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迷い子~ディーサイド~

何故だ。


行けども行けども果てがない。

俺の国の中に、こんな広い森など存在しない。


では、他国に飛ばしたのか?

いや、そんな戦争の火種になりかねない、バカな真似は流石にしないだろう。


ならば、ここはどこなんだ。

俺は1つの可能性に気付き、すぐに否定する。


あの場所は、無理だ。


物理的にもだし、魔法の力を使ってなど、それこそ命知らずのすることだ。


そこで、ハッとする。



なぜ、叔父上は、こんな危険な真似に出た?

すぐに俺が帰ってくることなんて、想像できたはずだ。

それほどに俺の魔力は桁外れだ。


ならば、そんな危険を省みず、こんな真似をしたのは何故だ。

あの時、笑っていたのは、どういう意味があったのか。



俺はそのあり得ない可能性が濃厚になるにつれ、身体からすうっと血の気が引いていくのを感じていた。


叔父上は、最後の賭けに出たのかもしれない。

それこそ、己の命を賭けてまで。


それなら、俺がここから出ることもまた難しいのかもしれない。


「ははっ」


渇いた笑いが漏れた。


こんなときでも笑えるんだなと、どこか他人事のように見ている自分がいた。

いや、こんなときだからこそ、か。



俺の人生、こんなところで終わるのか…。

何もなせないまま、何も終わらないまま。



まるで、壊れたように笑い続ける俺の周りを、いつものあの光がぐるぐると点滅を繰り返して動き回る。


あぁ、いよいよ俺の魔力も壊れたのだろうか。

暴走するのかな。

ーいっそ、全て壊れてしまえばいいー


俺はどんどんと暗い感情に支配されていく。

もう、母上のことも国のことも、何もかもどうでも良くなった。



どうせ、俺はいらない存在なんだ。

いては、いけない存在なんだ。


だったらいっそ、このままここで死んでしまっても誰も困らない。いや、むしろ喜ばれるんじゃないだろうか。



そして、俺はまるで糸の切れた人形のように意識を手放した。


達観しているとはいえ、まだ10歳の子供なのだ。極度の緊張と疲れが限界にきていたのだろう。


俺は、深い深い眠りについた。


************************************


俺は、真っ暗な闇の中にいた。

独りきりで、佇んでいた。


あぁ、夢を見ているのだと、何故か思った。

そして、ここでも独りだということに、なんだか笑えてきた。


どこまでも闇は続き、果てがない。

光が差さないこの場所だが、不思議と自分自身を見ることはできた。

ここでの俺は何も持っていない。ただの人間。

それが何故か嬉しく感じた。


ここにいれば、俺は俺のままでいい。

誰にも恐れられず、誰にも迷惑をかけない。


なんて幸福な場所なんだろうか。

…もう、このままでいいんじゃないだろうか。


夢だと解っているのだと同時に、現状のこともよくわかっていた。

俺は今、あの得たいの知れない森で倒れている。

恐らくは、緊張と疲労と空腹で。

森の夜は暗く寒い。

このまま起きなければ、もしかしたら凍死の可能性だって十分にあり得る。そうじゃなくても、このまま森から出られなければ、自ずと死への道は近付くことになるだろう。


だか、俺の本能は生きようとする。

俺の意志とは反対に。


ーいや、そうじゃない!ー

別に俺は本心では死にたいわけじゃない。ただ、ここに来てから無気力になってしまったのだ。

頭では理解しているんだ。帰らなきゃいけないことも、まだやるべきことがたくさんあることも。


なのに、全てを投げ出してしまいたくなる。


俺は自分自身の感情がコントロール出来なくなってしまった。今までこんなこと1度もなかったのに…


途方に暮れて、俺は一旦考えるのを辞め、その場に寝そべった。


そういえば、今までこんな風に人目を気にせず、大の字になって地に寝そべったことなんでなかったな。

それだけのことが、なんだか楽しかった。どうせ皆に嫌われているんだ。もっとやりたいようにやればよかったかな。


死ぬ寸前、人は今までのことを夢に見るという。

それに近いのかなぁと思いつつ、願望ばかりで実際にやってないことばかり考えているのだから、なぜだか可笑しくなった。


そういえば、喉が渇いた。

夢なのに、こんなところは現実的なんだなぁと思わずにはいられない。


俺はこのまま死ぬのだろうか。

誰にも会わず、ひっそりと独りで。


独りが怖いなど、今まで思ったこともない。

なのに、何故今、母上や父上の顔が頭から離れないのだろう。

…本当は、本当の俺は…っ


ーぴちゃんー


何かが、口に触れた気がした。

いや気のせいじゃない。

その何かは俺の口から身体を巡り、潤していく。


その瞬間、俺を支配していた暗い感情がすぅと引いていくのを感じた。


何故俺はあんなバカなことを考えていたのだろうか。死ぬなどありえない。

まだ、俺にはやらねばならないことがある。


これは一体なんだ…?

俺の身体を巡っていくこの暖かいものは…。


意識を周囲に集中させると、何故か温もりは俺の中だけでなく、周りからも感じた。


そして、頭に触れる何かの気配に気付いた。

な、んだ、これ。

暖かい、それに優しい気配。

労るような、それでいて、案じるようなどこかぎこちないその手。


そう、手だ。

人がいる!


それに気付いた俺は、意識が徐々に覚醒していくのを感じた。


************************************


そして、ゆっくりと覚醒した俺が最初に見たのは、俺と同じ、コバルトブルーの瞳をした綺麗な女の子の顔だった。


覚醒したばかりで動転した俺は、彼女に罵声を浴びせ、ぶたれた。


何もかもが想定外の彼女との出逢いは、最悪の始まりだった。

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