迷い子~ディーサイド~
何故だ。
行けども行けども果てがない。
俺の国の中に、こんな広い森など存在しない。
では、他国に飛ばしたのか?
いや、そんな戦争の火種になりかねない、バカな真似は流石にしないだろう。
ならば、ここはどこなんだ。
俺は1つの可能性に気付き、すぐに否定する。
あの場所は、無理だ。
物理的にもだし、魔法の力を使ってなど、それこそ命知らずのすることだ。
そこで、ハッとする。
なぜ、叔父上は、こんな危険な真似に出た?
すぐに俺が帰ってくることなんて、想像できたはずだ。
それほどに俺の魔力は桁外れだ。
ならば、そんな危険を省みず、こんな真似をしたのは何故だ。
あの時、笑っていたのは、どういう意味があったのか。
俺はそのあり得ない可能性が濃厚になるにつれ、身体からすうっと血の気が引いていくのを感じていた。
叔父上は、最後の賭けに出たのかもしれない。
それこそ、己の命を賭けてまで。
それなら、俺がここから出ることもまた難しいのかもしれない。
「ははっ」
渇いた笑いが漏れた。
こんなときでも笑えるんだなと、どこか他人事のように見ている自分がいた。
いや、こんなときだからこそ、か。
俺の人生、こんなところで終わるのか…。
何もなせないまま、何も終わらないまま。
まるで、壊れたように笑い続ける俺の周りを、いつものあの光がぐるぐると点滅を繰り返して動き回る。
あぁ、いよいよ俺の魔力も壊れたのだろうか。
暴走するのかな。
ーいっそ、全て壊れてしまえばいいー
俺はどんどんと暗い感情に支配されていく。
もう、母上のことも国のことも、何もかもどうでも良くなった。
どうせ、俺はいらない存在なんだ。
いては、いけない存在なんだ。
だったらいっそ、このままここで死んでしまっても誰も困らない。いや、むしろ喜ばれるんじゃないだろうか。
そして、俺はまるで糸の切れた人形のように意識を手放した。
達観しているとはいえ、まだ10歳の子供なのだ。極度の緊張と疲れが限界にきていたのだろう。
俺は、深い深い眠りについた。
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俺は、真っ暗な闇の中にいた。
独りきりで、佇んでいた。
あぁ、夢を見ているのだと、何故か思った。
そして、ここでも独りだということに、なんだか笑えてきた。
どこまでも闇は続き、果てがない。
光が差さないこの場所だが、不思議と自分自身を見ることはできた。
ここでの俺は何も持っていない。ただの人間。
それが何故か嬉しく感じた。
ここにいれば、俺は俺のままでいい。
誰にも恐れられず、誰にも迷惑をかけない。
なんて幸福な場所なんだろうか。
…もう、このままでいいんじゃないだろうか。
夢だと解っているのだと同時に、現状のこともよくわかっていた。
俺は今、あの得たいの知れない森で倒れている。
恐らくは、緊張と疲労と空腹で。
森の夜は暗く寒い。
このまま起きなければ、もしかしたら凍死の可能性だって十分にあり得る。そうじゃなくても、このまま森から出られなければ、自ずと死への道は近付くことになるだろう。
だか、俺の本能は生きようとする。
俺の意志とは反対に。
ーいや、そうじゃない!ー
別に俺は本心では死にたいわけじゃない。ただ、ここに来てから無気力になってしまったのだ。
頭では理解しているんだ。帰らなきゃいけないことも、まだやるべきことがたくさんあることも。
なのに、全てを投げ出してしまいたくなる。
俺は自分自身の感情がコントロール出来なくなってしまった。今までこんなこと1度もなかったのに…
途方に暮れて、俺は一旦考えるのを辞め、その場に寝そべった。
そういえば、今までこんな風に人目を気にせず、大の字になって地に寝そべったことなんでなかったな。
それだけのことが、なんだか楽しかった。どうせ皆に嫌われているんだ。もっとやりたいようにやればよかったかな。
死ぬ寸前、人は今までのことを夢に見るという。
それに近いのかなぁと思いつつ、願望ばかりで実際にやってないことばかり考えているのだから、なぜだか可笑しくなった。
そういえば、喉が渇いた。
夢なのに、こんなところは現実的なんだなぁと思わずにはいられない。
俺はこのまま死ぬのだろうか。
誰にも会わず、ひっそりと独りで。
独りが怖いなど、今まで思ったこともない。
なのに、何故今、母上や父上の顔が頭から離れないのだろう。
…本当は、本当の俺は…っ
ーぴちゃんー
何かが、口に触れた気がした。
いや気のせいじゃない。
その何かは俺の口から身体を巡り、潤していく。
その瞬間、俺を支配していた暗い感情がすぅと引いていくのを感じた。
何故俺はあんなバカなことを考えていたのだろうか。死ぬなどありえない。
まだ、俺にはやらねばならないことがある。
これは一体なんだ…?
俺の身体を巡っていくこの暖かいものは…。
意識を周囲に集中させると、何故か温もりは俺の中だけでなく、周りからも感じた。
そして、頭に触れる何かの気配に気付いた。
な、んだ、これ。
暖かい、それに優しい気配。
労るような、それでいて、案じるようなどこかぎこちないその手。
そう、手だ。
人がいる!
それに気付いた俺は、意識が徐々に覚醒していくのを感じた。
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そして、ゆっくりと覚醒した俺が最初に見たのは、俺と同じ、コバルトブルーの瞳をした綺麗な女の子の顔だった。
覚醒したばかりで動転した俺は、彼女に罵声を浴びせ、ぶたれた。
何もかもが想定外の彼女との出逢いは、最悪の始まりだった。




