迷い子~ディーサイド・自覚~
内心、初めて感じる感情に動揺しつつも、そこはこれまで培った社交スキルをフル回転させ、平常心を装う。
「では、ディー。
これから私が街まで貴方をお連れしますわ。
少しの間、目を瞑って下さいませんか?」
そんな俺に事も無げに愛称で俺の名を呼ぶ彼女にまた心が揺さぶられながらも、不審な行動を進めてくる彼女に疑いの目を向ける。
「……何故、目を瞑る必要がある。」
やはり、この少女も今までの女達と同じ、腹に一物抱えた人間だったのか。
どこかで期待していた分、彼女のその発言に落胆している俺がいた。あぁ、所詮いるはずもないのだ。
心の綺麗な人間など、どこにもいやしない。
意識を内に向けていると、手の先に何かが触れてきた。
人の、手だ。
包み込むように両手を握られ、俺は身体をビクッと震わせた。
ー油断していた!!こいつ、一体何をするつもりだ!?ー
きゅっと両の手を塞がれた。
叔父上に騙し討ちされた時のことが脳裏に蘇った。
早く、早くこの手を振りほどかなくてはっ!!
俺は動揺していた。本当ならこんな年下の少女の手など、すぐに振り払えるはずだ。なのに、今、底知れない恐怖感に苛まれている。
まるで見えない鎖に縛られているように、身体が動かなかった。
これは、あの夢の続きなのだろうか。俺はまたあの悪い夢に取り憑かれてしまうのだろうか。
そんなことを思っていたら、目の前に真っ直ぐに俺を見つめる彼女の瞳と目があった。
その瞳は、出会った最初に見た、あの真っ直ぐで曇りのない優しい、瞳だった。
俺と目が合うと、彼女はふわっと華のような笑顔を見せて言った。
「少しばかり、おまじないを掛けるからですわ。恐くなくなるおまじない。」
鎖のように思えた彼女の手のひらは、夜風で冷えた俺の身体を労るように、静かに温めてくれた。
「大丈夫です。ここには、貴方を害するものは1つもありません。」
俺はハッとして彼女を見つめた。
きっと、彼女は無意識で言ったのだろう。
彼女の発言からして、俺のことを知らないようだったから。
だからこそ、俺の心に彼女の言葉は真っ直ぐに突き刺さった。
ここに、害するものはいない。
彼女は、いや、マリーは、俺にとって唯一の人だと。
マリーだけは、信じても良い存在なのだと、俺のなかの直感が訴えていた。
確証なんてどこにもない。
なのに、これだけは間違いないと、俺の心がそう告げる。
俺は生まれて初めて心の底から、嬉しくて笑った。
「………マリー、君を信じる。
おまじないをお願いしても…?」
そう告げると、何故か彼女は慌てたように顔をキョロキョロさせて、俺を包んでいた手を離そうとする。
俺はマリーと離れたくなくて、離されそうになった手を握り返した。
逃がさない。
先程までの落ち着いた態度はどこへやら、頬を赤らめて年相応の幼い少女の顔を見せる。
「で、では!
ディー、目を閉じてくださいませ。」
声に動揺が見られる。
もしかして、照れているのだろうか。
そんな反応も可愛くて、俺はますます強く手を握り、マリーの言葉通り、目を閉じた。
一体どんなおまじないをしてくれるのだろうか?
俺は内心ワクワクしながらマリーの行動を待った。
マリーが耳元で何かを言っている声が聞こえた。
と、思ったのもつかの間。
俺は浮遊感と共に森の上空にマリーと共に投げ出され、情けなくも悲鳴を上げながら、意識を飛ばした。
つくづく情けない。
だがしかし、誰があんなおまじないがくると予想できるんだ!!!!
マリーは何から何まで、常識はずれの少女だった。




