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思い出は記憶の彼方

何が正解だったのだろうか。


私は目の前の意気消沈する男性を見て、途方にくれた。


************************************


いきなり抱き締めてきた男から逃れ、私が不審そうな顔で見返すと、呆気にとられた男性はハッとして次いで謝罪を口にした。



「申し訳ない。マリーに会えたことが嬉しくて、名乗ってすらいなかった。

突然の無礼を許してくれるだろうか。」


おぉ、まともな人だった。

ちょっとほっとした。これなら会話もちゃんと成立するだろう。


「えぇ。わかりました。

貴方の謝罪を受け入れます。

でも、もう2度と同じことをしないでくださいね?びっくりしますから」


「…あぁっ、もちろん!

次からはちゃんと君に断りを入れるよ。」


…え、次ってなに。


「あ、あのぅ~…」

「改めて、名乗らせてほしい。

私は、ディースレイド・ウィリアム・サンフェリオ。この国の王太子だ。」


「はぁ?」


し、しまった!!あまりの人物に咄嗟に怪訝な声が出てしまった。

ふ、不敬罪で捕まったりしないよね…?



彼はそんな反応にも不快な顔1つせず、思い出したかのような反応をし、言葉を続けた。


「確かに、君の反応は最もだな。

ここ辺境の街でいきなり現れた男が王族だと名乗れば怪しまないはずがない。」


そういうことを疑ってた訳ではないんだけど…言われてみればそれもそうだよね。

とは言え、彼の着ている服や雰囲気が只人ではないオーラを発しているのは私でもわかる。

嘘を言っているようにも見えないし。


むしろ、私は何故そんな高貴な方が辺境の、しかも森に引きこもりの女なんかを知っていたのかってことのが気になる。


ほんとに、身に覚えがない。

誰かと勘違いしてるんじゃないだろうか。

むしろ、そうであってくれ!


そんな私の葛藤は知るはずもなく、彼はおもむろに懐を探り、何かを取り出した。


「これで証明になるだろうか。

これは私が母上から頂いたハンカチなのだが…」


そう言いながら私の手を取り、手のひらの上にハンカチを乗せる。


いやいやいや!!これ、開かずとも判るから!!

王家の人間しか身に付けられないはずの王家の紋章が刺繍されてるよ。


いくらシュヴァルトの森に住んでても、それくらいは知ってる。



「最初から疑っていませんでしたわ。

ですが、見せて頂きありがとうございます。

こちらはお返し致します」


厄介なものはさっさと返してしまおう!

そんな私の思惑をいとも容易く彼は打ち砕いた。


返そうと差し出したハンカチを、彼は受けとるどころか何故か手ごと包み込んで両手で握り締めてきた。


「これは貴方に差し上げます。」

「う、受け取れません!!」



「…今日出会ったことが夢ではないと、私に信じさせて欲しいのです。」


う、うわ!

段々顔が迫ってきた!


だから、そのキラキラオーラで見つめないで!

男の人に耐性ないんだから!


私は顔が赤くなってるのを誤魔化すために、視線を手元に落とし、思わず答えてしまった。


「で、では、お預かりさせて頂きます!

ディースレイド殿下の誤解が解けたら、こちらはお返し致しますわ」


彼はその言葉にピクッと反応した。


「………誤解?」


先程までと、うってかわって低い威圧的な声が聞こえ、私は身をすくませた。

な、なに!?なんで突然怒ったの、この人!!


「…え、ええ。

何故お名前をご存知だったのかは存じませんが、私はこの近くに住む只の一庶民。

殿下とはお会いしたことが御座いませんし、お探しの方はきっと人違いだと思うのです。」


そう伝えると、彼は握り締めていた手を私の頬に当て、上を向かせると困惑したような表情で私に訴えた。


「ちょっと待った。今俺は名乗ったよな。それでも思い出さないか?

…なら、これならどうだ。ディーだ。

10年近く前、森で出会っただろう?

俺は君に助けられた。どうだ?さすがに思い出したよな!?」


段々必死になっていく彼は、その勢いと共に、私との距離も近くなっていることに気付いていない。いや、気付いてやってるのか!?


ち~か~い~ってば!!!!


てか、言葉遣い悪くなってるよ!!

喧嘩でも売ってんの!?

………あれ?なんか、デジャヴ。

こんな人に、昔出会ったことがある気がする。



「年頃の女性にする態度ではないな」



あれ…?

彼の0キョリ攻撃がなくなった…?


と思ったら、私の前にはいつの間にかルイがいて、私を庇うように立ちはだかっていた。


「お前は、やはりあの時の…っ!!」


向かい側からはやや苛立たしげな彼の声が聞こえる。


やはり、って言ってるけど、やっぱりほんとに会ったことがあるのかな。

私、記憶力乏しいからなぁ。いつの頃の話だったっけ?うまく思い出せない。

私の知識欲は、全て魔法絡みに捧げてしまったよ。


「ルイ、とか、言ったか。

お前、俺の存在を知っていたはずだ。

なのに、意図的に彼女にその事を告げなかったな!?」


「…なんのことか存じ上げませんが。

まぁ、保護者として、必要のないことは伝えておりませんから。」


「わざと俺の前からマリーを連れ去っておきながら白々しい!!そんなに俺とマリーを会わせたくなかったのか。何が保護者だ。嘘つきやがれ!!」


「おやおや、王族の王太子ともあろう方が口が悪くていらっしゃる。

そんなことじゃ、この国も安心して暮らせませんね」


したり顔で返すルイ。

うわぁ、久しぶりに真っ黒なルイを見たわ。


てか、王族相手に喧嘩売っちゃダメでしょ!!


「安心しろ。相手は選んでいる。

上手くやってるさ。」


あら、こちらの殿下もさらっと腹黒宣言ですか!


なんとなく思い出し始めたけど、やっぱりなかったことにしていいかな。


「それより、マリー。

思い出してくれましたか?私のこと」


「ええーと、ちょっとだけ?」


「…ちょっと…………」



私のその発言にガックリ項垂れる殿下が目の前にいる。


え、これ、私のせい!?

隣ではルイがにやにやと楽しそうに笑っている。


ちょっと!!笑ってないでどうにかしてよ!

私はどうすれば良かったのよー!!!!


はい、書けば書くほど残念王子になっていきます。

うんでも、これが私の書きたかった展開です!

ごめんね、ディー。これが、君の運命だ(笑)

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