頼んだのは【太陽と月】のデザインのピアスなのだ。
さっき自身が口にしたように、この国は太陽の巫女がいたという歴史の背景上、国旗も家紋も太陽をイメージさせるものが数多く存在する。
それとは逆に、隣国のムーンサルトは月のデザインんモチーフにした国旗や家紋が用いられているのだ。
作ってはいけないという決まりはないが、やはり敬遠されるのだろう。この街では一度も見たことがなかった。
だけど、ムーンサルト国は行ったことはなくとも、私のもう1つの故郷なのだ。
母様が暮らしていた国。
私はどちらも大切にしたかったのだ。
家族との絆の証を何か持ちたくて、今回、ルイ達とお揃いのものを依頼していた。
シルバーで形作られた太陽と月の先に、小さな水晶の欠片がついている。
ルイ達のものには、其々の属性の欠片が。
私のものにだけ、全ての属性の欠片がついている。
私はいつも皆と一緒にいるよ。
そんな気持ちを込めてデザインした。
気に入ってくれると嬉しいんだけど…。
護衛として付いてきていたルイが、背後からスッと手を出して緑色の欠片が付いたピアスを手に取る。
ソファから見上げる形だったので、照明の影になって表情は見辛かったけど、口許が緩んでいるのは見てとれて、喜んでいるのだと伝わってきた。
それを見て、私も嬉しくなってしまった。
そしたら、恐る恐るといった様子でルルージェさんが声を掛けてきた。
「あの…間違っていたらごめんなさいね。
貴女方は恋人同士なのかしら?」
「………ふぇあ!?」
私は思わず変な声を出してしまった。
どこからどう見ると私達が恋人同士になるのだろうか!!
「………違う。
こいつとは主従関係で、あえて言うなら、手間のかかる妹みたいなものだ。」
「手間のかかるは、余計だってば!!
でも、彼等とは主従の契約をしてますけど、ルイの言うとおり、私達は家族なんです!」
私は直ぐ様否定した。
「そうだったの。
変な誤解をしてしまってごめんなさい。」
「あ、いえ。こちらこそ突然叫んだりしてしまってごめんなさい。」
事情を知らないのだから、勘違いしたって当たり前だ。
私ってば何をむきになって反論しちゃったんだろう。
「あの、改めてありがとうございました!
どれもとても素敵で、付けるのがとても楽しみです!!この入れ物の木箱も素敵ですね。これもルルージェさんが作ったんですか?」
「あぁ、それはね。実は私が作ったものではないの。
けれど、いつもこの街に水晶を提供してくれる貴女へのプレゼントでもあるの。ちょっとしたサプライズも仕掛けてあるから、是非お家に帰ったらご覧になってみてね。」
サプライズ?
この入れ物だけでも素敵だと思ったんだけど、それ以外にこれに何かが仕掛けてあるということらしい。
「それは今見てはいけないのですか?」
「そうね、出来ればお家で1人で見て頂けると嬉しいわ。どうかしら?」
そこまで言われてしまえば、ここでは確認出来ない。
「わかりました。
家に帰ってからの楽しみに取っておきますね。」
「えぇ、ありがとう」
ルルージェさんは優美な笑顔を私に向けてくれた。これ、世の男性達が見たら、たちどころに魅了されるんじゃなかろうか。
なんという笑顔の無駄遣い!!私相手に使っちゃダメですよ、ルルージェさん!!!
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それから家に帰り、私は早速部屋で1人で木箱を開けてみた。よく見ると、二重底になっており、一枚底板を外したら、そこには小さな木箱がもう1つ入っていた。
なんだか、マトリョーシカみたい。
思わず笑みがこぼれ、開けようと手を掛けたが開かなかった。
鍵穴もないのでどうしたものかと思ったが、ルルージェ加工店でのやり取りを見て、思い付いた。
『解錠』
すると、木箱はひとりでに蓋が開き、中から小さな指輪が出てきた。
ピンキーリングかな?と思い、何とはなしに手に取って左手の小指に入れてみたら、なんと抜けなくなった。
な、なんだとーーーー!??
私は部屋で絶叫してしまった。




