良い子でいるのをやめました。
それからの俺は、取り繕うのをやめた。
今までは嫌われないように、良い子の仮面をつけてたくさんの努力をしてきた。
確かに生まれたときから頭の回転が早く、魔力も強い子供だった。それでも、その後の努力がなければただの宝の持ち腐れだ。
俺は好かれたい一心で必死に勉強を頑張った。
出来ることはなんだってした。
国の歴史や政を始め、マナーやダンス一通り出来るようになった。
ーそれがいけなかったのだろうー
イルバーノ義兄上は、俺が王太子の座を狙っているのだと勘違いし、あのいじめへと繋がった。
最初から期待しなければ良かったんだ。
俺のような【異端者】は、愛情なんて求めちゃいけなかったんだ。
【異端者】
俺のような強い魔力持ちの人のことを言うらしい。侍女の噂話で耳にした。畏怖と過去の伝承から、揶揄する言葉として用いられているみたいだ。
俺はそれを聞いて物凄く納得した。そうか、俺は異端者だから、人と同じものを求めても仕方ないんだ。期待する方がバカだったのだ、と。
だから、俺は『優しくて賢い王子様』の仮面を捨てた。
人と一定の距離を取り、必要最低限の会話だけする。外向きは今まで通り仮面をつけてにこにこと笑って見せるが、普段は無愛想に周りに悪態をついた。
そんな生活を何年か続けていたら、自然と周りも俺がダメな王子だと思うようになったのだろう。
イルバーノ義兄上もすっかりこちらには興味がなくなったようで、いじめられなくなった。というより、また攻撃されたらと恐れているのかもしれない。
たまに公務などで目が合うと、怯えたような表情をされる。子供心に傷付いたが、俺が悪いので見なかったことにした。
だが、その現状を憂いている人がいた。
「あ、あの…」
「…何か用?」
びくびくしながら俺に声を掛けるのは、最近入ったばかりの新米侍女だ。
不機嫌を隠そうともしない俺の態度にさらに萎縮しているようだ。
「ひっ!も、申し訳ありません。
読書中のところお邪魔して大変申し訳御座いません!
で、ですが、サラ様がお呼びで御座います。」
「…母様が…?」
それは、現国王の側室であり、俺の実の母、サラ母上からの呼び出しだった。