誕生パーティー
「私には、理解りません」
「今はそれでいい。
だが、全てを否定しようとするな。
…諦めないで欲しい」
諭しているのか、願望なのか。
きっと父上も王族としての思いと、父親としての想いの狭間で葛藤しているのだろう。
頭の良い父上のことだ。
俺が普段どんなことを考え、この先どうしようと思っているのかある程度察しはついているのだろう。
…まさか王族をやめようとしていることまでは気付いていないだろうけれど。
「善処致します。」
父上の曇った表情は見なかったことにし、それだけ告げ、話をパーティーのことに戻す。
誕生パーティーの進行について幾つか確認をし、諸々微調整をして謁見室を退出した。
本来、こんな打ち合わせは王子である俺がやるような内容ではない。
だが、先程父上の口からもあったように、俺の身辺は常にキナ臭い。
下手な文官に仕事を依頼するより、この方が安全だ。
父上は優秀な王だと思うが、この王宮内には、先代国王の時代から巣食っている古だぬきがまだまだたくさんいる。
自分の身を守るためにはこれが1番手っ取り早いのだ。
そして夜になり、王宮内では盛大な誕生パーティーが開かれた。
国王である父上が開催の挨拶をすると、会場には優雅な演奏の音が響き始めた。あちこちでダンスを始める者達の姿が目に入る。
俺は父上の言いつけ通り、ご令嬢方の接待に勤しむ。相手もこれが婚約者探しの一環なのだと解っているのだろう。
公爵や伯爵が、挨拶と共に娘を引き合わせてくる。公の場な為、普段の悪態は奥へと隠し、わざとらしいくらい笑顔を振り撒く。
俺の実態など知っているだろうに、それでも公爵達は俺を褒め称え、祝いと賛辞の言葉を降らせてくる。
令嬢達は、控えめに笑う者、自信に溢れアピールしてくる者等様々な女性がいた。
年齢も身分も国籍すら様々入り乱れ、たくさんの令嬢と挨拶する。
どの女性も俺に好意を向けているのがわかったが、俺の心を動かす人には結局1人として出逢えなかった。こんな調子で婚約者候補など決まるのだろうか。
父上には申し訳ないが、そうなったら利害の一致する無害な令嬢を選ばせてもらおう。
そんなやりとりに少し疲れてしまい、護衛武官に少し休むと一言告げ、会場を離れ中庭に出た。
今は、少しだけ1人になりたかった。
だから、護衛武官には無理言って少し離れて貰った。
ーこの時の判断を、俺は後で何度も後悔することになるー
「ディースレイド殿下」
俺は気付けなかった。
背後に人がいることに気付いた時には、もう遅かった。
甘い、甘ったるい香の匂いと共に意識が遠のき、遠くで誰かが笑うような声が聞こえた気がした。




