迷い子~ディーサイド・執着~
頭がくらくらする。
でも、これは叔父上の手の者にやられた時のそれではない。
目が回ったとでもいうのだろうか。そんな感じの痛みだ。
遠くで誰かが喋っている声が聞こえる気がする。
ここには、俺とマリーしかいないと思っていたのに、違うのだろうか。
ーそうだ、マリーだー
この森で出逢った初めての人。
この声は彼女の声だ。一緒に喋っているのは誰だ…?声の雰囲気から少年のようだが、ここには他にも人がいたのだろうか…?
それとも、これは夢の続きで、先程までの出来事は全て偽物だったのか。
いや、それは違う。
この手の先にはまだ彼女の温もりが残っている。あれは確かに現実にあったことだ。
こんなことをしている場合じゃない。
早く目覚めて、もう一度確かめなくては!
彼女の存在を、そして、あの温もりを。
俺は再び重たい身体を叱咤し、身体を起こそうとする。やはり、酩酊感が拭えないが、なんとか意識は浮上してきた。
うん、ここは先程と同じシュヴァルトの森。
この手は、確かに覚えている。
マリーとのおまじないをしたこと。
そうだ、おまじないだ。
さっきのは一体なんだったんだ!
マリーに確認しなければと思い、顔を上げ、先程声が聞こえた方を向いて叫んだ。
「おい!!お前、今のはいったいなんだっ…た……て……。」
俺は動揺を隠せなかった。
「おま…その光………
俺と同じ…」
あまりの動揺に最後は上手く口にしていたか定かじゃない。
何故だ。
何故、彼女の周りに俺と同じあの光が飛んでいるんだ。
俺が全ての元凶だと思っていたあの4つの光。マリーの周りにも同じく4つの光が輝いていた。
そして、思い出す。ここは【シュヴァルトの森】だったのだと。
この場所、そして、この光の球。
親もいない、たった1人でこんなところに幼い少女がいる。
もしかしたら、彼女はここに捨てられたんじゃないだろうか。【異端者】として。
俺はなるべく彼女を傷付けないよう気をつけながら、問いかけた。
「おま……あぁ、いや。
…マリーも、【異端者】…なのか?
だから、こんなところに…?」
「ふぇ!?
"いたんしゃ"って、何それ?」
驚いた反応が可愛い。
いや!そうじゃない。落ち着け、俺。
「…知らないのか?」
「う…はい、すみません」
「いや、謝ってもらうようなことじゃないんだが…」
どうやらマリーは【異端者】という存在を知らないらしい。やはり、街にいる普通の娘とは何かが違うようだ。
それに、瞳が真っ直ぐなだけじゃなく、心も素直で真っ直ぐだ。王宮にいるあいつらとはまるで違うな。
俺は少しだけ肩の力を抜き、彼女と向き合った。
「【異端者】っていうのは、俺のように普通と異なる力を持つ者のことだ。
昔いたという巫女がこの世から消え去り、人の間からは魔力持ちが極端に減った。
そんななか、たまに強い魔力を持つ者が生まれるんだ。
俺のような、異常な奴が…な」
俺は説明しながら、自虐的なことを言っているなと思わず苦笑した。
マリーがほんとに俺と同じ【異端者】なのか、現時点ではわからない。
だから何か【異端者】について具体的に説明できるものは…と思ったときに、あの変態との特訓を思い出した。
そうだ、あれやってみるか。
俺は手のひらに意識を集中した。
俺のなかにある魔力を右手に集中させ、一点に集まった魔力の光球を周囲に飛ばした。
その光は俺たちを包むようにキラキラと光続けた。相変わらず、俺の周りの4つの光も魔力を使うと光を増した。
そういえば、今日はいつも以上に動き回って光が強い気がする。魔の森の中だからだろうか?
マリーがこれを見てどう思うのか、俺は怖かったが、気になって、そっと彼女の方を窺った。
空を見上げ、ほけっとした顔をしたと思ったら、次の瞬間、目をキラキラさせて笑顔で叫んだ。
「わぁ~、綺麗ーー!!!」
「綺麗………?」
俺は予想外の反応に呆然としつつ、マリーに聞いた。
「マリーは、これが綺麗だと思うのか…?
怖いとか、気持ち悪いとか思わないのか…?」
俺は今まで、この力で喜ばれたことなど1度もなかった。だから、彼女の言葉はにわかに信じられなかった。
「うん、だって綺麗なものは綺麗だし。
むしろ、羨ましいよ!私はそんな風にルイたちと幻影を出したことがないから。
ほんとにすっごく綺麗だった!」
羨ましい。
妬みこそされるものの、こんなにも真っ直ぐに羨望の目で見られたことがあっただろうか。
ふと、彼女の言葉の1つが気になり尋ねた。
「ルイ…たち?」
「え?ああ、彼らのことよ。
ルイ!」
そう、彼女が呼ぶと、彼女の傍らに飛んでいた光の球が突如、大人の男性の成りをして現れた。
さすがの俺でもこんな光景みたことがない!
何が起こったのかわからず、俺はまたしても動揺し、口を開けたまま固まってしまった。
「彼は風の精霊でルイ。
私の大切な家族なの」
彼女の発言にさらに驚きを隠せない。
精霊が現実にいたのか。昔話に出てくる物語の中だけの存在だと思っていた。
まさか、存在していただけでなく、こんな人型になれるなど、誰が知っていただろうか。
ルイと名乗るその男は、俺の方へと近づいて俺の周りに飛んでいる光の球を指差し言った。
「お前は気付いていないようだが、お前の周囲にいるのは、俺たちと同じ精霊が人の形を成したものたちだ。
お前が自らの力から目を逸さなければ、もっと早く認識できたはずだがな」
怒っている。
彼の言葉の端々から俺への怒りを感じ取れた。
彼の言うとおり、精霊という存在を認めた途端、周囲に飛んでいたただの光の球と思っていたものは、小さな人の形をした精霊なのだと認識出来た。
きっと、俺は、今まで自身の力を認めたくない故に、無意識に見えるものを見えないことにしていたんだ。
そんな風に同志を蔑ろにされれば、誰だとて不愉快になるだろう。
俺は不甲斐なさに項垂れた。
無言の時間が過ぎる。
それに耐えられなくなったのか、マリーが俺の頭上で必死に声を掛けてきた。
「あ、あのね、ディー!
あなたの周りにいる妖精たちは貴方のことがとっても好きなの。だから、もし、ディーが彼らを受け入れてくれるなら、名前を付けてあげて。
きっと彼らもそれを望んでると思うの」
「名前を…」
そう言われ、周囲の精霊を見れば、同意するようにうんうんと首を縦に振っていた。
「無理に、とは言わないわ。
名は契約だから。貴方も彼らも共に縛られることになるわ。
それでも、ディーがほんとに彼らと共に生きたいと思えたら、その時は…」
「共に生きたい、と……」
「うん」
彼女は決して気持ちを押し付けてはこなかった。
『ルイ』と呼ばれたあの精霊が傍にいるのだから、彼女は彼と契約したのだろう。
恐らくはその周囲にいる精霊たちとも。
それでも。俺に選択の余地を与えてくれる。
こんな状況でさえ、相手を思いやれる優しさを持つマリーに、どうして惹かれないでいられるだろうか。
『共に生きたい』
と、マリーは言った。
俺は、マリー【と】共に生きたい。
この先の人生、彼女なしで生きていくなんて、俺にはもう無理だ。
マリーが好きだ。彼女が傍にいれば、俺は俺でいられる。
俺はなんとか彼女が俺と共に来てくれないか、フル回転で頭を働かせた。
まずは彼女に気持ちを告げようと、一歩マリーに近づこうとした。が、2人の間を遮るように、ルイと呼ばれた精霊が俺を見下ろしてきた。
なんだ、こいつ。
さっき、マリーの家族、と言っていたが、なんだかそれだけにしてはいやに攻撃的な態度じゃないだろうか?
「ディー、と言ったな。」
「あ、あぁ。そうだ。」
それに、デカい。
くそっ。俺だってあと数年経てば、負けやしないのにっ!
その迫力に一瞬たじろいだが、強がって睨み返す。
「ディー。無知は罪だ。
お前は自分自身の力を知る必要がある。
それが結果として、自分自身を守ることにも繋がる。
この言葉がどういう意味か、お前にならわかるだろう?
……ディースレイド・ウィリアム・サンフェリオ。
彼の者の血を継ぐ者よ。」
この男ッッ!!!
知っていたのか!
俺が何者なのか。
「お前っっ!!!
何故知っている!?」
問い質そうと詰め寄ろうとした矢先、後ろにいたマリーを抱え、空高く飛び立ち姿が見えなくなった。
くそっ!油断した。
マリーが知らないから、皆知らないと勝手に思い込んでいた。
アイツ、最後笑っていたな。
確実にやつに俺の気持ちがバレている。
思いっきり邪魔をされた。
なんなんだ、アイツ。
あれは家族とかの情を越えているんじゃないのか…?
精霊がライバル?
ふん、やってやろうじゃないか。
俺はマリー達を追いたい気持ちを抑え、王宮に戻るべく、彼らが飛んでいった方向とは逆へと進む。
今、例えマリーを見つけられたとしても、ルイとか言うやつに負けて終わりなだけだ。
そんなことで諦めてなるものか。
彼女をいつか絶対俺のものにしてみせる。
その為にはまだ王宮でやらなきゃいけないことがたくさんある。
「待っていろ、マリー。
いつか必ず、君を迎えに行く」
俺は誓いを心に秘め、その場を後にした。
さぁ、まずは、精霊たちに名前を付けるところから始めてみようじゃないか。
やっっっと、過去編、ディーサイド終了致しました!!
これでやっと、大人になれる。
本題に入れる!!
という訳で、間に番外編を入れつつ、大人になって再会する本編を書ければなぁと思っております。
どうぞ、この後も気ままにお付き合い下さいませ。




