訪問客?
「やぁ、会いに来たよ」
爽やかに宣言をするその人に、私は数拍の間をおいてから叫んだ。
「なんで、あなたがここにいるのよー!!!!」
************************************
昨日、街の宿屋でディーと別れてから、私はシュヴァルトの森にある家に帰って来た。
アリアから父様の人となりを聞き、さらに逃げ出したくなった私は、ディーに会わなくてすむように、当分の間森の中から出ないつもりでいた。
それなのにだ。
何故、ここにこの人がいるのよ!
シュヴァルトの森は普通の人立ち入り禁止だったんじゃないの!?
ちゃんと仕事しなさいよ、仕事ー!!!
そんな内心の私の八つ当たりに気付いたのか解らないが、しかめっ面の私の様子を見て、アリアが私の後ろから耳打ちしてきた。
「マリー様、恐らくこれも血の繋がりによるものではないでしょうか。ディースレイド殿下はあの方の血を色濃く引いていらっしゃるようですし、それにより、この森にかかっている惑いの結界にもかからないのでは…?」
「うっ……やっぱりそう思う?」
アリアはズバリ指摘してきた。
実は私も同じ事を考えていたのだ。
昔の話を思い出したとき、何故ディーがあの場所に来られたのか不思議だった。
けれど、血筋の問題を考えればそれは何ら可笑しくはなかったわけだ。
だが、昨日は動転していて、ここにいれば安全だと思い込んでいたのだ。
それに、何かの気の迷いということもある。
ディーがこんなところまで来るはずがないと思っていたのだ。
私の様子を見て、ディーはとても面白そうに目を細めながら笑みを浮かべている。
「やっぱりいいな。」
「…へ?」
突然なんのことだろう。
「言葉遣い」
「…っ!」
し、しまった!またやってしまった。
「も、もうしわけ…」
「謝らなくていい。敬語なんていらないから。
さっきみたいに話してほしい。」
ここには私以外いないんだし、と茶目っ気たっぷりに片目をつぶってウインクしてくる。
うわ、美形は何やっても様になるなぁ。
なんて、呑気なこと考えていたら、さっきよりディーの立ち位置が近づいていたことに気付かなかった。
「ねぇ、そんな熱い眼差しで見つめないで。
私のことが好きなのかと勘違いしたくなるから」
ズサッと音が聞こえるくらい私は反射的に後ずさった。
「な、なななななな」
「冗談だよ」
こんな冗談を耳元で囁かないで頂きたい!
私は右耳を両手で押さえて顔を赤くした。
ディーはまたクスクスとお腹を抱えて笑い出した。
なんなの!?人のことからかって楽しんでるなんて、趣味が悪いにも程がある!
「そうなれば良いのにという、私の願望だよ」
また恥ずかしげもなく何か言い出したんですけど!!
「で、殿…」
「ディー」
「え…」
「ディーって呼んでくれなきゃ、何も質問には答えないよ」
な、、、子どもか!!
そうは思ったけれど、話が続かないので咳払いを1つして気持ちを切り替えた。
「では、ディー。
貴方、何故ここにいるのですか?
私のことがあるにしても、王太子がこんなところまで1人で出歩くなんてもっての外ですよ?」
そう、いくら私のことが…とかなんとか言っててもディーはこの国の王太子だ。
いつまでもこんな辺境の地に居続ける訳にはいかないはずだし、何より1人でなんて、万が一があったらどうするんだ!
私は決してディーのことが好きでもなんでもないけど、立場的なものは理解できる。
きっと、従者も国王陛下達も心配しているはずだ。ディーがどれくらい強いか知らないが、軽率すぎるだろう。
説教じみたことを言ってしまったかな?とディーの反応が気になって顔色を窺ったが、それに対し、彼はにんまりと笑った。
あ、嫌な予感がひしひしとする。
「調査だよ」
「…………ん?調査…?」
予想外の返しに思わず疑問符を頭上に浮かべていると、ディーは真面目な顔で話を続けた。
「そう。
この辺りの街では昔からとある噂が広まっていてね。シュヴァルトの森に魔女が住んでいるって言うんだ。危害を加えられた者はいないらしいが、すぐそばには私の大切な国民が住む街がある。何かあってからでは遅いと思い、私が調査に来たというわけだ。」
その噂、街で聞いたことがある。
ぶっちゃけその全ては私のことだけども。
でも話を聞く限り、街の人が気に病むような噂じゃなかったはずなのに…
「でも…」
「仕方ないだろう?ここには普通の人は入れないんだから。
理由はわからないけれど、昔俺はここに迷いこんだ。誰も入ることが出来なかったこの森の奥に。…ある種の賭けだったんだ。」
「…賭け…」
「そう、賭け。
一応森の入り口までは俺の護衛騎士や近衛の数名、比較的魔力持ちの者を選んで連れてきていたんだが、やっぱりダメだったな。
ここまで来られたのは俺1人だけだった。」
じゃあ、この人は、私のことを何も知らないの?
私が何者かバレれば、きっと無理矢理にでも王城に連れていかれただろう。
そして、国の繁栄の為、この王太子に嫁ぐことになっていたはずだ。
ディーはもしかしたら無理強いはしないかもしれないけど、周囲の人間はそうはいかない。
私の存在は、どの国も喉から手が出る程に欲しがる稀な存在だ。
嫌というほどこの身で感じている。
私が物思いに耽っていると、ディーは言葉を続けた。
「で、だ。
その噂の『魔女』が、君のことなんだろう?
マリー。」
「そう言われましても、身に覚えが御座いません。」
「ここに来てまだそんなことを言うのか?」
何を言われようとも、私は魔女じゃない。
特殊な生まれと育ちだけど、一応人間だ。
「…まぁ、噂は正直どうでもいいんだが」
「はい?」
今、何て言った?
明らかに不穏な発言をさりげなくなかったことにして、ディーは不自然を隠そうともせず言葉を続けた。
「そんなわけで、私はここに調査に来た。
まずは、マリーの家に招待して貰えると嬉しいんだけど、どうだろう?」
「ど、どういう理屈ですか!!
理由になっていませんよ。それに、明らかにただの口実じゃないですかそれ!!」
「うん、それがどうかした?」
「んなっっ!」
ちょ、この人開き直ったよ。
「だってこうでもしなきゃ、君、絶対この森から出てこないだろう?だったら、こっちから出向くまでと思って」
開いた口が塞がらなかった。
私は口をはくはくさせて、にこやかにこちらを見つめるディーを見つめ返すしか出来なかった。
「お前って、ほんと単純バカ」
そんな私の背後でまたもボソっと小バカにした発言が。
ちょっとルイ。
ちゃんと聞こえてるんだからね!
半ばルイに引き摺られるようにして、私は自宅への道を逆戻りするのだった。
毎度毎度、何か一言余計なルイです。
言ってることはあれですが、これでもマリーを心配しています。
もう少し素直になればい良いのにねぇ。




