陰謀
そんな子供らしからぬ時代を数年過ごし、俺は10歳になる。
今日は朝から王宮内がバタついている。
というのも、今日は俺の誕生パーティーが開かれるためだ。
俺のように嫌われ者の【異端者】など、放っておけばいいものを。だが、王族という立場が許さないのだろう。表向きはお祝いしなくてはならないというのだから、ご苦労なことだ。
そんな感慨も何もない日でもやるべきことは色々あるもので、夜には盛大なパーティーが待っている。
正式に社交の場にデビューするのは15歳からだが、この日は国をあげた大きなパーティーだ。
地方からも王都からも多くの貴族とその子息や令嬢が招かれている。招待側としてその接待もしなければならない。
あぁ、、面倒だ。
父親である国王陛下に呼ばれている理由もなんとなくわかっているので、足は重くなる一方だ。
そんなことを考えていたら、謁見室の前に到着してしまった。
俺は此処まで付き従っていた護衛武官に控えているよう目で制し、重厚感溢れる扉を叩いた。
「国王陛下、ディースレイドです。
お呼びと伺い、参りました。」
「入れ」
「失礼致します。」
中に入ると、正面の机に腰掛けた1人の青年がいた。
後ろの窓から差し込む光を受け、金より黄色に近い髪をさらさらと揺らし、こちらを見据えている。
その濃紺の瞳は、俺の顔を見つめ、ふわりと笑う。
「久しいな。なかなか会えなくて寂しかったぞ。」
「国王というお立場上、致し方ないことでしょう。」
「そんな冷たいことを言うな。
それに、人払いは済んでいるんだ。
ここでは、そんな取り繕った言葉にしなくていい」
「…はい、父上。」
呼び名こそ変えたものの態度を崩さない俺の対応に苦笑したのもつかの間、父上はソファへと俺を促し、その向かいの席に自身も座る。
さっきまでの優しい雰囲気はどこへやら、真面目な顔に瞬時に切り替え、本題に入った。
「今日のディーの誕生パーティー、恐らく仕掛けてくるだろう。」
何が、とは言わなかった。
でも、それだけでわかってしまう自分が嫌になる。
「そうですか。」
予想していた話とは違ったが、大した反応も見せず淡々と答えた。
俺はあえて、これ以上は何も言わなかった。と言うより、自分のことなどどうでもいいと、どこかで投げやりになっているのかもしれない。
その反応に父上は一瞬傷付いたような表情を見せたが、すぐに元の真面目な顔に戻す。
「お前は聡い。
だが、まだ子供だ。
己の力を過信しないことだ。」
母を愛し、そしてその子供である俺を可愛がってくれているのは知っている。
その父上がいつもの愛情溢れた表情や言葉使いをあえて抑えている。
その厳しい態度は、それだけこれから起こるだろう陰謀を警戒している証だろう。
俺は僅かに眉間に皺を寄せ、思案する。
1番可能性が高いのは、恐らくボルモア公爵だろう。
ボルモア公爵は、正妃クリスティアーノの実兄だ。次期国王の血縁者として権力を手にしたいと躍起になっているのは知っている。
そんな彼にとって、最も邪魔な存在は俺だろう。
俺さえいなければ、何の問題もなくイルバーノは皇太子の座を手にし、次期国王となれるはずなのだから。
先程の雰囲気を幾分か和らげて、父上は言葉を続けた。
「それから、今日はパーティーでの招待客のご令嬢方の対応を任せる。
良いと思う令嬢がいたら、私に言いなさい。
ディーにもそろそろ婚約者が必要だろう。」
あぁ、すっかり忘れていた。
今日はそれが呼ばれた理由だと思っていたのに、いつの間にか話はもっと大きなものになっていたから。
「可哀想…ですね」
ポツリと呟く。
「…なんだって?」
訝しげに父上が俺を見る。
「俺の、婚約者候補になるご令嬢方のことですよ。俺なんかと一緒になったところで幸せになんてなれるはずがないのに。」
自嘲気味に吐き捨てる。
だが、これが俺の本心だ。
王族などでないなら、婚約者ももたず、1人この国を出て、誰も知らない土地へ1人旅立つだろう。
だが、立場上、相手は必要だ。
いつか、王族から除籍してもらうつもりでいるが、それは次期皇太子の地位が明確に決まってからだ。
それまでは、俺は行き長らえなければならない。
俺は権力争いに巻き込まれるつもりはないし、何より、あの女から母上を守らなければならない。
今俺がいなくなれば、きっとあの女は標的を俺から母上に変えて、また母上を貶める策を練るのだろうから。
「ディースレイド」
俺がまた自分の思考に囚われていたら、父上が怒りを滲ませて俺を見つめていた。
何が父上を怒らせたのか、俺はわからずに少し困惑した。
痛みに鈍くなってしまったディー。
愛情を素直に信じられなくなってしまってどんどん拗らせています。




