災難の始まり
話は少しだけ遡る。
私はいつもの如く、楽しく買い物をしていた。
精霊石は高値で売れて、そのお金を手に、お菓子屋さんへ。
お気に入りのパイをルイ達の分も買ってお土産にする。あ、精霊は基本人間の食べ物は食べなくても生きていけるらしいんだけど、食べられないということはないんだって。
むしろ、皆好きみたい。
好みも当然あるけれど、皆、ここのパイは大好きで、いつもここに来ると必ず買って帰ってお茶会をするのが楽しみの1つなのだ。
アリアの入れてくれる紅茶は、さすが元王女付きの侍女。物凄く美味しい!茶葉は勿論森で育った天然(?)物だから、美味しくないはずはない。
午後のお茶会が楽しみだー!
あ、そういえば、もう1つ行きたいところがあるんだった。
貴族の間で、精霊石が流行っているとは言ったが、庶民の間でも精霊石を用いたアクセサリーが大流行中なのだ。
とは言え、高価な物は手が届かない。
そこで生まれたのが、『加工屋』だ。
私が失敗作と称して売っている水晶の欠片など、価値の低めの精霊石や村の周辺で手に入れる事が出来る原石など、庶民でも比較的簡単に手に入れることが出来る石を、それはそれは可愛らしく、お洒落なアクセサリーに加工してくれちゃうのがこのお店。
なんと言ってもお手頃な価格で、流行デザインに仕立てあげちゃうのだから、人気は殺到する一方。
いくつか加工屋さんはあるが、ここ、ルルージェ加工店は、この街随一の腕前の職人さんがいる。
弟子入りしたいと志願する人も跡をたたないんだとか。
私も作って貰おうと思って今日初めてここへ来た。なんといっても、ここは大人気店。
ルルージェ加工店は、店主であり、職人さんのルルージェさんが1人で切り盛りしているお店だ。
だから、予約制。私も質屋さんからの紹介がなければ、受付はきっと半年は先だっただろう。
質屋さんは、私が良質な精霊石の売り手として有名だったから、口を聞いてくれた。どうやらこのルルージェ加工店にも私が売った精霊石を提供してるみたいで、それもあり、ルルージェさんから了承を得て、今回加工してくれることに。
やったー!!
アリアもアクセサリーの加工は得意なんだけど、魔法を用いて作るせいか、元侍女の名残なのか、どうにも作ってくれるのが豪華で普段使いには到底出来なさそうなものばかり。
なので、私は街で流行っている加工屋さんで作りたかったのだ。
私はウキウキしながら、ルルージェ加工店に向かっていた。
そんな浮かれきった私は、いきなり後ろから肩を掴まれ心底驚いた。
「ぬぁっ!!」
…乙女どこ行った。
可愛くない声をあげてしまった。
「あっ、あぁ、す、すまない。
驚かせてしまって」
そんな奇声を発したにも関わらず、その若い男性の声はとても紳士的な対応で返してくれた。
若い男性…?
そんな知り合いに身に覚えがない私は、ゆっくりと後ろを振り向いた。
そこにいたのは、金髪碧眼のキラッキラの王子様然としたイケメンなお兄さんだった。
うわぁ、後光が差してる。
その彼は何故か私の肩に手を置いたまま、ものスッゴク私の顔を凝視している。
「あ、あの~何かご用ですか?」
このままでは埒があかないと思った私は、思いきって話しかけてみた。ほんとはさっさと立ち去って加工屋さんに行きたいんだけど、何か私に用があるなら、それは失礼な行動だ。
まずは確認してみなくちゃ。
「…別人…だったか…?
いやしかし、間違うはずは…」
ボソボソと何か呟いているが、よく聞き取れない。やはり不審者か?
あああ、段々後方から殺気を感じる~。
お願いだから、こんな街中で問題を起こさないでよ、ルイってば!
そんな殺気にお兄さんも気付いたのか、私の後方にバッと視線を移す。おぉ、あの殺気の出所に直ぐ様気付くとは、お兄さん、騎士かな?
「やっぱり君は…」
今度ははっきりと聞こえた。
やっぱりって、何?私、こんなイケメン兄さんにお知り合いなんていないんだけど…
そう思いつつ、正面にいるお兄さんの顔を窺ったら、蕩けそうな程甘い笑顔を向けて、私を抱き締めてきた。
………って、えー!!!!
な、な、な、ななななんで、私見ず知らずの男性に抱き締められてるの!?
「マリー、逢いたかった」
そういうと、さらに腕に力がこもる。
いやいやいや、それ以上力入れたら苦しいってば!!い、息がっ!!
身長差のせいで彼の体に顔が埋もれている私は何も言葉を返せない。必死で抵抗していると、彼はさらに言葉を重ねてきた。
お、お願いだから、耳元で囁かないで!!
「マリー、君を愛している。
どうか、私と結婚してほしい」
………………。
は?
彼の胸を思いっきり押して、距離をやっと取った私が、とっさに、出てきたのはこれだった。
「……ど、どちら様…?」
彼は呆気にとられて、目を見開いている。
だって、本気でわからないんだもーん!!
一体この状況なんなのさ!!
誰か説明してよー!!!!




